【2025年最新版】脳卒中患者に効果的なスクワットの極意:速度、深さ、リズム、意識する部位を徹底解説!
脳卒中患者のスクワットにおける速度、意識する身体部位、深さ、応用方法
登場人物
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金子先生: リハビリテーション医師
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丸山さん: 新人療法士
金子先生: 丸山さん、今日は脳卒中患者におけるスクワット動作について詳しくお話ししましょう。スクワットは筋力トレーニングとして知られていますが、脳神経学的、バイオメカニクス的に考えると、非常に奥深い運動です。まず、基本的なポイントから確認しましょう。
1. スクワットの基本的な意義
金子先生: スクワットは股関節、膝関節、足関節の協調運動で成り立っています。脳卒中患者にとっては、運動制御の再学習や姿勢保持能力の向上を目的に用いることが多いです。また、下肢筋力だけでなく、体幹の安定性も向上します。
丸山さん: なるほど、全身的な効果を狙える運動というわけですね。
金子先生: その通りです。ただし、脳卒中患者の場合、麻痺側と非麻痺側の筋活動の不均衡や、代償動作が生じやすいので注意が必要です。
2. スクワットの速度
金子先生: スクワット動作の速度についてですが、脳卒中患者の場合、ゆっくりとした動作が基本です。
理由:
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バイオメカニクス的視点
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ゆっくり動くことで、重心移動と筋活動のパターンを意識しやすくなります。
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筋の張力と関節への負荷を適切にコントロールできます。
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脳神経学的視点
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ゆっくりと動くことで、感覚入力が増加し、脳へのフィードバックが高まります。
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運動制御における運動前野と小脳の関与が促進されます。
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丸山さん: 速度を速めるとどのような問題がありますか?
金子先生: 高速で行うと、患者が勢いに頼った動作をしやすく、正しい運動学習が妨げられます。また、麻痺側の筋活動が十分に発揮されないまま動作が終了することもあります。
3. 意識する身体部位
金子先生: スクワットでは、患者に以下のポイントを意識させることが重要です。
1. 足底の接地感
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足底全体を均等に接地させ、特に母趾球、小趾球、踵を意識します。
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接地感覚は体性感覚入力を高め、足部–体幹の連携を改善します。
2. 膝の方向
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膝がつま先の方向に向くように指導します。
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内反や外反を防ぎ、膝関節への負荷を軽減します。
3. 体幹の前傾角度
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過剰な前傾を避け、股関節–膝関節–足関節が連動するようにします。
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体幹の前傾は、脊柱起立筋や腹部筋群の活動を促進します。
丸山さん: 麻痺側の足が浮きやすい患者がいますが、その場合はどう対応すればいいですか?
金子先生: その場合は、非麻痺側への荷重過多が原因であることが多いです。足底への荷重を均等に分配するために、視覚的フィードバック(鏡)や触覚入力を活用しましょう。
4. スクワットの深さ
金子先生: スクワットの深さについては、患者の関節可動域や筋力に応じて調整します。
1. 浅いスクワット(膝関節屈曲角度: 約45度)
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初期段階の患者に適しています。
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太もも前面の筋肉(大腿四頭筋)に焦点が当たります。
2. 中程度のスクワット(膝関節屈曲角度: 約90度)
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体幹–下肢の協調性を高めます。
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股関節伸展筋(大臀筋、ハムストリングス)も積極的に働きます。
3. 深いスクワット(膝関節屈曲角度: 90度以上)
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脳卒中患者には負荷が高い場合が多いです。
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関節や筋肉への負荷が増加するため、十分な筋力と安定性が必要です。
丸山さん: 深くしゃがむことで、どのような利点がありますか?
金子先生: 深くしゃがむと股関節や膝関節周囲の筋活動が増加します。ただし、適切な動作制御ができていないと、亜脱臼や痛みのリスクがあります。
5. スクワットの応用方法
応用1: 鏡を使ったフィードバック
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目的: 自己認識を高め、非対称的な動作を修正する。
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方法: 患者に動作を鏡で確認させ、左右対称性を意識させます。
応用2: 弾性バンドの使用
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目的: 麻痺側の筋力補助。
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方法: 弾性バンドを骨盤に固定し、動作をサポートします。
応用3: 負荷を増加したスクワット
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目的: 筋力向上。
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方法: 負荷を徐々に増やし、深さと速度を調整します。
応用4: 重心の移動を伴うスクワット
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目的: 重心移動能力の向上。
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方法: スクワット中に重心を前後左右に移動させる練習を追加します。
丸山さん: 応用例を増やすことで、患者の機能改善がより効果的になりますね。
金子先生: その通りです。患者ごとに適切なレベルの練習を提供することが重要です。
まとめ
金子先生: スクワットは、脳卒中患者のリハビリにおいて重要な運動ですが、単純な筋力トレーニングにとどまらず、感覚統合、姿勢制御、運動学習に深く関与します。今日の内容をもとに、患者の状態に応じたアプローチを工夫してみてください。
丸山さん: ありがとうございました。早速、実践に取り入れてみます!
論文内容
タイトル
●脳卒中患者のスクワット(Squat)を正しく行う際の注意点とは??
