肩の安定性が鍵!脳卒中後の手指機能改善のメカニズムとリハビリ法【2024年版】 – 脳卒中/神経系 自費リハビリ施設 東京 | STROKE LAB
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肩の安定性が鍵!脳卒中後の手指機能改善のメカニズムとリハビリ法【2024年版】

論文を読む前に

論文を読む前に、講義形式で脳卒中患者の手指機能と肩関節機能の関係をおさらいしていきたいと思います。

テーマ: 脳卒中後の手指機能と肩関節活動の関係

登場人物

  • 金子先生: リハビリテーション医師
  • 丸山さん: 新人療法士

シーン: リハビリテーション室の一角で、金子先生が新人療法士の丸山さんに対して講義をしている。

金子先生: 丸山さん、今日は脳卒中後の手指機能が肩関節の活動にどのように影響するかについて話しましょう。このトピックは、私たちが上肢のリハビリテーションを設計する際に非常に重要です。

丸山さん: よろしくお願いします。手指の機能が肩関節に影響を与えるというのは少し意外ですね。どういったメカニズムで影響が出るのでしょうか?

金子先生: 良い質問です。まず、脳卒中後の患者において、手指の筋力や運動機能が低下すると、肩関節や肩甲帯の動きにも制限が出ることが多いです。これは、肩関節の安定性と上肢全体の機能が、手指の運動能力と密接に関連しているためです。

丸山さん: 具体的には、どのような関連性があるのですか?

金子先生: 例えば、ある論文では、脳卒中患者の手指グリップ力の低下が、肩関節の外転や外旋の可動域の制限と関連していることが示されています。手指がしっかりと機能しないと、物を持ち上げる際や引き寄せる際に肩関節の運動が過剰になり、結果として肩関節の負担が増え、動きが制限されるというわけです 。

丸山さん: なるほど。手指の機能が低下すると、肩関節の動きが不自然になりやすいということですね。

金子先生: そうです。そして、それだけではありません。脳卒中後の患者は、手指の機能が低下することで肩関節の安定性が損なわれ、痛みや痙縮が起こりやすくなります。これが、肩関節の正常な動きをさらに妨げる要因となります 。

丸山さん: 確かに、肩の痛みがある患者さんには、手を使う動作が困難になることが多いですね。

金子先生: その通りです。また、手指と肩関節の筋肉は神経的にも繋がりが強く、脳の運動野においても近接していることが多いです。そのため、脳卒中によって手指の筋肉を制御する神経経路が損傷を受けると、肩関節の動きを制御する神経経路にも影響を及ぼす可能性があるのです 。

丸山さん: それでは、手指のリハビリテーションを行うことで肩関節の機能も改善する可能性があるということですか?

金子先生: そうです。リハビリテーションの際には、手指と肩関節を個別に考えるのではなく、上肢全体の連動性を意識することが重要です。例えば、手指のグリップエクササイズを行いながら、肩関節の可動域を広げる運動を組み合わせると良いでしょう。このように、手指の筋力を改善することで、肩関節の動きも自然にサポートされるようになります 。

丸山さん: なるほど。上肢全体の連動性を意識したリハビリが大事なんですね。他に具体的なリハビリテーションのアプローチはありますか?

金子先生: はい、例えばミラーセラピーやロボットアシストトレーニング、さらには機能的電気刺激(FES)を使用することも効果的です。これらの手法を組み合わせることで、手指から肩関節までの神経経路を再活性化し、全体的な上肢機能の改善を促進することができます 。

丸山さん: ありがとうございます。非常に勉強になりました。手指と肩関節の連動性を意識したリハビリを早速試してみたいと思います。

金子先生: ぜひ実践してください。リハビリテーションは患者さん一人ひとりに合わせたアプローチが必要ですから、丸山さんの工夫次第でさらに効果的なプログラムが組めるでしょう。頑張ってくださいね。

丸山さん: はい、ありがとうございます!

論文内容

カテゴリー

バイオメカニクス、上肢

タイトル

肩の筋活動に対する指の伸展の効果

The effects of finger extension on shoulder muscle activity

?PubMed Chae-Woo Yi, J Phys Ther Sci. 2015 Sep; 27(9): 2719–2721.

なぜこの論文を読もうと思ったのか?

・臨床コースにて、手指のアプローチが肩関節に影響を及ぼすことを多く経験する。論文で同様のことを扱ったものを探し、見つかったため読むことにした。

内 容

背景・目的

・手のアライメントを整えることで肩関節の動的安定性が向上することを臨床で経験する。しかし、論文で検証したものは少ない。本論文では指の伸展が肩関節の安定性にどう影響するか検討する。

方法

14名の健常成人

EMGを使用し棘下筋と菱形筋の筋活動を記録した。

・被験者は姿勢を正した座位を取り、肩関節を60°屈曲した。手指をリラックスした状態から5秒間手指伸展をした際の上記2筋の筋活動を記録した。

結果

キャプチャ表:実験結果

Chae-Woo Yiより引用

・手指を伸展すると棘下筋の活動が有意に向上したが、菱形筋には影響が出なかった。

明日への臨床アイデア

リハビリテーションの実践への応用

この研究結果に基づき、脳卒中患者のリハビリテーションにおいて、以下のような臨床的アプローチが考えられます。

  • 手指の伸展運動を取り入れたリハビリテーション:肩関節の安定性を高めるために、手指の伸展運動を含む訓練プログラムを導入します。特に、手指の伸展が棘下筋の活動を増加させることがわかっているため、手指のリハビリテーションは肩関節の機能回復においても重要な役割を果たすと考えられます。
  • 多関節連動訓練の重要性:手指と肩関節の連動性を意識した訓練を行うことで、脳卒中患者の複数の筋群を効率的に活性化させることが可能です。手指から肩関節への連動した運動パターンを強調することで、動的安定性を効果的に向上させることができます。

