【2024年最新版】脳卒中リハビリで空間認知機能を向上させ、運動機能を効果的に改善する方法とは? – STROKE LAB 東京/大阪 自費リハビリ | 脳卒中/神経系
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【2024年最新版】脳卒中リハビリで空間認知機能を向上させ、運動機能を効果的に改善する方法とは?

論文を読む前に

新人療法士の丸山さんが、リハビリテーション医師である金子先生に、脳卒中患者における空間認知機能の障害が身体運動機能にどのように影響するかについて質問し、金子先生がその詳細を説明するシーンです。金子先生は、最新の知見を交えながら、空間認知機能と運動機能の関係性について深く掘り下げていきます。

金子先生: 「丸山さん、空間認知機能が脳卒中患者の運動機能に与える影響について興味があるようですね。空間認知というのは、私たちの身体が周囲の環境や自分の体の位置をどのように把握するか、という感覚です。脳卒中によってこの機能が障害されると、患者は身体運動の計画や実行に大きな問題を抱えることが多いのです。」

空間認知機能と身体運動機能の神経回路

金子先生: 「まず、空間認知機能を司る重要な脳領域について話しましょう。主に頭頂葉(特に右半球の頭頂葉)前頭葉、そして小脳が関与しています。これらの領域が協力して、私たちの身体が空間内でどのように位置しているかを把握し、その情報をもとに運動計画を立てます。」

丸山さん: 「具体的にどのように関与しているのでしょうか?」

金子先生: 「例えば、頭頂葉は体の位置感覚や、目と手の協調を司る役割があります。脳卒中で頭頂葉が損傷すると、患者は物体を正確に掴むことや、身体の動きを正確に調整することが困難になります。小脳は、運動の調整と学習に深く関与し、空間的に正確な運動を行うために重要です。また、前頭葉は運動の計画と実行において重要で、空間認知の情報を基に身体運動を制御します。」

空間認知障害の影響

金子先生:「空間認知の障害が運動機能に与える影響を考えてみましょう。脳卒中後、多くの患者は半側空間無視(hemispatial neglect)という状態に陥ります。これは特に右半球の損傷に見られ、左側の空間を無視してしまう症状です。この症状があると、患者は左側の空間にある物体を認識できず、バランスや姿勢、運動の調整が非常に困難になります。」

丸山さん: 「なるほど、それが運動にどう影響するんですね。」

金子先生:「その通りです。例えば、患者が歩行訓練を行う際、左側の障害により自分の身体の左側がどこにあるのか、どのように動いているのかがわからない状態になると、歩行中にバランスを崩しやすくなり、転倒のリスクも高まります。運動の調整も難しく、例えば物を持ち上げる際に、物を正確に掴めないことや、適切な力加減ができないことが起きます。」

脳卒中後の空間認知リハビリの重要性

丸山さん: 「空間認知のリハビリはどのように行われるんでしょうか?」

金子先生:「空間認知の障害を改善するリハビリには、視覚フィードバック鏡療法が効果的です。例えば、患者が左右のバランスを改善するために、視覚的に身体の左右差を認識させる訓練があります。また、運動イメージトレーニングも有効です。これにより、脳内で運動の計画や実行をイメージさせ、空間的な認知機能を強化します。」

脳科学的視点からの解説

金子先生:「さらに、脳科学的に見て興味深いのは、海馬前頭前野の連携です。海馬は空間的な記憶やナビゲーションを司り、前頭前野は意思決定と運動計画に関与します。これらの領域が脳卒中後に影響を受けると、患者は新しい環境や空間での動きに適応するのが困難になります。」

丸山さん: 「なるほど、それでリハビリではどのような訓練を行えばいいんでしょうか?」

金子先生:「脳卒中後の患者では、タスクオリエンテッドトレーニング仮想現実(VR)トレーニングも効果的です。これにより、患者が現実的な環境の中で、自分の体の位置や空間内での移動を再認識し、バランスと姿勢を改善します。」