●原著はControl of fast squatting movements after strokeこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●脳卒中患者における立位動作における課題難易度設定を学習しようと思い論文を探した。今回、スクワットを基に脳卒中患者が速度に影響を受けるという文献を見つけ興味を持ち学習に至った。
内 容
背景
●脳卒中後の後遺症である運動障害が速い動きの運動制御、特に姿勢と四肢の動きを組み合わせた姿勢・運動制御にどのような影響を与えるかについてはほとんど知られていない。本研究の目的は、速いスクワット動作(屈伸動作)の運動制御に対する脳卒中の影響を調べることであった。
方法
●脳卒中片麻痺患者17名と年齢を同一にした17名の健常人は、速度の速いスクワットを行いました。床反力計によるデータ、膝の加速度、および大腿直筋、大腿二頭筋、前脛骨筋、ヒラメ筋からの筋電図活動を収集しました。
結果
●脳卒中患者における速度の速いスクワット動作は、速度・加速度の低下、非対称性が観察された。
●膝の動きのタイミングとCOPの移動の釣り合いを取ることが難しかった。
●障害の回復が高い患者はより対称的かつ適応的に麻痺側が活性化した。
論文を読んで臨床へ向けての感想
●脳卒中患者の運動ポイントとしては、速い動きまたは極度に遅い動きなど速度という側面を変化させると四肢間の協調性の低下、質量・重心コントロールが難しくなる傾向があります。また、速度依存で痙縮の影響も受けやすい。速さの変化は一つの課題難易度設定の指標と言えます。スクワット(屈伸)を行う際は、まずは対称的な姿勢を意識し、重心を足と足の間にまっすぐ落とすように動きましょう。その際に、「速度」を意識して行ってみると良いでしょう。何も意識しないで行うと、体の非対称性や痙縮を強めてしまう可能性があることが論文から示唆されますね。
脳卒中患者の麻痺側筋活動や体幹機能を促通するためのスクワット指導手順
以下は、脳卒中患者に対し、麻痺側の筋活動や体幹機能を促進するためのスクワット方法を詳細に解説した手順です。これらの方法は、患者の病態や能力に応じて調整しながら進めます。
準備フェーズ:安全性の確保と評価
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患者評価:
- 筋力測定: 特に下肢(大腿四頭筋、ハムストリングス、腓腹筋)と体幹筋の筋力。
- バランス評価: 立位でのバランス能力(BBSやTUGなど)。
- 関節可動域の確認: 特に膝関節と股関節の可動域。
- 麻痺側の筋電図(sEMG)を使用し、筋活動パターンを事前に確認(可能であれば)。
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安全環境の確保:
- 平らで滑りにくい床を選び、転倒防止のための補助器具(平行棒、壁、ハーネスシステムなど)を用意。
- 必要に応じて介助者を配置。
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初期ポジショニング:
- 靴の装着やインソールを利用して荷重量を均等化する。
- 姿勢を確認し、骨盤のアライメントを整える。
スクワットの指導手順
1. 姿勢の準備
- 患者を股関節、膝関節、足関節が90度に近い角度の椅子に座らせ、骨盤のニュートラルポジションを意識。
- 麻痺側足をできるだけ足底全面で地面に接触させ、荷重感覚を与える。
2. 初期荷重練習
- 麻痺側への意識を促進するため、立ち上がり前に麻痺側足への荷重練習を実施。
- 手技的アプローチ: 麻痺側足の膝上に軽く圧を加え、感覚入力を高める。
- 視覚的フィードバック: 鏡やデジタルバランスボードを用い、荷重量を確認させる。
3. スクワット動作の誘導
- 速度: ゆっくりした動作(3~5秒でしゃがみ、3~5秒で戻る)を推奨し、筋活動を促す。
- 理由:高速では関与筋が限定され、麻痺側の参加が不十分になるため。
- 深さ:
- 初期段階では膝屈曲角度30度程度(クォータースクワット)から開始。
- 進行に応じて膝屈曲60~90度(ハーフスクワット)に拡張。
- 意識する身体部位:
- 骨盤を前傾位に保つよう指導。
- 股関節主導の動きを促し、膝関節への過剰な負担を回避。
4. 麻痺側の筋活動促進
- 手技的促通:
- 麻痺側の大腿四頭筋やハムストリングスに対し、軽度のタッピングや振動刺激を加え筋収縮を誘導。
- 電気刺激併用:
- 麻痺側の大腿四頭筋に低周波電気刺激(NMES)を施し、動作中に筋収縮を補助。
- 設定例: 周波数20~50Hz、オン/オフ比 5:5、出力 10~20mA(患者の耐容度に応じて調整)。
5. 動作中の体幹機能強化
- 意識的な体幹使用:
- 動作中に「おへそを引き上げる」感覚を指導し、腹横筋の活性化を促す。
- タスク練習:
- 上肢を伸ばし、軽い重りを前方に持たせてバランスを取りながら動作を実施。
- これにより、体幹筋の協調性を高める。
応用フェーズ:動的課題の追加
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荷重の左右差補正:
- 麻痺側荷重が少ない場合、麻痺側下肢にウェイトを装着し、意識的な負荷を加える。
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動的バランスの導入:
