【2024年最新版】上腕二頭筋と肩関節安定性・上腕骨回旋の関連性とは?効果的リハビリ法と研究まとめ
論文を読む前に
リハビリテーション医師の金子先生が、新人療法士の丸山さんに、上腕二頭筋と肩関節の安定性、上腕骨の回旋との関係、さらに上腕二頭筋が高緊張状態になった際に起こる逸脱した動きや痛みについての講義を行う。
1. 上腕二頭筋と肩関節の安定性、及び上腕骨回旋の関係
金子先生:
「さて、今日のテーマは上腕二頭筋と肩関節の安定、そして上腕骨の回旋にどのように関わっているかという点についてだ。丸山さん、上腕二頭筋が肩関節にどのような影響を与えるかは以前にも話したことがあるけれど、復習してみようか。」
丸山さん:
「はい、上腕二頭筋の長頭は、肩甲骨の関節上結節から始まり、肩関節の安定に重要な役割を果たしていると学びました。特に肩関節が外転や外旋する際、上方から肩を安定させる機能を持っているとのことでしたね。」
金子先生:
「そうだね。その通りだ。上腕二頭筋は肩関節の安定化、特に前方および上方の安定性に関与している。この筋は肩関節に対するダイナミックスタビライザーとして機能しており、肩関節の過剰な前方への移動を防ぎつつ、上腕骨の外旋を制御するんだ。」
2. 上腕骨の回旋と上腕二頭筋の影響
金子先生:
「では、次に上腕骨の回旋における上腕二頭筋の役割をもう少し詳しく見てみようか。丸山さん、上腕二頭筋はどのように上腕骨の回旋に影響を与えていると思う?」
丸山さん:
「肩関節の外旋の際に、上腕二頭筋が肩関節を安定させる働きをするということは理解していますが、具体的にどのように影響しているかは、まだ明確ではありません。」
金子先生:
「肩関節が外旋する際、上腕二頭筋の長頭腱は回旋に伴って腱鞘内を滑り動く。この動きが肩関節に安定性を与え、外旋動作が滑らかに行われるようサポートするんだ。また、肩の内旋時には上腕二頭筋が上腕骨を後方に引き戻し、回旋の範囲を制御する役割も果たす。こうして、上腕二頭筋は肩関節の全体的な運動制御に大きく寄与しているわけだ。」
3. 上腕二頭筋の高緊張状態の影響
金子先生:
「ここからが今日の本題だが、上腕二頭筋が高緊張状態に陥ると、肩関節や上腕骨の運動にどう影響が出ると思う?」
丸山さん:
「高緊張状態になると、筋肉が収縮しすぎてしまい、関節の動きが制限されることがあるのではないでしょうか?」
金子先生:
「その通りだ。上腕二頭筋が過剰に緊張すると、肩関節の安定が損なわれるだけでなく、肩や上腕の動きが逸脱する可能性がある。例えば、上腕二頭筋が過緊張になると、肩関節が適切に外旋できなくなり、内旋優位の状態が生まれやすくなる。これによって、肩関節の前方不安定性がさらに強まる。」
「また、上腕骨の回旋運動が制限されることで、日常動作における上肢の機能が低下し、患者は痛みや違和感を訴えることが多いんだ。これが原因で、肩の運動範囲が制限され、肩関節周囲炎(凍結肩)のリスクも高まるんだよ。」
4. 高緊張による逸脱した動きと痛み
金子先生:
「特に上腕二頭筋の長頭が過緊張になると、肩甲骨の動きが制限されることがある。肩甲骨の動きが制限されると、肩関節全体の動きが乱れてしまい、肩甲上腕リズムが崩れる。これにより、肩関節の動きが不自然なパターンになり、肩の前方部分に痛みが生じることが多いんだ。つまり、過緊張状態が肩の機能に悪影響を及ぼすわけだ。」
丸山さん:
「過緊張によって肩関節や上腕骨の動きが制限されると、患者はどのような具体的な症状を示すのでしょうか?」
金子先生:
「まず、患者は肩の前方や上腕部に痛みを感じることが多い。特に、動作の初期段階で痛みが生じ、肩を動かし始めるときに違和感を訴えることがある。さらに、肩関節のクリック音や、関節が外れそうになる感覚を訴えることもある。これらはすべて、上腕二頭筋の長頭が過緊張状態にあることで生じる典型的な症状だ。」
5. リハビリテーションにおける臨床アイデア
金子先生:
「次に、これらの問題に対してどのようにリハビリテーションで対応していくか、臨床的なアイデアを見てみよう。上腕二頭筋の高緊張を軽減しつつ、肩関節の安定性を回復させるためのアプローチが必要だ。」
