【2022年最新】サルコペニアとは?定義と診断基準から原因、フレイルと何が違うの?脳卒中リハビリまで解説
サルコペニアとは
写真引用元:https://gripwisetech.com/2022/05/06/what-is-sarcopenia/
サルコペニア(Sarcopenia)は、“sarx(肉・筋肉)+”penia(減少・消失)”で、加齢に伴って生じる骨格筋量の減少という意味です。
サルコペニアは、筋肉量の減少に伴う筋肉機能(歩行速度または握力のいずれか)の低下と定義されています[1]。
高齢者や座りっぱなしの人、筋骨格系に影響を及ぼす疾患や身体活動を阻害する疾患を持つ患者に最も多くみられます[2]。
そして、身体障害、転倒、死亡率の上昇に繋がります。筋力と有酸素機能の低下は、虚弱(フレイル)の2つの特徴であります。
また、骨粗鬆症の有病率の増加と関連しているため、骨折の発生率が高まります[1]。
サルコペニアの現状
サルコペニアは、60~70歳の人の5~13%、80歳以上の人の50%が罹患していると報告されています。
2000年、世界の60歳以上の人口は6億人と推定されました。
この人口は、2025年には12億人、2050年には20億人に増加すると予想されています。
有病率を控えめに見積もっても、サルコペニアは現在5000万人以上が罹患しており、今後40年以内に2億人以上が罹患すると予想されています[3]。
筋力トレーニングは、サルコペニアを改善・予防するための第一線の治療戦略として考慮されております[4]。
サルコペニアの危険因子
サルコペニアは、加齢に伴って起こる現象であると考えられています。
しかし、程度は非常に多様であり、特定の危険因子に左右されます。
①運動不足
運動不足は、サルコペニアの最も大きな危険因子と考えられています。
50歳前後から筋細胞の数が徐々に減少していきます。
筋繊維や筋力の低下は、運動量の多い患者さんに比べ、座りがちな生活をしている患者さんで顕著に見られます。
マラソンランナーやウェイトリフティング選手などのプロのアスリートでさえ、加齢に伴い徐々に(より緩やかに)筋力が低下していくことが分かっています。
筋繊維の脂肪への置換、線維化の増加、筋代謝の変化、酸化ストレス、神経筋接合部の変性などにより、最終的には筋機能の低下が進行し、虚弱体質になります。
サルコペニアは、主にII型(速筋)筋繊維に影響を与え、I型(遅筋)筋繊維にはあまり影響を与えません。
サルコペニアは、筋繊維のサイズの減少だけでなく、筋繊維の数の減少も生じます。
②ホルモンとサイトカインのアンバランス
加齢に伴うホルモン濃度の低下(テストステロン、甲状腺ホルモン、インスリン様成長因子など)により、筋肉量と筋力が低下します。
極端な筋肉量の減少は、ホルモン同化シグナルの減少と、炎症性サイトカインを介した異化シグナルの促進が組み合わさった結果であることが多いです。
➂タンパク質の合成と再生
サルコペニアでは、体内のタンパク質合成能力の低下と、筋肉量を維持するためのカロリーやタンパク質の摂取不足によって見られる現象であります。
骨格筋では、加齢に伴い酸化タンパク質が増加し、リポフスチン(細胞質内の不飽和脂肪酸の過酸化により形成される不溶性色素)の蓄積に繋がります。
加齢に伴う酸化タンパク質の増加は、タンパク質の酸化速度や酸化タンパク質の分解を支配する多くの因子の濃度や活性に影響を与えていると考えられています[5]。
骨格筋におけるこの酸化タンパク質の蓄積は、サルコペニアにおいて筋力が著しく低下する原因の一つであります。
④運動単位のリモデリング
脳から筋肉に信号を送り、運動を開始させる役割を担う運動神経細胞は、加齢により減少します。
衛星細胞は、筋繊維に接している小さな単核細胞で、損傷や運動により活性化されます。
衛星細胞は、これらのシグナルに応答して、筋繊維に分化・融合し、筋機能の維持に寄与しています。
現在、サルコペニアの原因の一つは、衛星細胞の活性化が不十分であるとする仮説があります[3]。
原因を詳しく解説→こちら
サルコペニアが疑われる場合のスクリーニング・ツール
➀SARC-F(Simple clinical symptom index)
SARC-F は 5 つの質問で構成された質問紙で、以下の5つの項目に対して、
“まったくない”から“とても難しい”まで 0~2 点で回答します。
➀Strength(S;力の弱さ)
②Assistance walking(A;歩行補助具の有無)
➂Rising from a chair(R;椅子からの立ち上がり)
④Climbing stairs(C;階段を登る)
⑤Falls(F;転倒)
その合計点(10 点満点)を算出するカットオフ値は4 点以上であります。
②握力
握力は他の筋力と相関があるため、総合的な筋力の低下を検出するための代理として使用されます。
・測定方法
最大努力にて、利き手での握力(㎏)を計測します。
・測定肢位
両足を自然に開いた安定した立位姿勢で、第2指の第2関節(PIP)を直角にします。
・測定回数
1回(複数回の場合は、成績の良い方または平均を代表値とする)
➂5回椅子立ち座りテスト
下肢の筋力、特に大腿四頭筋の筋力を測定するための代理として、5回椅子立ち座りテストが使用されることがあります[2]。
・測定方法
立ち上がって座る動作(最大努力)の5回反復に要する時間(秒)を計測します。
・測定肢位
開始肢位:椅子座位で両膝は握りこぶし1つ分開けて、上肢は胸の前で腕組みします。
・測定回数
1回(複数回の場合は、成績の良い方または平均を代表値とする)
