【2022年度版】ペリパーソナルスペースから考える脳卒中後の左片麻痺患者の車椅子操作 – STROKE LAB 東京/大阪 自費リハビリ | 脳卒中/神経系
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【2022年度版】ペリパーソナルスペースから考える脳卒中後の左片麻痺患者の車椅子操作

ストロボ君
ストロボ君
脳卒中患者の治療において「ペリパーソナルスペース」を意識してセラピーできていますか?

 

学生さん
学生さん
そもそも「ペリパーソナルスペース」がわからないです・・

 

ストロボ君
ストロボ君
臨床で非常に重要な部分になるから、ペリパーソナルスペースの基本から実際の患者さんの臨床像とも照らし合わせながら勉強してみようか。

 

 

パーソナルスペース(personal space)とは?

 

 

パーソナルスペースとは、R・ソマーという心理学者が提唱したもので、「対人距離とも呼ばれ、他者が自分に近づくことを許せる限界の範囲、すなわち心理的な縄張り」のことです。

 

ほとんどの人は自分のパーソナルスペースが侵害されると不快感、怒り、不安などを感じます。

 

自分と相手にとってのパーソナルスペースは同一ではないため、特に初対面の場合は、パーソナルスペースに注意が必要です。

 

リハビリ(理学療法・作業療法・言語療法)を実施する際も、下記に注意が必要です

 

・問診の際の距離

・立ち位置

・筋への触診時

 

特に、訪問リハビリでは「家庭という場」でリハビリを実施するためには、「パーソナルスペースの観点からの配慮」を常に忘れないようにすることが大切です。

 

 

ペリパーソナルスペースとは?

 

 

ペリパーソナルスペースとは、身体を取り囲む空間と定義され、視覚、触覚、聴覚情報などの高度な多感覚統合にて身体を覆う領域であり、知覚領域(perceptual space)やグレーゾーンとも言われ1)主に四肢を伸ばせる範囲内の空間情報処理に用いられる用語です。

 

ペリパーソナルスペースは、空間を通して身体の誘導を促進するため、個人の内的なボディイメージと身体図式を周囲の空間と統合する必要があります1)

 

健常者の場合、左右上下にペリパーソナルスペースが広がり、姿勢に合わせてアップデートされる可逆的要素(plastic)を持ち合わせています。

 

脳卒中患者の場合、麻痺側の空間が狭まっていたり、姿勢変化に合わせた情報処理が困難になります。結果的に麻痺側上肢を忘れたり、支持面に合わせた姿勢制御ができなくなります(図1)。

 

ペリパーソナルスペース

 

図1 健常者と脳卒中患者のペリパーソナルスペースのイメージ

図引用:金子 唯史:脳卒中の動作分析 医学書院より

身体図式(body schema)

 

身体図式とは「活動中の身体部位は何か、どこにあるのかを脳に知らせ、絶え間なく更新し続ける身体の感覚運動マップ」と定義され、このような情報は頭頂連合野が主に関与していると考えられています2)。身体の更新された情報をもとに、より適切な運動制御が可能となります。

 

身体図式は一般的には触覚、固有受容感覚、運動感覚情報といった自身の身体情報処理と絡み合わせた表現であり、身体図式とペリパーソナルスペースは密接に絡み合っております(図2)。

 

ペリパーソナルスペースと身体図式の違い 

 

図2 ペリパーソナルスペースと身体図式の違い 

図引用:金子 唯史:脳卒中の動作分析 医学書院より

 

健常者の場合、無意識にベッドの広さ、反力、空間情報を自身の身体感覚と照らし合わせて処理し、リスクのない最適で効率的な運動を作り出すことが可能であります。

 

一方、脳卒中など麻痺に伴う身体図式が低下した場合、寝返りの際にベッドのスペースの広さに過剰に恐怖心を示したり、麻痺側上肢の位置を無視する寝返りを行います。

 

結果的に、肩の痛みが生じるなど、自身の身体と空間情報との関係性をうまく処理できない場合が多いです。

 

 

寝返りの変化動画の症例

 

 

また、車椅子をベッドに効率的な角度でセッティングするような高度な空間情報処理を求められる動作において、特に左片麻痺患者の場合は転倒リスクを伴うセッティングで移ろうとする場面が見られます

 

一般的に左片麻痺患者はオープンスペースでの視空間処理に障害を受けやすく、視覚情報でのオンライン修正が困難であります。この問題はペリパーソナルスペースの欠如と関係性が深い可能性があります。

 

 

左片麻痺患者とペリパーソナルスペース

 

 

 半球注意、記憶、推論、問題解決の制御に関わっているため、右半球に損傷を受けた人はこれらの重要な思考能力に問題が生じる可能性があります。その上、右半球に損傷を受けた人は自身の障害に気づかないことが多いです

 

一般的に、右半球視覚認識、想像力、感情、空間能力、顔認識、音楽認識、3D形状、社会的手がかりの解釈、左手のコントロールなどを司っていると言われています。

 