6. 高緊張状態に対するリハビリテーションの具体的アプローチ
金子先生:
「まず、上腕二頭筋の過緊張を緩和するためには、ストレッチングや筋膜リリースが効果的だ。上腕二頭筋を穏やかにストレッチし、筋肉の柔軟性を回復させることで、肩関節の可動域を改善する。また、筋弛緩療法を併用し、緊張を低下させることが重要だね。」
「さらに、肩関節を安定化させるためのエクササイズとして、アイソメトリック運動を取り入れると良い。特に、肩関節の外旋を意識したトレーニングを行うことで、上腕二頭筋の緊張を軽減しながら、肩の安定性を高めることができる。例えば、外旋筋のトレーニングや、肩甲骨周囲の筋肉を強化するエクササイズを行うと良いだろう。」
7. 臨床ケースの検討
金子先生:
「例えば、ある患者が肩の前方不安定性を訴えていたとする。この患者の肩は外旋が苦手で、日常生活で肩を内旋したまま動かす癖がある。そこで、まず上腕二頭筋の緊張を緩和し、肩関節の外旋を徐々に促していく。このプロセスを通じて、肩の前方不安定性が軽減し、患者の肩の動きが滑らかになることが期待される。」
丸山さん:
「なるほど、上腕二頭筋の過緊張が肩関節や上腕骨の動きにどのように影響しているかがよく理解できました。今後の臨床で、これらのアプローチをしっかりと取り入れていきたいと思います。」
金子先生:
「そうだね、丸山さん。理論を理解することは大事だが、それをどう臨床に活かすかが重要なんだ。患者の症状をよく観察し、それに合わせたアプローチを提供することが、優れた療法士への第一歩だよ。」
論文内容
タイトル
上腕骨頭の安定化における上腕二頭筋腱の役割The role of the long head of biceps brachii in the stabilization of the head of the humerus?pubmedへ Kumar VP et al.(1989)
本論文を読むに至った思考・経緯
•臨床にて上肢にトラブルを抱える方がおり、上腕二頭筋・三頭筋部分の操作も行う為、よりイメージを鮮明に持てるよう本論文に至る。
論文内容
研究目的・方法
•上腕骨頭の安定化における上腕二頭筋腱の役割を調査するべく、献体15体の肩で研究した。
•上腕骨頭の上方移動は、肩のレントゲン写真にて、肩峰-上腕骨間距離の減少を観察した。
研究結果・考察
•上腕二頭筋の短頭を緊張させると、肩峰-上腕骨間距離の統計的に有意な減少があった。
•上腕二頭筋の長頭または両頭の緊張時には有意な変化はなかった。
•両頭が緊張している間に長頭の腱を切断すると、上腕骨頭が著しく上方に移動した。
•上腕二頭筋の長頭腱の重要な機能の1つは、強力な肘屈曲および主動作筋による前腕回旋中に関節窩に上腕骨頭を安定させることである。
•肩の外科的処置における上腕二頭筋腱の犠牲は不安定性および機能不全を生じ得る。
他論文から追記
•Basmajianら(1957)は上腕二頭筋腱は、肩甲上腕関節における弱い屈曲と内旋として機能することを示した。
•Sakuraiら(1998)は、上腕二頭筋の長頭は、内外旋時に活動的であることを示した。
•Itoiら(1994) Rodoskyら(1994)は上腕二頭筋腱は、肩甲上腕関節のねじり剛性を増加させ、動的な前方安定要素として機能することを示している。
•Role of the long head of the biceps brachii muscle in axial humeral rotation control(Eshuis R ert al.2012)では、研究結果は、解剖学的位置において上腕二頭筋長頭腱への負荷が内旋に作用し、結果として外旋を制限することを示している。上腕骨の回旋に及ぼす上腕二頭筋腱の影響は、肩甲上腕関節の屈曲約45°以上で変化する。上腕二頭筋腱の結節間溝が肩甲骨面の前方に位置する場合、内旋として作用し、肩甲骨面の後方に位置する場合外旋として作用すると示している。
