【2024年最新版】アルツハイマー病患者のバランス機能改善と転倒リスク対策:効果的なトレーニング法と環境調整のポイント – 脳卒中/神経系 自費リハビリ施設 東京 | STROKE LAB
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【2024年最新版】アルツハイマー病患者のバランス機能改善と転倒リスク対策:効果的なトレーニング法と環境調整のポイント

論文を読む前に

リハビリテーション医の金子先生が新人療法士の丸山さんにアルツハイマー病患者のバランス機能低下と転倒リスクについて説明する講義の場面

1. バランス機能と認知機能の関連

金子先生「まず、丸山さん、アルツハイマー病(AD)は認知機能の低下に限らず、身体機能の変化、特にバランス機能にも大きな影響を及ぼすんだ。この関連性について説明するよ。アルツハイマー病は大脳皮質や海馬を中心に神経細胞が減少し、記憶や判断力、実行機能が損なわれるけど、それだけじゃない。脳のより深部にある小脳や基底核、前庭系にまで影響が及ぶことがわかっているんだ。」

丸山さん「小脳や基底核も影響を受けるんですね?」

金子先生「そうなんだ。これらの部位は、バランス機能や運動制御に重要な役割を果たしている。小脳は筋活動の調整や姿勢の維持を、基底核は運動の開始や終了を調整している。そして前庭系は体の傾きや位置感覚を管理しているよ。AD患者ではこれらの部位の機能も低下し、バランスが不安定になりやすい。」

2. 神経変性とバランス機能の低下

金子先生「特に注目すべきは、アルツハイマー病の進行に伴う白質変性脳室拡大だね。これらの構造的変化が、脳内での信号伝達を遅延させ、体幹の安定性や四肢の反応速度が低下する。」

丸山さん「白質変性がバランスに影響するんですね。」

金子先生「その通り。さらに、大脳皮質の萎縮は注意力や判断力の低下を招く。これが、患者が周囲の環境や障害物に対して適切に反応できなくなる原因の一つだ。たとえば、急な方向転換や障害物を避ける動作が遅れ、転倒リスクが高まるんだ。」

3. 転倒リスクの評価と予防

金子先生「転倒リスクの評価では、AD患者は身体的要因認知的要因の両方に注意を払わないといけない。身体的要因には、筋力低下、関節可動域の制限、バランス感覚の低下がある。そして認知的要因としては、実行機能の障害空間認知能力の低下だ。」

丸山さん「認知機能の低下が、転倒のリスクにどのように影響するんですか?」

金子先生「たとえば、二重課題を行うときに、認知負荷が増えるとバランス維持が難しくなる。アルツハイマー病の患者は、歩行中に会話をしたり、物を探しながら動いたりする際に、バランスを崩しやすくなる。これは、認知リソースが限られているため、運動制御が疎かになるからだ。つまり、認知負荷がバランス機能をさらに悪化させ、転倒につながりやすい。」

4. 転倒リスクを低減するためのリハビリテーション

金子先生「リハビリの視点から見ると、アルツハイマー病患者のバランス機能を改善し、転倒リスクを低減するためには、運動療法認知的アプローチを組み合わせることが効果的だ。」

丸山さん「具体的にはどんな運動療法が効果的ですか?」

金子先生「AD患者に対しては、体幹安定性を向上させるトレーニングが有効だ。特に、体幹の強化エクササイズや、前庭系を刺激する動的バランストレーニングが推奨される。また、実行機能や空間認知を改善するために、認知課題を含めた運動も重要だ。たとえば、歩行中に単語を逆さまに言ったり、指定された経路を歩くなど、二重課題トレーニングが有効だ。」

5. 振動刺激の活用

金子先生「最近の研究では、AD患者に対して振動刺激が効果的であることも示されている。振動刺激は、筋肉や感覚受容器に直接作用し、バランス機能を一時的に改善する可能性があるんだ。」

丸山さん「振動刺激は、どのように脳や身体に影響を与えるんでしょうか?」

金子先生「振動刺激は、筋肉の固有受容器や皮膚の感覚受容器を活性化させ、脊髄や脳幹における反射的な筋活動を誘発することで、筋力や反応時間を一時的に改善するんだ。また、前庭系の刺激にも寄与する可能性があるため、姿勢の安定性を一時的に高めることができる。これが転倒リスクの軽減につながるんだ。」