空間認知機能と運動学習の結びつき

金子先生: 「最後に、空間認知機能と運動学習の関係についても触れておきましょう。運動学習には、空間認知機能が不可欠です。脳が体の位置や動きのフィードバックを正確に処理しないと、新しい運動パターンを学習することは困難です。そのため、リハビリテーションでは、運動の反復とフィードバックを通じて、脳の神経可塑性を促し、患者が新しい運動パターンを効果的に学べるよう支援します。」

まとめ

金子先生: 「まとめると、脳卒中患者の空間認知機能は身体運動機能と密接に関連しており、空間認知が損なわれることでバランスや姿勢、さらには運動学習能力に影響を与えます。リハビリテーションにおいては、視覚フィードバックや運動イメージトレーニングを駆使して、脳内での空間認知と運動制御の結びつきを強化することが重要です。」

丸山さん: 「大変勉強になりました。空間認知機能を考慮したリハビリの重要性がよくわかりました。」

論文内容

タイトル

空間認知訓練が脳卒中運動機能をより高める

Spatial cognitive rehabilitation and motor recovery after stroke?PMC A.M. Barrett et al.(2014)

なぜこの論文を読もうと思ったのか?

● 臨床において空間認知面の問題が、大きく運動機能に影響を与える事を実感し、空間認知に関わる論文を検索した。

内 容

はじめに

● 脳卒中は、米国および世界的な公衆衛生上の大きな問題である。毎年米国で約795,000人が脳卒中を発症し、脳卒中は医療サービスの費用、投薬、生産性の損失を含む386億ドルとなっています。脳卒中リハビリテーションは、脳卒中者の機能障害を改善するために大きな前進をしていく必要があります。

本論文について

● 本記事では、空間再訓練が脳卒中後の麻痺に対する運動リハビリの効率と有効性を大幅に高めることを提案しています。

空間認知能力とリハビリテーション

● 空間無視は、患者が適切なリハビリテーションを受けて筋力・巧緻性・持久性を構築した場合でも運動の回復・運動学習を阻害してしまいます。Pattersonらは、空間認知能力・バランスおよび身体認識能力等の因子が筋力以上に歩行(移動性)を予測することを見出した。

● Giaquintoらは運動機能は脳卒中後の機能的転帰の重要な予測因子ではないことを報告している。この研究では空間無視・四肢失調・年齢・認知および排泄を行うための認知能力がFIMにおける回復の72%を予測したことを示している。Jehkonenらの研究では、空間無視は日常生活機能を回復する能力を予測し、機能的転帰の独立した予測因子であった。

● Cosettreは、左半球の脳卒中患者グループの言語および運動能力を観察し、頭頂葉病変を有する患者の約半数が、左空間における性能と比較して、右側の空間で運動能力が低いことを見出した。

● Vallarら、Paolucciらは空間無視の視覚的オリエンテーションを改善するための介入が脳卒中後麻痺および運動回復を改善することも報告している。

● Paolucciらは、視覚探索、読書、描写等を用いた空間再訓練をより多くの時間行った脳卒中者が少ない時間の患者よりも運動障害の改善を示したことを報告した。

● 最近の研究では、空間無視を改善するために、集中的な視覚運動訓練を伴うプリズム治療が結果として運動機能の改善をもたらすことが具体的に示されている。 GoedertらおよびMizunoらは空間無視を有する患者は、プリズム適応治療の10日後(2週間、5セッション/週)に有意な運動改善(FIM)を示したことを報告した。

● 運動療法の一部としてルーチンの空間認識再訓練は、脳卒中リハビリテーションの有効性の大きな改善をもたらし得る。

明日への臨床アイデア

空間認知を用いた脳卒中患者の姿勢・バランス訓練において、具体的な神経回路や脳科学的視点を取り入れた手順を説明します。

1. 神経回路・脳科学の視点

脳卒中後の空間認知障害や姿勢制御の問題は、特に前庭系、視覚系、そして体性感覚系が影響を受けやすく、これらの系統が統合されて姿勢制御を行う神経回路に変化をきたします。主に関与する脳領域には、後頭葉(視覚処理)頭頂葉(空間認知)小脳(運動制御)、および前庭神経核が挙げられます。これらの領域が、視覚情報を基に体の位置を認識し、正確な姿勢やバランスの維持に貢献します。