右半球損傷患者は、ペリパーソナルスペース内での行為の遂行や対象への気づきが欠如しています3)

 

右半球損傷は、認知やコミュニケーション障害を引き起こし、記憶、注意、実行機能(計画、整理、自己認識など)の障害が最も一般的であり、以下のような問題があります。

 

①注意

 

仕事・課題に集中すること、または言われたことや見られていることに集中することが難しくなります

 

②視覚と空間認識

 

左側の視覚野で情報を処理するため、左半側空間無視により、周囲の場所や物体を判断するのが難しくなります。

 

③推論と問題解決

 

問題点があることを認識すること、解決策を生み出すことが難しくなります

 

④記憶

 

以前に学習した情報を思い出すこと、新しい情報を学習することが難しくなります。

 

⑤社会的コミュニケーション

 

比喩などの抽象的な言葉の解釈、予測的な推論、ジョークや非言語的な合図を理解することが難しくなります

 

また、感情表現が薄く、減少することが多く、更に会話中のコメントの選別が困難な場合があります

 

⑥組織化

 

情報整理、計画立案、正しい順序で話をする、指示を与える、会話中に話題を維持するなどのコミュニケーション能力も難しくなります。

 

⑦洞察力

日常生活に影響を及ぼす問題点を認識することが難しくなります

 

⑧オリエンテーション

 

日付、時間、場所を思い出すことが難しくなります

 

⑨音楽性

 

特定の音の聞き取が困難となることで誤解が生じや音色などの音楽性を理解することが難しくなります

 

⑩音声

声が単調または不自然に聞こえることがあります

 

⑪無関心

 

身体的または精神的対応が必要なことでも、深刻な問題がないかのように振る舞います

 

左半身の運動機能・制御の喪失

 

半球損傷は、左半身の麻痺・機能障害生じます 

 

 

 

右半球損傷患者の認知的問題

 

 

右半球損傷患者が直面する最も困難な問題は、自分の半分を失っていることに気づいていないことであります。さらに、自分の症状に対して助けを求める必要性を否定してしまうことがあります。

 

右半球損傷患者は、次のような認知的な課題があります。

 

 

①左半側空間無視

 

左側の人や物に反応することができない、または左側に問題があることを認識していないなどといった症状です。

 

Koeina Liらは半側空間無視の見え方を下記の図2のような左側がぼやけて、鮮明ではないように報告しています4)半側空間無視は日常生活に重大な問題を引き起こす可能性があります。

 

例えば、左腕や左脚を動かすことができることを忘れたり、食事中に左側の食べ物を残したり、左側の髭を剃り忘れたり、さらに左側の物や左側から来た人や車に衝突したりと命の危険性もありうる病態です。

 

 

②病態失認

 

 

障害の存在に対する認識の欠如、または存在する障害への病識の欠如を指します

 

病態失認の患者は、運動障害を否定し、たとえ半身が完全に麻痺していても、どこも悪いところはないと主張します。さらに、麻痺した部位を見せられると,患者はそれが自身の体の一部であることを否定することがあります。

 

実際に身体機能が低下しているにもかかわらず、自分は正常に機能していると思い込んでしい、リハビリテーションを受けることを拒否してしまうことがあります。

 

 

左片麻痺患者の車椅子操作

 

 

自走式車椅子での姿勢

 

 深く腰掛け、 体を前かがみにして動かすのが正しい乗り方です。

 

前かがみになりにくい人は背中にクッションなどを挟むと、前かがみになりやすくなります。足はフットサポートに乗せるようにします。

 

片麻痺者非麻痺側手と足使って車椅子操作を行います。

 

前に進む時はハンドリムのやや後ろを握り、前に漕ぎ出すように車輪を回転させます。

 

片方の車輪を回すと曲がっていくため、非麻痺側の足でコントロールしながら進むようにします

 

右に曲がる時は左手側の車輪を漕ぎ出すように回し、左に曲がる時は右手側の車輪を漕ぎ出すように回しま

 

エレベーターを使用する際は後ろ向きで入り、前向きで出ることが基本となります。

 

注)左片麻痺患者(右半球損傷)は、視覚・空間認識などの障害がある為、左側の壁などへの衝突に注意が必要です

 

 

ストロボ君
ストロボ君
ここからは代表金子が論文を交えて考察を深めていきます

 

peripersonal spaceに関連する論文

 

 

今回はperipersonal spaceに関連する論文ですね。下の図ではreaching spaceとも表現されています。

 

つまり手が届く範囲のスペースの事を意味しています。ヒトって下記のようなpersonal spaceのような外部環境を瞬時に判断し、内部環境と比較しながら運動を実行したり、Feed back処理しています。

 

無意識の事なので普段は意識しませんが、下記のように一流のスポーツ選手はこのような感覚、感覚処理がずば抜けているのだと思います。

 

ですので、単にphysicalな部分ばかりに着目したアプローチではなく、対象物、課題とからめた介入が重要になるのです。

 

いつもプラットホームで寝て治療するセラピストにはこのような考えがあるのでしょうか?

