【2024年版】舌のリハビリが姿勢・バランスに与える影響、舌への介入の注意点 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
論文を読む前に
金子先生(リハ医): 「こんにちは、丸山さん。今日は、舌が姿勢制御やバランスにどのように影響を与えるかについてお話しする予定ですね。」
丸山さん(新人療法士): 「はい、よろしくお願いします。舌がそのような機能に関わっているとは驚きです。どのような仕組みで影響を与えるのか、具体的に教えていただけると助かります。」
金子先生: 「もちろんです。まず、舌は単に食物を噛んだり飲み込んだりするだけでなく、姿勢やバランスにも深く関与しています。舌の筋肉は、口腔内の感覚と筋力を利用して、姿勢やバランスを保つために重要な役割を果たします。」
丸山さん: 「なるほど。舌がどのように姿勢やバランスに影響を与えるかを理解することで、リハビリテーションにおいても新たなアプローチが可能になるのでしょうか?」
金子先生: 「その通りです。例えば、舌の感覚や運動が影響を与えることで、身体の位置感覚や空間認識が改善されることがあります。具体的な論文を基に、舌の役割を見ていきましょう。それによって、実際のリハビリテーションでどのように応用できるかも見えてくるはずです。」
丸山さん: 「非常に興味深いです。具体的な論文についても教えていただけると嬉しいです。」
金子先生: 「了解しました。それでは、研究を紹介しながら、舌の機能がどのように姿勢制御やバランスに寄与するかを詳しく解説していきましょう。」
論文内容
カテゴリー
神経系
タイトル
舌の位置と立位姿勢の制御Effect of tongue position on postural stability during quiet standing in healthy young males.?pubmedへ Alghadir AH.et al.(2015)
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
繊細な感覚を持つ「舌」の運動・姿勢制御への関与に興味を持ったため。
論文背景
•姿勢制御のための頚部および顎の感覚運動系の役割が確立されている。「舌」は顎の感覚運動系の不可欠な部分であり、食べたり飲んだり話したりするような、精巧で意図のある運動の遂行に役立ちます。
•舌は顎の感覚運動系と密接に関連しており、歯・口蓋・上顎および下顎のようなランドマークの近くに位置するため、その位置および運動に関する情報は、その領域に供給される機械受容器システムにおいて常に利用可能である。
研究目的
•研究目的は、「舌の位置」が姿勢制御システムに与える影響を評価することであった。
研究方法
•116人の正常な健康な男性被験者(平均年齢31.56±8.51歳および身長170.86±7.26cm)がこの研究に参加した。
•不安定面上で静止立位中の平均COG速度と、2つの試験条件下で開眼または閉眼状態で比較した。
(i)いつも通りの習慣的な顎(舌)の位置
(ii)舌を上の前歯につけるように指示された
•COG速度(deg/s)は、NeuroCom(登録商標)を用いて測定した。
研究結果
•結果は、習慣的な位置と比較し、上前歯に位置された状態において、COG速度が有意に低下したことを示す。平均COG速度(deg /sec)値は1.58(習慣的位置)対1.24であった。
•上顎(前歯)に舌をつけた配置は、不安定面上の直立状態で、閉眼した健常若年者の姿勢の安定性を高めた。
•本研究は舌の位置が姿勢制御機構を調節できることを示唆している。
興味深かった内容
•硬口蓋に触れることで舌からの感覚フィードバックを追加する事は、顎および頚部感覚運動システムへの接続を介して、または前庭システムへの間接的な接続を通じて、立位中の姿勢制御を調節する可能性がある。
舌の位置に関する他論文
The acute effect of the tongue position in the mouth on knee isokinetic test performance: a highly surprising pilot study.(Rosa di Vico et ai.2013)
では、舌の位置と下肢機能の関係について研究されている。舌の位置を図のようにMiddle、Up、Low positionと3つの位置において、膝の等速性運動のパフォーマンスを比較した。結果は、Up positionにおいて他と比較して、膝の等速性運動 (90 and 180°/s共に)の顕著なパフォーマンス向上を示した。
明日への臨床アイデア
ここでは、舌が姿勢制御やバランスに及ぼす影響について、さらに学んでいきたいと思います。
1. 舌の機能と姿勢制御との関連
舌は、通常、摂食や発声といった機能に関連付けられていますが、近年の研究では、舌が姿勢制御やバランスに重要な役割を果たすことが明らかにされています。これは、舌筋が頚部および顔面の筋肉と連動して働き、これらの筋群が体の姿勢を安定させるためのフィードバックループに寄与しているためです。
2. 舌と姿勢反射の相互作用