  • 視覚系: 目からの情報が視覚皮質を介して空間の把握に使われます。視覚情報の欠損や歪みによって空間認識に困難を感じ、バランスを崩す可能性があります。
  • 頭頂葉の働き: 頭頂葉は空間認識や自己の体の位置把握に重要な役割を果たします。損傷があると空間の誤認識が起き、姿勢制御が困難になります。

2. 空間認知訓練の具体的手順

1. 視覚フィードバックを用いた鏡療法

  • 目的: 麻痺側の体の認識を促進し、左右差を視覚的に補う。
  • 手順: 患者の麻痺側を見えないようにし、健側の動きを鏡に映し、その映像を見ながら運動を行います。これにより視覚系が麻痺側の動きを補完し、脳内で麻痺側も動いているように認識させることができます。
  • 神経回路的背景: 鏡像運動神経回路が働き、神経可塑性を促進する効果が期待されます。

2. 視覚追従訓練

  • 目的: 頭部や体幹の回旋を伴う動作の際に視覚情報を統合する能力を改善。
  • 手順: 患者に視覚ターゲットを追従させながら、頭部や体幹を動かす運動を行います。視覚と運動の統合を行うことで、体の位置認識とバランス能力を向上させます。
  • 神経回路的背景: 視覚系と前庭系の連携を強化することで、空間認知の改善が見込まれます。

3. バーチャルリアリティ(VR)を用いた空間認知訓練

  • 目的: 視覚的な空間認知の強化。
  • 手順: VRシステムを使用して、患者が仮想空間内で自分の体の動きと環境を視覚的に確認します。これにより視覚を利用したバランス訓練ができます。
  • 神経回路的背景: VRを使用することで、脳の視覚領域と空間認知を担う頭頂葉の活性化を図ることができます。

4. 動的視覚刺激を用いたバランス訓練

  • 目的: 動的な視覚情報に対する姿勢の適応能力を向上させる。
  • 手順: 患者が動く視覚的刺激(例えば、左右に動くスクリーン)に適応しながらバランスを維持する練習を行います。歩行中に視覚的に複雑な環境でもバランスを取る練習になります。
  • 神経回路的背景: 動的視覚情報に基づいた姿勢調節には、小脳と視覚皮質が強く関連し、運動フィードバックとフィードフォワードの精度向上が期待できます。

5. 静的視覚情報を用いた安定性訓練

  • 目的: 静的な環境における姿勢安定性の強化。
  • 手順: 静的な視覚情報の中で、バランスを崩さないように立位や座位の姿勢を維持する訓練を行います。これにより、視覚依存度を調整し、姿勢安定性を高めます。
  • 神経回路的背景: 視覚系を通じて体幹の安定性が脳幹レベルで強化されます。

6. 視覚遮断を用いた感覚依存度の調整

  • 目的: 視覚に依存しすぎない感覚統合を促進。
  • 手順: 患者の視覚を部分的に遮断し、他の感覚(前庭系や体性感覚)を活用してバランスを取らせる訓練です。例えば、目を閉じた状態で片足立ちをするなどの練習を行います。
  • 神経回路的背景: このアプローチは、視覚系の依存度を低減し、感覚情報の多様性を強化します。

3. 姿勢・バランスに影響を与える視覚代償

脳卒中患者では、感覚やバランスに問題が生じる場合、視覚情報を代償的に利用することがよくあります。この代償効果をうまく利用しつつ、視覚に依存しすぎないように訓練を行うことが重要です。視覚に頼る過度の依存は、視覚的な制約がある環境(暗所や複雑な背景など)ではかえってバランスを崩す可能性があるため、他の感覚系も含めた統合的な訓練が必要です。