注意点とリスク管理

手指の伸展運動を行う際、無理な力での伸展や反復は避けるべきです。特に脳卒中後の患者は、筋肉の過緊張や痙縮が起こりやすいため、適切な負荷調整と休息を設けることが重要です。また、筋電図を用いたリアルタイムの筋活動モニタリングを行うことで、過度な筋活動や不適切な運動パターンを防ぐことができます。

臨床場面の一例

1. 手指と中枢部の連鎖を意識した介入 (ケース1)

道具を用いた身体化を促していった周辺視で前腕が回内しないよう、肘関節の屈曲と前腕の中間位を維持しながら、小指や環指を中心とした力強い把持を誘導したその際柄の先端で枕を叩くよう促した。枕の適切な反力が得られると、上腕三頭筋や尺側筋群、小指球筋群の筋活動が高まりやすく、小指・環指の強いジストニア様の筋収縮の改善が認められてきた。繰り返しながらハンズオフ(療法士のハンドリングなし)へと移行し、自主練習課題に取り入れた。ノルディック杖は柄が長く適度な重量があり杖の先端を意識するうえで用いやすかった。

2.手→中枢部の安定化へ(ケース2)

介入前の状態:右麻痺側手指が屈曲位となり伸展が困難でした。ペットボトルへのリーチ時に肩甲帯や体幹の弱化に伴う肩甲骨挙上の代償が強かったです。大胸筋や三角筋前部線維を過剰に活用するため、上腕が内旋位で手関節の掌屈が強くなる。結果的に蓋をつまむ動作となりスピードが遅く適切な把持が困難でした。悩みとしては、指がすぐに曲がる。物をつかめず、つまむ形になりやすいことでした。

手内筋の弱化した筋緊張が高まり、外在筋の過緊張・手指の屈曲が軽減してきた段階で肘→肩の姿勢連鎖を進めていきました。前腕の回外と肘の伸展、肩関節外旋、水平内外転を空間位の中で実施しました。空間位だと体幹の側屈が出やすいため、セラピストの膝などで体幹が崩れないよう意識しました。肩甲骨の後傾・下制が得られてくると、リーチ時の肩甲骨挙上が軽減しました。その後、手指が屈曲しない範疇で自宅で再現できる自主トレ運動を伝えました.

新人療法士が注意すべきポイントと事前準備

脳卒中後の手指機能を通じて肩関節の活動を賦活するリハビリテーション介入について新人療法士が注意すべきポイントを以下にまとめます。

注意すべきポイント


  1. 患者の評価と状態の把握

    初回介入前に、患者の手指と肩関節の機能状態を詳しく評価します。筋力、関節可動域、痙縮の有無、痛みの程度などを確認し、介入の適切性を判断します。


  2. 目標の設定

    患者個々のニーズとリハビリの目標を明確に設定します。手指の機能回復だけでなく、肩関節の活動改善も目標に含め、具体的な到達目標を決めます。


  3. 患者への説明と同意取得

    介入の目的、方法、予想される効果について患者とその家族に説明し、同意を得ます。特に新しい方法を試す場合は、その意図と期待されるメリットを十分に伝えます。


  4. 安全な環境の確保

    介入を行う際は、転倒防止などの安全対策を徹底します。特に、肩関節を使った運動でバランスが崩れやすくなる可能性があるため、適切なサポートが必要です。


  5. 段階的な負荷調整

    初回は低い負荷から始め、患者の反応に応じて徐々に負荷を調整します。無理な負荷は筋肉や関節に負担をかけ、痛みや炎症の原因になるため注意が必要です。


  6. 手指の運動と肩関節の連動性の意識

    手指の運動が肩関節にどのように影響するかを理解し、それを患者にも意識させます。手指の動きが肩関節の安定性や可動域にどのように寄与するかを示すことで、効果的な運動を促します。


  7. 痛みのモニタリング

    介入中および後に、肩や手指に痛みが生じていないかを常に確認します。痛みがある場合は、即座に介入を中止し、原因を特定し、適切な対応を行います。


  8. 疲労の管理

    特に初回のセッションでは、患者の疲労度を考慮します。脳卒中後の患者は疲れやすいため、無理のない範囲での運動を心がけ、必要に応じて休憩を取り入れます。


  9. 正しいフォームと技術の指導

    運動の効果を最大限に引き出すために、正しいフォームと技術を指導します。特に、手指の動きを意識させながら肩関節を動かす練習を行い、不適切な動作が肩に負担をかけないようにします。


  10. フィードバックとモチベーションの維持

    患者が行った運動についてフィードバックを行い、改善点や成功点を指摘します。また、患者のモチベーションを維持するために、運動の重要性や進歩について積極的に声をかけ、前向きな姿勢を引き出します。

これらのポイントを踏まえて、新人療法士は安全で効果的なリハビリ介入を行うことができ、患者の上肢機能の回復をサポートすることができます。

退院後のリハビリは STROKE LABへ

当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。

STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。

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