- スクワット中に患者に軽いボールを左右に転がさせ、体幹の側屈や回旋運動を追加。
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ステップ動作の統合:
- スクワットからの立ち上がり後に一歩前進を行わせ、歩行動作に近い形で筋活動を統合。
フォローアップと進捗評価
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バイオメカニクス的視点での評価:
- 荷重量分布や重心移動を定期的に測定(圧力分布計や動作解析システムを活用)。
- sEMGを用いて、麻痺側筋活動の改善を確認。
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進捗評価指標:
- 立ち上がり速度(タイムドアップアンドゴー)。
- 麻痺側荷重量(左右差10%以内が目標)。
- スクワット中の麻痺側筋電活動(健側比の50%以上が目標)。
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結果のフィードバック:
- 鏡や動画で患者に自身の改善点を示し、モチベーション向上を図る。
注意点
- 膝関節の痛みが出現しないよう、動作範囲やフォームを調整する。
- バランス不良や転倒の危険性がある場合は必ず介助者を配置。
- 心肺機能に問題がある患者に対しては、動作強度を逐次確認。
これらのアプローチは、個別化されたプログラムの一環として実施され、脳卒中患者の運動能力と生活の質を向上させることを目的としています。
新人療法士が脳卒中患者にスクワット指導を行う際の注意点とポイント
以下は、新人療法士が脳卒中患者に対してスクワット指導を行う際に考慮すべき注意点とポイントを挙げています。
1. 姿勢保持能力の評価とアプローチ
- 注意点: 患者が立位での姿勢保持能力に問題がある場合、スクワット動作の前に静的バランスの練習を優先する。
- ポイント: 平行棒や壁を利用し、立位での骨盤・体幹の安定性を確認した後に動作練習に進む。
2. 視覚的・触覚的なフィードバックの活用
- 注意点: 脳卒中後は視覚や触覚が麻痺側で低下している可能性があるため、感覚入力を補助する必要がある。
- ポイント:
- 麻痺側足の位置にテープやマットを配置して視覚的に意識させる。
- 手で骨盤や膝を軽くタッチし、麻痺側の動きを誘導。
3. 動作中の呼吸パターンの確認
- 注意点: 過度な力みで呼吸が止まらないようにする。呼吸停止は血圧上昇のリスクを高める。
- ポイント: 「しゃがむときに息を吐き、立ち上がるときに息を吸う」といった呼吸リズムを明確に指導。
4. スクワット動作の分解練習
- 注意点: 一度に全体の動作を指導するのではなく、分解して練習することで理解と動作効率を高める。
- ポイント:
- 骨盤を前傾させる練習。
- 股関節を後方に引く練習。
- 膝を足先方向に曲げる感覚を順次教える。
5. 動作中の重心位置を適切に保つ
- 注意点: 重心が麻痺側から健側へ過剰に偏ると、麻痺側の筋活動が低下する。
- ポイント: 鏡やデジタル重心計測器を使用して、重心位置が適切かを視覚的にフィードバック。
6. 動作の疲労度をモニタリング
- 注意点: 脳卒中患者は疲労により動作が崩れやすく、筋肉の過剰な緊張や代償動作が増える。
- ポイント:
- 「疲れたら無理せず休む」ことを事前に伝える。
- 疲労が見られた場合は、セット数や回数を調整。
7. 健側の代償動作の抑制
- 注意点: 健側が過剰に働き、麻痺側が非活動的になる可能性がある。
- ポイント:
- 動作中に「麻痺側の足で地面を押す」感覚を繰り返し指導。
- 健側膝の過剰な屈曲や体幹の偏位があれば即座に修正。
8. 感覚統合の促進
- 注意点: 脳卒中後は感覚統合が低下している場合があり、動作中にバランスを崩すリスクがある。
- ポイント:
- 麻痺側足への体重負荷を視覚(鏡)、触覚(タッチング)、聴覚(指導者の声)で補助。
- バランスボードや柔らかいマットを使った変化のある練習を追加。
9. スクワット中の動作速度の個別化
- 注意点: 動作速度が速すぎると正確性が低下し、過剰な筋緊張や代償動作が発生する。
- ポイント:
- 初期段階では「1、2、3でしゃがみ、1、2、3で戻る」といったテンポで練習。
- 動作に慣れてきたら速度を個別に調整。
10. 患者の心理的状態のサポート
- 注意点: 脳卒中後の患者は運動への不安感や失敗への恐怖を抱えることがある。
- ポイント:
- 練習前に「無理せずできる範囲で行えば大丈夫」という安心感を与える。
- 成功体験を積み重ねられるよう、小さな達成目標を設定(例: 麻痺側荷重が10%増加するなど)。
まとめ8
新人療法士が指導する際には、患者の身体的および心理的な状態を十分に配慮し、段階的かつ柔軟なアプローチを心掛けることが重要です。特に、麻痺側の意識促進と代償動作の抑制を重視しながら、適切な評価と指導を行うことで、安全かつ効果的なリハビリを実現できます。
退院後のリハビリは STROKE LABへ
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STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)