4. リハビリテーションの効果測定

最後に、視覚依存度とバランス能力の変化を定量的に測定するために、視覚フィードバックを使用したバランス測定や、モーションキャプチャシステムを利用して姿勢の変化を評価する方法も有効です。これにより、視覚情報の利用度合いや感覚の統合性を数値化して評価することが可能になります。

結論

視覚情報は脳卒中患者の姿勢やバランスに強い影響を与えます。効果的なリハビリテーションには、視覚を活用した訓練と、視覚以外の感覚系を強化する訓練をバランスよく取り入れることが重要です。これにより、患者のバランス能力や姿勢制御の改善を最大限に引き出すことができます。

空間認知訓練を用いた姿勢・バランスの改善を行う際のポイント

脳卒中患者に対する空間認知訓練を用いた姿勢・バランスの改善には、専門的な理解と適切なアプローチが求められます。新人療法士がこの訓練を実施する際に注意すべきポイントを以下に挙げます。

1. 空間認知機能の評価

空間認知機能障害がどの程度運動機能に影響を与えているかをまず評価することが重要です。例えば、頭頂葉や小脳の損傷により半側空間無視が見られる場合、評価には線分抹消テスト視覚探索課題が有効です。

2. 視覚フィードバックの活用

視覚フィードバックは空間認知障害の改善に有効です。鏡を用いた訓練やビデオを通じて自分の動きを視覚的に確認することで、脳の再学習を促します。鏡療法映像フィードバックなどが有効です。

3. 運動イメージ訓練

脳卒中患者は、実際の動作が困難な場合でも運動イメージ訓練を用いて空間認知と運動機能の再統合を図ることができます。運動前頭葉視覚系を刺激するため、イメージトレーニングを実際の動作と組み合わせて行うことが推奨されます。

4. バランス練習における多感覚統合の促進

バランス訓練では、視覚、前庭感覚、体性感覚を統合することが重要です。これにより、脳卒中後の感覚統合の不全を補い、姿勢制御を改善します。視覚的な入力が他の感覚システムとどのように統合されているかを考慮し、訓練を行います。

5. 動作中のフィードバックとエラーレスラーニング

姿勢やバランスの動作中には、患者が正しいフィードバックを得られる環境を整えます。エラーレスラーニング(患者が正確に動作を行うように環境を調整する方法)を用いて、神経可塑性を促進します。

6. 課題指向型トレーニングの導入

空間認知訓練は、患者が実際の生活場面で必要なタスクに即した形で行うと効果的です。例えば、リーチ動作や歩行訓練を実際の生活環境を模擬した場面で行い、空間認知と運動機能を統合します。

7. 視覚的な環境調整

訓練中の環境を工夫することで、空間認知を高めることができます。視覚的な目印(ターゲット)を設定し、患者がそれを頼りに運動を行う訓練を行います。適切な距離感や高さを設定することで、患者の空間認知とバランス機能を向上させます。

8. 姿勢の多様性を導入

姿勢訓練には、多様な姿勢や動作を取り入れることが推奨されます。視覚認知機能に依存する姿勢だけでなく、前庭系や体性感覚系を活用する訓練も行い、患者が多様な感覚情報を処理できるように促します。

9. 運動学習と神経可塑性を意識した訓練の反復

空間認知と姿勢制御を改善するためには、反復的な訓練が神経可塑性を引き出すために重要です。神経科学的には、長期的な運動学習には反復とフィードバックが不可欠です。

10. 精神的な集中とモチベーションを支援する

空間認知機能が障害されている患者は、課題に取り組む際に疲れやすく、モチベーションが低下することがあります。患者が集中しやすい短時間の訓練セッションを繰り返し行うことが効果的です。

これらのポイントを押さえることで、空間認知障害を持つ脳卒中患者の姿勢やバランスの改善に効果的なアプローチを提供できます。神経科学的な視点を活用しながら、視覚と身体運動の連携を強化する訓練が重要です。

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