【2024年版】脳卒中患者の感情の問題:退院後生活をStroke Impact Scale (SIS)で評価 リハビリ論文サマリー
論文を読む前に:事前知識
SISscoreについて
ここでは、本論文に出てくるSISscoreについて、ストーリー仕立てで解説していきたいと思います。
登場人物
- 新人療法士: 丸山さん
- 医師: 金子先生(リハビリテーション専門医)
ストーリー
初めてのカンファレンス
丸山さんは、リハビリテーションの新人療法士として、初めて金子先生のカンファレンスに参加しました。今日のテーマは、SIS(Stroke Impact Scale)スコアの理解と活用方法です。
SISスコアの概要説明
金子先生はカンファレンスの冒頭で、SISスコアの基本的な概要を説明し始めました。
金子先生: 「丸山さん、今日はSISスコアについて詳しく説明します。SISスコアは、脳卒中患者の生活の質(QOL)を多角的に評価するための指標です。このスコアは、患者の身体機能、感情、記憶、思考、コミュニケーション能力、ADL(日常生活活動)、参加、手の機能などを評価するために使われます。」
SISスコアの構成
金子先生は、スコアの具体的な構成について詳しく説明を続けました。
金子先生: 「SISスコアは、各領域ごとに評価項目があり、患者自身が自己評価する形式を取ります。具体的には、以下の8つの領域に分かれています。
- 身体機能: 筋力、動きの範囲、体幹の安定性など
- 記憶と思考: 記憶力、注意力、問題解決能力など
- 感情: 気分の安定性、鬱状態の有無など
- コミュニケーション: 話す能力、理解する能力など
- ADL/IADL: 基本的な日常生活活動や複雑な日常生活活動
- モビリティ: 移動能力、歩行能力など
- 手の機能: 手の器用さ、物を掴む能力など
- 参加: 社会活動や趣味への参加度合い
それぞれの項目に対して、患者が感じる困難さの度合いを5段階で評価します。この評価を総合して各領域のスコアを算出し、全体のSISスコアが得られます。」
SISスコアの利用方法
丸山さんは、SISスコアがどのように実際の治療計画に活用されるのかを質問しました。
丸山さん: 「金子先生、このSISスコアはどのように治療計画に役立てるのでしょうか?」
金子先生: 「良い質問ですね、丸山さん。SISスコアは、患者の生活の質を詳細に把握するための重要なツールです。このスコアを利用することで、以下のような利点があります。
- 個別化治療計画の立案: 各患者の弱点や強みを明確にし、個別化されたリハビリテーション計画を立てることができます。
- 進捗のモニタリング: 定期的にSISスコアを評価することで、リハビリの効果を客観的にモニタリングできます。
- 患者とのコミュニケーション: 患者自身が感じている困難や進捗を共有することで、治療への理解と協力を促進します。
- 研究とデータ収集: 脳卒中リハビリテーションの効果を統計的に評価するためのデータとしても活用されます。」
実際のケーススタディ
金子先生は、最近の患者の一例を挙げて、SISスコアの実際の応用について説明しました。
金子先生: 「例えば、最近のケースですが、70歳の男性患者さんがいました。この患者さんは、脳卒中後の右半身麻痺があり、SISスコアを用いて詳細な評価を行いました。その結果、特に感情面と手の機能に大きな問題があることが判明しました。そこで、感情面のサポートとして心理カウンセリングを導入し、手の機能改善のための集中リハビリを行いました。これにより、患者さんのQOLが大幅に向上しました。」
まとめ
丸山さんは、SISスコアの重要性とその実践的な活用方法について理解を深めました。
丸山さん: 「金子先生、SISスコアの具体的な利用方法とその効果について、とても勉強になりました。これからのリハビリテーションに積極的に活用していきたいと思います。」
金子先生: 「そうですね、丸山さん。SISスコアは、患者のQOLを向上させるための強力なツールです。しっかりと理解し、活用していきましょう。」
このストーリーは、新人療法士がSISスコアについて学ぶ場面を通じて、専門医師がその重要性と具体的な活用方法を解説する内容となっています。SISスコアの詳細な評価項目とその利用方法を理解することで、リハビリテーションの効果を最大化することが可能です。
論文内容
カテゴリー
神経系
タイトル
地域在住の脳卒中者:機能がQOLの全てではない Community-dwelling stroke survivors: function is not the whole story with quality of life. ?PubMed White JH, Arch Phys Med Rehabil. 2007 Sep;88(9):1140-6.