 

もちろん課題ばかりで身体に注意を換気させないアプローチも問題だと思いますが…

 

この感覚はセラピストの感覚にも当てはまるのです。

 

僕もこの記事を書いていた10年以上前よりは、peripersonal spaceを含めた処理能力は高まってきていると感じています。

 

つまり、狙った筋肉や部位、あるいは目的となる課題に対して最適なポジションをとれるようになっているということです。

 

僕も塾をやっていますが、経験年数の浅いセラピストほど、対象者へのポジショニングが非常に下手です。

 

見学している際のポジショニングも下手です。

 

ただこれはすぐに上手くなるものではないですが、日々意識することが大事ですよね。

 

患者さんではなく、早く仕事を終わらせること、上司の目線ばかり気にする、このような事をセラピー中に意識していると、数年後には「典型的パターン」にセラピストが陥るかもしれません…

 

例えば、歩行していても、料理を促していても、身体が休んでいるセラピストです。

 

neuropsych-regions-of-space

 

peripersonal spaceから考える左片麻痺患者さんの車椅子操作

 

 

「peripersonal space」という言葉を聴いたことがありますか?もちろん一般的な用語です。

 

日常急いで歩いていても、無意識に足の下の大きな石をまたいだり、枝をよけたりできます。

 

脳は常に空間をモニターしながら高速に処理して運動しています。この身体周囲で脳が認識可能な手の届く範囲の空間をperipersonal spaceと呼ぶようです。

 

一流のサッカー選手は、このperipersonal spaceが大きいとも言われていますし、一流のバッターはバット先端にまでperipersonal spaceを延長できるとも言われています。

 

ちなみに似たような用語も調べてみました。

 

personal space:Personal space is the region surrounding aperson that effects them psychological in terms of it beingtheir domain or territory, or about which they feel uncomfortable if entered by another Hall, Edward T.(1966). The Hidden Dimension.

パーソナルスペース:心理的に彼らに影響を与える身体の周囲空間であり、もしその中に他人が入ってくれば、不快感を抱いてしまう。

・ peripersonal space:The space within reach of any limb of an individual. Thus to be ‘within-arm’s length’ is to be within one’s peripersonal space.

ペリパーソナルスペース:個々の四肢が届く範囲。それゆえペリパーソナルスペースは手の長さが届く範囲である。

・extrapersonal space:The space that occurs outside the reach of an individual.

エクストラパーソナルスペース:個々の手の届く範囲を超えた空間

 

 

以下の文献より、左片麻痺患者さんの車椅子操作ミスを考えました。

The body schema and the multisensory representation(s) of peripersonal space Nicholas P. Holmes and Charles Spence(2004)より

 

論文は→こちら

 

We might therefore assume that the brain’s processing of objects in peripersonal space is more thorough, more complex, and involves more modalities of sensory information than for objects located in extrapersonal space.

われわれは、エクストラパーソナルスペース内での対象への脳内遂行よりも、ペリパーソナルスペースでの対象への脳内遂行のほうが、より複雑で、より感覚情報モダリティーを多く含んでいると認識している。

 

right hemisphere brain damage, certain patients show behavioural deficits when perceiving objects or performing actions in peripersonal space

右半球損傷患者は、ペリパーソナルスペース内での行為の遂行や対象への気づきが欠如している。

 

患者さんで考えてみました。

 

左麻痺の患者さんが車椅子をこいで、自分の部屋に入って自分のベッドに車椅子をつける場面を想定してみます。

 

ベッドと車椅子が遠い位置(extrapersonal space)では、あまり対象との距離や方向付けにミスは少ないように思えます。しかし、ベッドと車椅子が近づくにつれ(peripersonal space)、うまく車椅子をベッドにつけれない人が多いように思えます。

 

 

患者さんは非麻痺側のみにperipersonal spaceがあったり、屈曲で縮こまっている患者さんはperipersonal spaceが小さくなっていたりするのかもしれません。

 

このperipersonalspace内でいかに、自己と対象との関係性を見出すか?また、peripersonal spaceを左右対称に大きく広げていけるかが、治療において重要になるのではないでしょうか?

 

 

参考文献

 

1) Cardinali L, et al: Peripersonal space and body schema: two labels for the same concept? Brain Topogr; 2009; 21: 252-260.

 

2de Vignemont F: Body schema and body image–pros and cons. Neuropsychologia; 2010; 48(3):669-680.

 

3NP Holmes, C Spence: The body schema and the multisensory representation(s) of peripersonal space. Cogn Process; 2004; 5(2): 94-105.

 

4Korina Li, Paresh A Malhotra: Spatial neglect. Pract Neurol. 2015; 15(5): 333-339.

 

 

 

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