6. 歩行能力とバランス機能のモニタリング

金子先生「転倒リスクを抑えるために、日々の歩行やバランス機能のモニタリングも重要だ。これには、患者がどれだけ効率よく歩行できているか、バランスがどれほど安定しているかを定期的に評価することが必要だ。最新のモーションキャプチャー技術や、ウェアラブルデバイスを使って、姿勢制御重心の動きを測定することも、転倒予防の一環として役立つ。」

7. 環境の整備と工夫

金子先生:「最後に、AD患者の転倒リスクを減らすために、環境整備も欠かせない。家の中の障害物を取り除いたり、照明を適切に設定したりすることで、患者が安全に移動できる環境を作ることが大切だ。また、AD患者は視覚認知機能が低下していることが多いため、床の色や家具の配置を工夫して、患者がつまずかないようにすることも効果的だ。」

論文内容

タイトル

アルツハイマー病とバランス機能

Postural Stability in Older Adults With Alzheimer Disease?PubMed Mesbah N et al.(2017)

なぜこの論文を読もうと思ったのか?

・認知症の方の人口は今後さらに増加していくと言われる。認知を障害された方のバランス機能に興味を持ち本論文に至る。

内 容

背景

・65歳以上のアルツハイマー病(AD)の成人の罹患率は2051年までに4倍に増加していると推定されている。

目的

・研究目的は、軽度から中等度のADを有する人々の姿勢の安定性を健常人と比較して姿勢の不安定性に寄与する因子を調べることであった。

方法

・適格性(ADの確定診断、ADと対照の参加者間の測定された姿勢安定性の比較、姿勢の不安定性に潜在的に寄与する測定された因子)について67の試験を評価した。

結果

・軽度から中等度のADを有する高齢者は、健常な同僚(対照)と比較して静的および機能的な姿勢安定性を低下させた。

・二重課題中の注意力の低下と視覚入力の減少が姿勢不安定に寄与する重要な要因であった。

 

明日への臨床アイデア

アルツハイマー病(AD)の患者に対して、バランス機能の改善や転倒リスクの軽減を目指したリハビリテーションアプローチを考える際には、認知機能の低下と神経系への影響を踏まえた多面的なアプローチが求められます。以下に、効果的なアプローチの手順を脳科学的背景を交えて説明し、臨床応用のポイントを示します。

1. 体幹安定性の強化

手順

  • エクササイズ:プランクやブリッジエクササイズなどの体幹安定性を高めるトレーニングを導入します。体幹の強化は姿勢制御の基盤となるため、まずは床やマット上で患者に行ってもらいます。
  • 進行度に応じた調整:初期段階では仰臥位や座位での体幹トレーニングから始め、徐々に四つ這いの姿勢や立位でのトレーニングに進めます。

効果の背景(脳科学的視点)

体幹の安定性は、小脳脊髄反射経路を通じて自律的に制御されます。アルツハイマー病患者では、小脳や基底核の機能低下が体幹の不安定さを引き起こすため、体幹の強化により、小脳の代償機能を高め、姿勢制御能力が向上します。また、運動によって神経可塑性が促進され、体幹を制御するニューロン間のつながりが強化される効果も期待できます。

2. 歩行と動的バランストレーニング

手順

  • 歩行訓練:AD患者にとって重要な活動である歩行能力を維持・改善するために、動的バランストレーニングを組み込みます。一定のリズムでの歩行訓練を基本に、障害物の回避ステップアップダウンなどのタスクを加えます。
  • 二重課題トレーニング:歩行中に簡単な計算や会話などの認知課題を追加することで、認知機能と運動機能を同時に活性化させます。

効果の背景(脳科学的視点)

アルツハイマー病の患者は、大脳皮質や海馬の萎縮により、空間認知能力や運動計画能力が低下します。この結果、歩行時のバランスが悪化します。二重課題トレーニングは、運動と認知の両方を同時に強化し、前頭葉や頭頂葉のネットワークを再編成することで、バランス機能の向上を目指します。また、認知課題を行うことで注意力が向上し、環境に対する反応速度の改善が見込まれます。