明日への臨床アイデア
上腕二頭筋は、肘の屈曲や前腕の回外だけでなく、上腕骨の安定化や回旋にも重要な役割を果たしています。この特性をリハビリテーションで応用するためには、以下の臨床的なアイデアを考慮することが効果的です。以下では、具体的なアプローチやエクササイズのアイデアをいくつか専門的に説明します。
1. 上腕骨の軸回旋に対するアプローチ
上腕二頭筋が上腕骨の軸回旋に関わる役割を考慮し、回旋機能を強化・回復させるためのエクササイズが重要です。
肩関節の外旋と内旋のアイソメトリックエクササイズ
- 目標: 上腕二頭筋が回旋の動きに対してどのように働くかを認識させ、動的安定性を高めること。
- 方法: 患者に肘を90度に曲げさせた状態で、セラピストは抵抗を加えながら肩関節の外旋と内旋を行う。ここで上腕骨の軸回旋に対する上腕二頭筋の安定性を維持することを意識させる。
- 応用: 回旋に伴う上腕骨の位置安定を確認しながら、抵抗をかけて上腕骨のコントロールを意識させる。
前腕回外運動時の軸回旋エクササイズ
- 目標: 上腕二頭筋の回外筋としての役割を強調し、回旋と安定性を強化する。
- 方法: 前腕回外時に肘を固定し、上腕骨が正しい軸上に回旋するように意識させながら負荷をかける。ダンベルやセラバンドを使って前腕回外の際に上腕骨が過度に回旋しないようにコントロールさせる。
- 応用: 上腕骨の軸回旋が過剰にならないように、前腕の動きに伴う肩関節の微妙な調整を行うエクササイズを取り入れる。
2. 上腕骨頭の安定化に対するアプローチ
上腕二頭筋が上腕骨頭を関節窩に保持する役割に着目したリハビリテーションでは、肩関節の安定性を向上させるために、上腕骨頭を安定させる特定のエクササイズが有効です。
肩関節中立位での安定性強化エクササイズ
- 目標: 肩関節が中立位にある際に、上腕二頭筋が上腕骨頭の安定性をサポートする動きを引き出す。
- 方法: 肘を伸ばした状態で肩関節を外転し、その状態でアイソメトリック収縮を行う。セラピストは患者の肩を支え、肩甲骨が固定されていることを確認しながら、上腕骨頭が安定しているかを評価する。
- 応用: このエクササイズを進めていく中で、上腕骨頭が前方へ移動しやすい患者には、上腕二頭筋のコントロールを意識させ、肩甲骨周囲筋と連動した安定化エクササイズを追加する。
ダイナミックリーチエクササイズ
- 目標: 動的な上腕骨頭の安定性を強化し、日常動作中でも肩関節の安定性を保つ。
- 方法: 肘を軽く屈曲させ、患者に水平面で腕を前方へリーチさせる。リーチ中に上腕骨頭が前方に逸脱しないように、上腕二頭筋を活性化させることに集中させる。手に負荷を持たせて、安定性を保ちながらリーチ動作を強化する。
- 応用: ダイナミックな動きの中で、上腕二頭筋が肩関節の安定化にどのように貢献しているかを実感させ、動作をコントロールさせる。
3. 上腕二頭筋の高緊張状態に対するアプローチ
上腕二頭筋が過緊張状態になると、肩関節や前腕の動作が制限され、痛みや不自然な動きが生じるため、その緊張をコントロールするためのアプローチも重要です。
上腕二頭筋のストレッチと筋膜リリース
- 目標: 上腕二頭筋の過緊張を軽減し、筋肉の柔軟性を回復させることで、肩関節および前腕の動作をスムーズにする。
- 方法: 肘を伸ばし、前腕を回内させることで上腕二頭筋にストレッチをかける。筋膜リリースを行いながら、過緊張した部分を緩める。この際、上腕骨頭の位置が前方へ逸脱しないように注意を払いながら行う。
- 応用: 高緊張が軽減された後、肩関節の安定性を高めるために軽い負荷を用いた動的エクササイズを組み合わせる。
PNF(固有受容性神経筋促通法)を用いた筋緊張調整
- 目標: 上腕二頭筋の過緊張を制御し、肩関節や上腕骨の自然な動きを取り戻す。
- 方法: 上腕二頭筋の筋緊張を調整するために、PNFテクニックを用いて、肩関節と前腕の動作を交互に刺激する。これにより、筋の調整を図りつつ、肩関節の動的安定性を強化する。
