【2024年最新】水分補給が立位バランスと歩行に与える影響とは?脱水予防の効果的なアプローチ法を徹底解説!
・水分補給、脱水が立位バランスや歩行に与える影響を理解する
・水分を摂りたくいない方に対して適切な対応ができる
論文を読む前に
金子先生(リハビリテーション医):「丸山さん、今日は水分補給が立位バランスや歩行に与える影響について話しましょう。これは意外に見落とされがちですが、水分摂取はリハビリ全般において非常に重要な要素です。特に高齢者や脳卒中患者では、脱水が運動機能に大きく影響を及ぼすことが多いんです。」
1. 水分補給が身体機能に与える影響
丸山さん(新人療法士):「水分補給がリハビリに関わるとは驚きです。具体的にどのような影響があるのでしょうか?」
金子先生:「まず、水分補給が不足すると、筋肉のパフォーマンスが低下しやすくなります。筋肉は約75%が水分で構成されており、水分が不足すると筋力低下や筋肉の疲労が生じやすくなります。これが立位バランスや歩行能力に直結するんです。」
2. 脱水による姿勢制御の悪化
金子先生「さらに、脱水状態は中枢神経系にも影響を与え、姿勢制御やバランス機能に悪影響を及ぼすことが論文でも確認されています。ある研究では、軽度の脱水でも脳の前庭機能や感覚入力が乱れやすく、立位時の安定性が損なわれることが示されています。特に脳卒中後の患者では、これがバランス障害や転倒リスクの増加につながります。」
3. 水分補給と筋骨格系の関係
丸山さん:「なるほど、中枢神経や筋肉に直接的な影響があるんですね。ですが、どの程度の脱水が問題になるのでしょうか?」
金子先生「一般的に、体重の1~2%の水分が失われると、筋力や持久力の低下が起こると言われています。また、関節の滑液や椎間板も水分を多く含んでいます。脱水はこれらの構造にも悪影響を及ぼし、関節可動域の低下や関節痛を引き起こし、歩行の円滑さが失われることもあります。関節の滑走性や筋肉の伸展性が低下すると、歩行時の筋出力も不安定になりますね。」
4. 脱水による認知機能の低下と歩行速度の関係
金子先生「加えて、脱水が認知機能に与える影響も無視できません。水分不足は注意力や判断力を低下させ、歩行時に障害物を避けたり、足を正確に運ぶ能力が低下します。特にデュアルタスク歩行のような、複数の課題を同時にこなす歩行には大きな影響を与えることが研究で示されています。」
5. 水分補給と血圧調整の重要性
丸山さん:「水分が全身に影響するのは理解しましたが、血圧に対しても影響があるのでしょうか?」
金子先生「その通りです。脱水が進むと血液量が減少し、血圧が下がります。特に高齢者や脳卒中後の患者は、血圧調整機能が低下していることが多く、立ち上がった時に血圧が急激に下がる、いわゆる起立性低血圧が起こりやすいんです。これは立位バランスの維持を困難にし、めまいやふらつきを引き起こす要因となります。」
6. 日常生活での水分補給のアプローチ
丸山さん:「水分補給の重要性が理解できましたが、具体的にリハビリではどのように取り入れるべきでしょうか?」
金子先生「まず、セッションの前後に患者の水分摂取状況を確認し、適切に水分補給を促すことが大切です。高齢者や認知症を持つ患者は、喉の渇きを感じにくく、自発的に水分を取らないことが多いので、意識して補給させる必要があります。リハビリ中に小まめに水を飲むように指導することも重要です。」
7. 水分摂取が歩行リハビリに与える影響
金子先生「水分補給が歩行リハビリにも直結するということを常に念頭に置いてください。脱水状態の患者では、歩行時に筋力低下や疲労感が早く現れやすく、リハビリの効果が十分に発揮されないことがあります。これを避けるためには、セッション中も定期的に水を飲むように指導することが大切です。」
8. 飲料の選択肢とリハビリへの影響
丸山さん:「水分補給と言っても、どのような飲料が適しているのでしょうか?」
金子先生「水はもちろん最適ですが、電解質を含むスポーツドリンクや、必要に応じて経口補水液も有効です。これらは特に大量の汗をかくような運動や長時間のリハビリセッションの後に、失ったナトリウムやカリウムを補うことができ、筋力維持に寄与します。」
9. 水分補給と歩行訓練の連動性を高めるための工夫
金子先生「リハビリテーションの一環として、患者自身が水分補給の重要性を理解し、自主的に水を取る習慣を身につけさせることも重要です。リハビリの合間に小休憩を挟み、そのタイミングで水を飲むことを推奨します。また、気温が高い時期や体調に応じて、こまめな水分補給を推進します。」
10. リハビリの個別化と水分管理
丸山さん:「それぞれの患者に適した水分管理方法を考える必要がありますね。」
金子先生「そうですね。リハビリの計画に合わせて水分補給も個別に考慮し、各患者の体重、年齢、病歴に基づいて適切な量の水分摂取を提案しましょう。また、患者が飲むのを忘れないよう、リマインダーを設定したり、歩行訓練の前後で必ず水を飲むルーチンを作ることも有効です。」
まとめ
金子先生「水分補給は、歩行能力や立位バランスに重要な影響を与える要素です。患者の脱水状態を常に意識し、適切な水分補給を促すことが、リハビリの効果を最大化させる鍵になります。これからの臨床でも、患者が水分を十分に摂取しているかを確認しながら、全体のプログラムに反映させてください。」
丸山さん:「水分補給がここまで大きな影響を与えることがわかり、とても勉強になりました。今後のリハビリにしっかりと活かしていきます。」