3. 静的バランストレーニング

手順

  • 安定した姿勢でのトレーニング:立位や座位で、静的なバランストレーニングを行います。例えば、片足立ちや安定性のない表面(バランスボードなど)でのバランス練習を実施します。
  • 視覚入力の制限:目を閉じた状態でのバランストレーニングも効果的です。視覚に頼らずにバランスを取る訓練を行い、前庭系固有受容感覚の活性化を図ります。

効果の背景(脳科学的視点)

アルツハイマー病患者は、視覚系に頼りがちなため、他の感覚入力(前庭系や体性感覚)への依存を高める訓練が有効です。視覚を制限することで、前庭系と固有受容系が主導となり、脳幹や小脳からの姿勢制御信号を強化します。このアプローチは、神経可塑性を促し、異なる感覚モードの協調を促進します。

4. 前庭系の刺激

手順

  • 振動刺激を活用:市販の振動マッサージャーを用いて前庭系の刺激を行います。前庭器官に振動を与えることで、姿勢やバランスを司る神経回路を活性化します。
  • バランスボードの使用:動的な前庭刺激として、バランスボードやスウィングボードを用いた訓練も有効です。前後・左右への体重移動に合わせてバランスを保つことで、前庭系と体性感覚系の協調を強化します。

効果の背景(脳科学的視点)

前庭系は、頭部の位置や動きを感知し、バランスを維持する役割を担います。アルツハイマー病患者では、この前庭系の機能低下がバランス不全の原因の一つとなります。振動刺激による前庭系の活性化は、脳幹の前庭核や小脳の機能改善をもたらし、バランス制御能力が向上します。

5. 筋力トレーニング

手順

  • 下肢の筋力強化:AD患者は、大腿四頭筋や腓腹筋などの下肢筋力の低下が見られます。椅子立ち上がり運動や階段昇降、レッグプレスなどの筋力強化トレーニングを実施します。
  • 体幹筋の強化:体幹筋(腹筋・背筋)の強化も重要です。シットアップやブリッジエクササイズを通じて、体幹安定性を強化します。

効果の背景(脳科学的視点)

筋力低下は、バランス機能の低下と直接的に関連しています。筋力トレーニングによって神経筋接続が改善され、筋肉の反応時間や出力が向上します。さらに、筋力トレーニングは神経可塑性を促し、運動制御に関与する脳領域(特に前頭葉や運動野)の再編成をサポートします。

6. 歩行補助具の使用と環境調整

手順

  • 歩行補助具の使用:必要に応じて、杖や歩行器などの補助具を用いて歩行時の安定性を確保します。補助具の選択と使用方法を指導し、安全性を確保します。
  • 環境の調整:患者が生活する環境(家庭内の段差や障害物、照明など)を調整し、転倒リスクを最小限に抑える工夫を行います。

効果の背景(脳科学的視点)

歩行補助具の使用により、患者の視覚系体性感覚系の負担が軽減され、転倒リスクが減少します。また、環境調整により、患者の認知負荷を軽減し、安全な動作が促進されます。これにより、アルツハイマー病による認知機能低下が原因で発生する転倒リスクを減らすことができます。

新人療法士がアルツハイマー病の患者様のリハビリを行う際のポイント

アルツハイマー病の患者のバランス機能を改善し、転倒リスクを軽減するためには、個々の患者の特性に合わせたアプローチが求められます。以下に、新人療法士が注意すべき重要なポイントを、先に述べた手法以外でまとめました。

1. 患者のモチベーションと心理的要素のサポート

アルツハイマー病患者のモチベーション低下や不安感は、バランス機能改善の取り組みに影響を与えます。特に、転倒経験がある患者は、再度転倒することへの恐怖心がバランス機能に悪影響を与えます。

対応方法:

  • ポジティブなフィードバックを多用し、成功体験を積み重ねることで、患者の自信を高めます。
  • 患者の進捗に対して小さな目標を設定し、達成感を感じられるように支援します。
  • 心理的サポートを行うことで、患者がリハビリに積極的に参加できるように促します。認知機能の低下に伴う不安や混乱を軽減し、患者がリハビリに集中できる環境を整えることが重要です。

2. 日常生活活動(ADL)におけるバランス訓練の統合

ADLを含めたリハビリテーションは、患者の生活に密着した形で機能改善を促進します。転倒リスクが高い場面(椅子からの立ち上がり、ベッドからの起き上がり、家事など)を実際の生活場面で再現し、バランス訓練を行います。