・MCID(Minimum Clinically Important Difference)
MCIDとは、変化が有益であると解釈できる最小の変化値のことです。
5回椅子立ち座りテストのMCID :2.3秒
写真引用元:https://habs.uq.edu.au/article/2020/04/staying-physically-active-during-isolation-tips-older-adults
サルコペニアに対するリハビリテーション
サルコペニア患者の予後を改善するためには、早期発見と介入が重要です。
高齢者の医療訪問において、身体機能や日常生活動作(ADL)の障害に関してスクリーニングをすることは、日常的に行うべきことであります。
また、転倒の危険性を評価し、予防的な安全対策を実施することが治療戦略の一部となります。また、運動療法はサルコペニア治療の基礎となります。
漸進的な抵抗運動トレーニングは、神経系と筋系の両方に良い影響を及ぼすことがよく知られており、最終的には筋肉量と筋力を大幅に向上させることに繋がります。
筋力運動トレーニングは、サルコペニアの改善と予防のための第一の治療戦略であります。
短期間のレジスタンス運動は、骨格筋のタンパク質合成能力を高めることが実証されています。
レジスタンストレーニング(抵抗運動)と筋力トレーニング(自重運動)の両方が、サルコペニアの予防と治療においてある程度成功する介入であることが示されています。
レジスタンストレーニングは、神経筋系にプラスの影響を与えるだけでなく、ホルモン濃度とタンパク質合成速度を増加させることが報告されています[3][4]。
レジスタンストレーニングと高タンパク質食を組み合わせた時に、相乗的に作用して効果が代々となります。
具体的には、1食あたり20~35gのタンパク質を摂取することが推奨されています。このような量であれば、MPSを最大化するのに十分なアミノ酸含有量が得られるため、加齢による筋肉の減少を最小限に抑えられます。
脳卒中後の退院生活で筋力を維持するための工夫を解説しています↓↓
References
1. Malmstrom TK, Morley JE: SARC-F: a simple questionnaire to rapidly diagnose sarcopenia. Journal of the American Medical Directors Association 2013; 14(8): 531-532.
2. Ardeljan AD, et al: StatPearls [Internet]. 2020.
5. Stadtman ER: Protein oxidation and aging. Science 1992; 257(5074) :1220-1224.
脳卒中後のサルコペニアに関する論文紹介
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タイトル
●脳卒中が両側性にサルコペニアを引き起こす!?
●原著はStroke induced Sarcopenia: muscle wasting and disability after strokeこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●脳卒中後に両側性に筋力低下が見られるケースがほとんどである。そのメカニズムについて学ぶべく本論文に至る。
内 容
脳卒中と廃用性筋萎縮
●脳卒中後、筋の構造変化は発症後4時間で始まります。
●筋力低下は発症1週間以内に非麻痺側にも発生します。筋量減少、繊維断面積減少、筋肉内脂肪沈着増加など長期的変化は、両側性に発症後3週間から6か月の間に起こります。
●脳卒中後の不活動と不動化も筋萎縮の重要な要因です。健康高齢者でも10日間の安静だけで、筋タンパク質合成が30%減少し、筋力が16%減少することが示されています。
●急性期脳卒中患者が入院中、1日に40分未満の身体活動しかできなかったと報告されています。不活動にはインスリン抵抗性を引き起こす影響があり、これはグルコースに依存するエネルギー代謝に影響を与えるだけでなく、インスリンからの同化刺激が減少する原因にもなります。また、健康な高齢者が10日間も安静にしていると、筋タンパク質の合成が30%も減少し、下肢の筋肉から脂肪が6%も減少して、結果として筋力が16%も低下することが明らかにされています。
●脳卒中の根本的な原因には、不活動、全身性炎症の活性化、活性酸素種(ROS)の蓄積など、他の慢性疾患状態にも共通するものがあります。しかし、運動単位の減少やその後のシナプス再形成など、脳卒中に特有の要因も存在します。そのため、脳卒中患者は特有の全身性サルコペニアを発症する可能性が示唆されています。
私見・明日への臨床アイデア
●脳卒中自体による影響、不活動・不動・不使用によって二次的にも筋力低下(サルコペニア)は両側性に引き起こされる可能性がある。麻痺側への介入が主となりやすいが、非麻痺側への介入(全身的な介入)も必要であることが示唆される。廃用が徐々に作られていくため、基本的なフィットネスを上げていくことは重要である。本当に十分な体力筋力があるか、再度見直して頂きたいと思う。
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
脳卒中の動作分析 一覧はこちら
塾講師陣が個別に合わせたリハビリでサポートします
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)