- 応用: 上腕骨の回旋や前腕の回外・回内運動に対応したPNFパターンを応用し、上腕二頭筋の筋緊張を効果的に調整する。
4. 複合的な機能回復アプローチ
上腕二頭筋の機能を最大限に活かすためには、肩関節や前腕の他の筋肉群と協調させることが重要です。
肩甲骨安定化と上腕二頭筋の協調トレーニング
- 目標: 上腕二頭筋と肩甲骨周囲筋群の協調動作を促進し、肩関節と上腕骨の安定性を向上させる。
- 方法: 肩甲骨をしっかりと固定しながら、上腕二頭筋を使って肘を曲げる動作を行う。肩甲骨の動きを常に確認し、肩甲胸郭関節の安定性が保たれているかを評価しながらトレーニングを行う。
- 応用: 肩甲骨と上腕骨の動きを協調させるために、セラバンドや軽いダンベルを使って、反復動作を取り入れる。動作の各フェーズで上腕二頭筋の役割を意識させ、肩関節の安定性を高める。
これらのリハビリテーションアイデアを適切に活用することで、上腕二頭筋の機能を引き出し、肩関節および上腕骨の安定化、さらに動作の円滑化を実現することができます。
新人療法士が片麻痺患者の上腕二頭筋に対する介入を行う際のポイント
新人療法士が上腕二頭筋が高緊張の片麻痺患者に対して、上腕骨の外旋動作や肩関節の挙上(屈曲)を促す際に留意すべき専門的な注意点を以下に示します。
1. 評価とモニタリング
- 注意点:患者の筋緊張を定期的に評価し、特に上腕二頭筋の緊張状態を確認します。運動の前後で評価を行い、介入が効果を持っているかどうかを判断することが重要です。
2. 動作の分節化
- 注意点:上腕骨の外旋や肩関節の挙上動作を行う際には、動作を細分化し、肩甲骨と上腕骨の動きを段階的に指導します。これにより、患者が特定の動作に集中でき、筋緊張を緩和しやすくなります。
3. 正しいポジショニング
- 注意点:患者の体位を適切に設定し、肩関節が安定するようにサポートします。特に、肩関節の外旋時には、肩甲骨の動きにも注意を払い、肩関節の正しいアライメントを維持することが必要です。
4. 筋弛緩法の活用
- 注意点: 上腕二頭筋の過緊張を緩和するために、筋弛緩法を用いることが有効です。具体的には、ストレッチや温熱療法を取り入れることが、筋肉の緊張を軽減します。
5. 適切な運動負荷の選定
- 注意点:運動を行う際には、患者の能力に応じた適切な負荷を選ぶことが重要です。過度な負荷は逆に緊張を増加させる可能性があるため、軽度から始めて段階的に負荷を増やします。
6. 疼痛の管理
- 注意点:動作中に疼痛が生じた場合には直ちに中止し、適切な対処を行います。疼痛の発生は筋緊張をさらに悪化させる可能性があるため、患者の反応を常に観察することが重要です。
7. 視覚的・触覚的フィードバックの活用
- 注意点:動作を指導する際には、患者に対して視覚的なフィードバックや触覚的な誘導を行います。これにより、正しい動作を理解しやすくなり、動作の精度が向上します。
8. 運動の一貫性と繰り返し
- 注意点:同じ運動を繰り返し行うことで、筋肉の協調性や動作の習得が促進されます。特に、上腕二頭筋の使い方を意識させることで、外旋動作や挙上の正しい動作を身につけることができます。
9. 姿勢の安定化
- 注意点:上腕二頭筋の活動が肩関節の安定性に影響を与えるため、全体的な姿勢の安定を図ることが重要です。体幹筋群や肩甲骨周囲筋を同時に活性化させることを意識します。
10. 多関節的アプローチの採用
- 注意点: 上腕二頭筋の動きは他の関節(肩甲骨、肘関節)との協調によって成り立っているため、関節間の連動性を考慮した運動プログラムを設計します。これにより、上腕骨の外旋や肩関節の挙上をスムーズに行えるようになります。
これらの注意点を考慮しながら、上腕二頭筋の高緊張を持つ片麻痺患者に対して適切なリハビリテーションを行うことで、運動機能の改善と疼痛の軽減を目指します。
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STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)