本論文を読むに至った思考・経緯
タイトルは機能面以外がQOLに関与することを示唆しており、日々臨床で感じることである。文献上でどう立証するのか興味を持ったため読むことにした。
論文内容
研究背景・目的
地域に在住している脳卒中者の機能面や服薬、社会サービスの利用などをコホート間で比較する。
研究方法
・後ろ向きコホート研究。発症時期により3つの集団に分ける。
①コホート1:1年前に脳卒中を発症した集団
②コホート3:3年前脳卒中を発症した集団
③コホート5:5年前に脳卒中を発症した集団
・それぞれの集団に30名ずつを目安に被験者を集めた。
・アウトカムは障害(Modified Rankin Scale)、認知機能(MMSE)、健康度(Stroke Impact Scale)、QOL(HRQOL)、社会サービス(Multidimensional Scale of Perceived Social Support)。
研究結果
・脳卒中再発につながる疾患を1つ以上有する被験者はコホート1で97%、コホート3で97%、コホート5で87%だった。
・抗凝固薬を服薬しているのはコホート1で73%、コホート3で63%、コホート5で58%だった。降圧剤はコホート1で80%、コホート3で80%、コホート5で61%だった(どちらも退院時の処方)。
・社会サービスの利用はコホート1で60%、コホート3で45%、コホート5で50%だった。
・内容はヘルパー21%、ガーデニング24%、食事作り19%だった。理学療法は19%の利用だった。
・全自立の利用者はコホート1で63%、コホート3で74%、コホート5で73%だった。
・機能面に関してはコホートごとの記録はなく、3コホートを合わせたものをグラフとしている。筋力や感情面が低いことがわかる(図)。
White (2007) より引用
私見・明日への臨床アイデア
ここでは、患者の感情面の改善について考えてきたいと思う。
脳卒中患者の感情面の改善に向けた具体的なアイデア
脳卒中患者は、退院後の生活において感情面での低下が見られることが多く、これが生活の質(QOL)の低下に直結します。笑顔溢れる生活を送るためには、感情面のサポートが重要です。
1. 心理カウンセリングの導入
心理カウンセリングは、患者が感情面での課題を克服するための重要なサポートです。臨床心理士やカウンセラーと連携し、定期的なカウンセリングセッションを提供します。
具体的なアプローチ
- 個別カウンセリング: 個別のセッションで、患者の感情や思考の整理を支援します。
- グループカウンセリング: 同じような経験を持つ他の患者と交流することで、共感とサポートを得られます。
2. ソーシャルサポートネットワークの構築
退院後の生活で孤立しないよう、家族や友人、地域コミュニティとのつながりを強化します。
具体的なアプローチ
- 家族教育プログラム: 家族に対して、脳卒中の影響とサポート方法について教育します。
- 地域サポートグループ: 地域の支援グループや脳卒中サポート団体と連携し、定期的な集まりやイベントを開催します。
3. 生活リズムと活動の計画
規則正しい生活リズムと活動計画は、感情の安定に寄与します。患者が楽しみや達成感を感じられる活動を取り入れます。
具体的なアプローチ
- 日課の設定: 日常のスケジュールを立て、起床、食事、運動、休息などを規則的に行います。
- 趣味活動の奨励: 患者が以前から楽しんでいた趣味や新しい興味を見つけるための支援を行います。
4. 身体活動と運動プログラム
運動は身体だけでなく、精神面にも良い影響を与えます。理学療法士と連携し、患者に適した運動プログラムを提供します。
具体的なアプローチ
- 個別運動プログラム: 患者の体力や興味に合わせた運動メニューを作成します。
- グループエクササイズ: 他の患者と一緒に行うグループエクササイズを実施し、社会的な交流も促進します。
5. 認知行動療法(CBT)
認知行動療法(CBT)は、否定的な思考パターンを変えるための効果的な方法です。専門のセラピストと連携し、定期的なセッションを行います。
具体的なアプローチ
- 個別CBTセッション: 患者とセラピストが一対一で行うセッション。
- オンラインCBTプログラム: オンラインで提供されるCBTプログラムを利用し、場所にとらわれずにサポートを受けられるようにします。
6. リラクゼーションとマインドフルネス
リラクゼーション技法やマインドフルネスは、ストレスを軽減し、感情の安定を促します。
具体的なアプローチ
- 呼吸法と瞑想: 簡単な呼吸法や瞑想を日常に取り入れる方法を指導します。
- マインドフルネスプログラム: 専門家によるマインドフルネスのセッションやプログラムを提供します。
脳卒中患者が退院後も笑顔溢れる生活を送るためには、感情面でのサポートが不可欠です。心理カウンセリング、ソーシャルサポートネットワークの構築、生活リズムの確立、身体活動の推奨、認知行動療法の導入、リラクゼーションとマインドフルネスの実践など、多角的なアプローチを組み合わせることが重要です。
・脳卒中の動作分析 一覧はこちら
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)