舌の筋活動は、姿勢制御において重要な役割を果たす反射機構に影響を与えることが示されています。具体的には、舌を特定の位置に保持することが、頚部の筋緊張を調整し、身体全体の姿勢反射(例えば、姿勢を維持するための伸張反射)に影響を与えることがわかっています。
3. 臨床研究の証拠
いくつかの臨床研究では、舌の運動や姿勢が、特定のバランス課題において身体の安定性に寄与することが示されています。例えば、舌を前方に突出させるか、または特定の位置に固定することで、立位時の姿勢揺れが減少し、転倒リスクが低下する可能性があることが報告されています。
また、舌の位置を変えることで、足部の筋活動パターンや重心の移動に変化が生じることも示されています。これにより、脳卒中や脳損傷後の患者において、舌を介した姿勢制御トレーニングが有効である可能性が示唆されています。
臨床現場での応用
この研究は、舌の位置が姿勢制御に与える影響を示しており、特に舌を上の前歯に押し当てることで姿勢の安定性が向上することを示しています。この結果を基に、臨床現場での応用を以下の具体的なアイデアとして提案します。
1. 片麻痺患者の姿勢制御訓練
- 背景: 片麻痺患者は姿勢制御に課題があることが多い。この研究結果を活用して、舌のポジショニングを姿勢訓練に取り入れることが考えられます。
- 提案: 片麻痺患者に対して、立位やバランス訓練中に舌を上の前歯に押し当てるよう指導する。この簡単なアクションが、バランスの改善や転倒リスクの低減に寄与する可能性があります。
2. 歩行訓練への応用
- 背景: 姿勢の安定性は歩行能力に直結するため、舌のポジショニングを歩行訓練に応用することが有効です。
- 提案: 歩行訓練時に舌を上の前歯に押し当てることで、患者のバランス能力を高める方法を取り入れる。このポジションを保持することで、患者がより安定した歩行を維持できるようサポートします。
3. 他の感覚フィードバックとの併用
- 背景: 舌のポジショニングと他の感覚フィードバック(視覚、聴覚)を併用することで、リハビリの効果をさらに高めることができます。
- 提案: 舌のポジショニングに加えて、視覚や聴覚フィードバックを組み合わせたリハビリセッションを設計し、患者の全体的なバランス感覚を強化します。例えば、目を閉じた状態での訓練に聴覚フィードバックを加えることで、姿勢制御の多面的なアプローチが可能になります。
4. 簡便なセルフエクササイズの導入
- 背景: この技術は簡便であり、自宅でのセルフエクササイズとしても応用可能です。
- 提案: 患者に舌のポジショニングを使った簡単なバランスエクササイズを指導し、自宅で日常的に実施できるセルフケアとして取り入れます。これにより、リハビリテーションの一環として患者の自主的な努力を促進できます。
5. 新人療法士への教育プログラム
- 背景: 新人療法士がこの関連の手法を適切に活用できるよう、教育プログラムの一部として取り入れることが重要です。
- 提案: 新人療法士のトレーニングプログラムに舌のポジショニングによる姿勢制御法を含め、実際の臨床での応用方法を学習させる。これにより、若手療法士が現場で即座に実践できるスキルを習得させます。
これらの提案を通じて、舌のポジショニングを利用した姿勢制御法を臨床現場でより効果的に活用し、患者の機能回復に貢献することが期待されます。
舌への直接的な介入の注意点
舌への直接的なリハビリテーション介入は、感染リスクやデリケートな部分であることを考慮すべきである。初めて舌へ介入する場合、下記のような注意すべきポイントがあります。
- 衛生管理の徹底: 口腔内は感染リスクが高いため、手指の消毒や手袋の着用、器具の消毒を徹底することが重要です。
- 器具の準備と確認: 使用する器具(例: 口腔鏡、スポンジ、吸引器など)の清潔さや使用方法を事前に確認し、使用前に全ての器具が正しく準備されていることを確認する。
- 患者の口腔衛生状態の確認: 介入前に患者の口腔内の清潔さを確認し、必要に応じて口腔ケアを行う。口内炎や感染の兆候がないかも確認する。
- 事前のコミュニケーション: 患者に介入内容を事前に説明し、不安や抵抗感がないか確認する。患者の同意を得ることが特に重要です。
- 適切な姿勢の確保: 患者がリラックスできる姿勢を確保し、口腔内へのアクセスが容易であることを確認する。これにより、負担を軽減し、効果的な介入が可能となります。
- 舌の感覚確認: 介入前に舌の感覚を確認し、痛みや過敏性がないかをチェックする。過敏な部分には慎重にアプローチする。
- 感染予防策の説明: 患者に対して感染予防策を説明し、必要に応じて患者にも衛生管理を行ってもらう(例: 口をすすぐなど)。
- 連絡手段の確保: 介入中に痛みや不快感、その他の問題が発生した場合に、すぐに対応できるよう患者と連絡を取る手段を確保する(例: 合図を決めるなど)。
これらのポイントを事前に準備・確認し、注意を払うことで、舌へのリハビリテーション介入が安全かつ効果的に行えるようになります。
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)