対応方法:

  • 日常生活における動作(立ち上がり、歩行、階段の昇降など)において安定性を保つ訓練を積極的に導入します。
  • リハビリの一部として家庭での運動プログラムを設定し、家族や介護者と協力して安全な環境を維持しながら進めます。

3. 介護者や家族との協力

アルツハイマー病患者に対するバランス訓練は、患者自身だけでなく、家族や介護者との連携が重要です。特に、自宅での環境整備や日常的なリハビリのサポートを行うため、家族の理解と協力が欠かせません。

対応方法:

  • 家族や介護者に対して、患者のバランス機能の重要性を説明し、自宅での環境改善(滑り止めマットの設置や手すりの取り付け)や介助方法について指導します。
  • 家族に、転倒を防ぐための注意点や、日常のリハビリとして簡単な運動を導入する方法を伝えます。転倒のリスクが高い場面でどのように介助すれば良いかを具体的に教えます。

4. 感覚統合トレーニング

アルツハイマー病患者では、視覚や体性感覚、前庭感覚の統合が不十分であることが多く、これがバランス不良につながります。感覚統合を促進する訓練により、各感覚の連携を強化することができます。

対応方法:

  • マルチセンサリートレーニング:視覚、前庭感覚、体性感覚を統合させた訓練を行います。たとえば、視覚を制限した状態で、触覚や前庭感覚を活用してバランスを保つトレーニングを導入します。
  • バランスボードやクッションなど、安定しない環境での訓練を通じて、感覚間の協調を促進します。

5. 柔軟性と可動域の維持・改善

アルツハイマー病の患者では、筋肉の硬直や関節の可動域制限が見られることが多く、これがバランス能力に影響を及ぼします。可動域の改善と柔軟性の向上は、動きやすさや反応の速さを高め、転倒リスクを低減します。

対応方法:

  • ストレッチや可動域訓練を日常的に実施し、特に下肢の柔軟性を向上させます。特に足首や膝、股関節の柔軟性は歩行や立ち上がりに直接関与するため、重点的に行います。
  • 柔軟性向上に伴う反応速度の改善を意識し、転倒を回避する能力の向上を目指します。

6. 注意力や集中力の向上

アルツハイマー病の患者は、注意力の低下によりバランスを崩しやすくなります。転倒リスクの軽減を図るためには、注意力の向上を図る訓練が重要です。

対応方法:

  • 認知機能訓練と組み合わせた運動プログラム(例:二重課題トレーニング)を導入します。運動中に簡単な計算や会話を行うことで、注意力や集中力を高め、歩行やバランス時の注意欠如による転倒リスクを軽減します。
  • バランストレーニングの際に、患者が動作に集中するように促し、環境からの余計な刺激をできる限り取り除くことがポイントです。

7. 環境の変化に対応する訓練

アルツハイマー病の患者は、環境の変化や予測不可能な状況に対して適応する能力が低下しているため、環境が変わった際にバランスを崩しやすくなります。これに対応するための訓練が必要です。

対応方法:

  • 室内外での環境に合わせた訓練を実施します。たとえば、室内のカーペット上での歩行や、屋外の不安定な路面での訓練など、さまざまな環境に応じた適応力を高めます。
  • 患者が外出する際には、サポートツール(杖、歩行器など)の使用方法を教えるだけでなく、環境の変化に気づき、適切に対応するための訓練を行います。

臨床応用における重要な要素

  • 安全性の確保:常に安全を最優先にし、訓練中に転倒のリスクがないように十分な配慮を行う必要があります。介助者がそばについてサポートすることが重要です。
  • 継続的な評価と調整:患者の状態や訓練の進行度に応じて、リハビリプログラムを定期的に見直し、適切な調整を行います。
  • 家族や介護者との連携:家族や介護者と密に連絡を取り、患者の家庭内での状況や日常生活における進行状況を共有し、転倒リスク軽減に向けた協力体制を築くことが重要です。

これらのポイントを考慮した上で、アルツハイマー病患者に対するバランス機能の改善や転倒リスクの軽減に向けたアプローチを行うことが、新人療法士にとって効果的なリハビリプランの構築に役立つでしょう。

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