論文内容
タイトル
●身体能力に対する水分補給の重要性
●原著はHydration and physical performanceこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●「運動前に水分を取りましょう」と言うことが多い。体の動きに対する水分の重要性を何となく知っていたため。しかし、その背景を十分に理解していないと思い本論文を読むに至った。
内 容
体の水分の重要性
●体の水分の重要性は一般的に知られていますが、多くのアスリートは、運動中および運動後の水分補給の影響を真剣に考えていません。
●水は血液量を維持し、体温を調節し、筋の収縮に関与します。
●発汗は自律神経系によって調節され、視床下部によって無意識下に制御されます。
●水分を摂取すると、運動中に失われた水分が補給されます。体の水分の状態が回復すると、正常な筋機能が維持され、身体能力の低下を防ぎ、熱ストレスのリスクを軽減します。
●熱ストレスの症状は、頻脈、低血圧、過呼吸、嘔吐、下痢、発作、昏睡です。これらの深刻な影響にもかかわらず、多くのアスリートは水分補給が運動能力に及ぼす影響を真剣に考えていません。
●体重の2%に相当する汗が失われると、身体的および精神的パフォーマンスが著しく低下します。
●身体活動中に体重が5%以上減少すると、作業能力が約30%低下する可能性があります。脱水症状が仕事の能力に影響を与えることに加えて、体重の2%を超える発汗の喪失は、吐き気、下痢、嘔吐、胃腸の問題のリスクを高めます。
●脱水症は、血液量の減少、皮膚の血流の減少、発汗量の減少、熱放散の減少、体の深部温度の上昇、およびグリコーゲンの使用率の増加を引き起こす可能性があります。脱水により血漿量が減少し、血液の粘度が上昇すると、中心静脈圧が低下し、心臓に戻る血液の量が減少します。運動強度のピーク時には、これらの変化により、拡張期に心臓に入る血液の量が減少する可能性があります。心臓に入る血液が少なくなると、収縮期、つまり心臓が収縮する段階で心臓から出る可能性のある血液の量が減少し、その結果、心拍出量が減少します。
● 18歳以上の成人男性は約4リットルを消費する必要があります。 18歳以上の女性は約3リットルの水を飲む必要があります。
●水は、運動能力に関係する化学反応の大部分に関与しています。アスリートが最大限の身体能力を発揮するには、身体活動の前、最中、後に水分補給することが重要です。
明日への臨床アイデア
水分がどれ程大事か本論文を読むことで再確認できましたが、高齢者では「飲みたくない」と水分を飲むことを拒否する方も多いと思います。
高齢者が水分摂取を拒否する場面では、適切な対応と工夫が重要です。水分補給を促す具体的な方法をいくつか手順を踏まえて紹介します。特にリハビリ中や運動後に水分補給をしっかり促すために、以下の方法を実践してみてください。
1. 小まめな水分補給の習慣を作る
- ステップ1:リハビリや運動の前後に「少しだけ飲みましょう」と提案し、少量でも頻繁に飲む習慣を作る。
- ステップ2:一気に大量の水を飲むのではなく、小さいコップで1〜2口ずつ、回数を増やして提供する。
- ステップ3:特にセッション中の休憩時間に水を提供することで、無理なく少量ずつ飲むことを促す。
2. 好きな飲み物を取り入れる
- ステップ1:患者の好みに合った飲み物を用意する。水以外にも、無糖のお茶やフルーツウォーターなどの選択肢を提供し、水分補給の楽しさを引き出す。
- ステップ2:あまり冷たい飲み物が苦手な方には、常温や温かいお茶などを提案する。
- ステップ3:患者に「どれが飲みやすいですか?」と選ばせることで、飲む意欲を引き出す。
3. 経口補水液やゼリーを利用する
- ステップ1:高齢者が水分を嫌がる場合、経口補水液(OS-1など)や水分を含むゼリータイプの補水食品を提案する。ゼリータイプは飲みにくさを軽減し、楽に摂取できるため有効。
- ステップ2:ゼリー状の食品や補水アイスは食べる感覚で取り入れられるため、水分摂取を心理的に楽に感じさせる効果がある。
- ステップ3:運動後に「このゼリーを食べると体がすっきりしますよ」と提案し、リハビリ後のルーチンに組み込む。
4. 1日の水分摂取目標を設定し、視覚化する
- ステップ1:個々の患者に適した1日の水分摂取目標を設定する。例えば、1日にコップ5杯(約1.2L)の水を目標とする。
- ステップ2:視覚的にわかりやすく、飲んだ量を記録できるグラフやチェックシートを使うことで、どれくらい飲んだかを患者自身が確認できるようにする。
- ステップ3:リハビリのたびに「今日はこれだけ飲んでますね、もう少しで目標です」と、進捗を確認しながら褒めることで、継続的な動機づけを行う。
5. 水分摂取のタイミングをルーチン化する
- ステップ1:毎日の生活の中で水分を取るタイミングを決める。食事の前後、起床時、リハビリ前後など、ルーチンとして取り入れる。
- ステップ2:リハビリ中に「今は水分をとる時間です」と定期的に声かけを行い、リズムに組み込む。
- ステップ3:特に運動後には「今体が水分を欲しがっています」と説明し、自然な形で水分補給を促す。
6. 水分補給の重要性を具体的に説明する
- ステップ1:患者に対して「水を飲むと体が軽くなり、疲れにくくなります」と具体的な効果を伝える。例えば、筋肉の疲労回復や血圧の安定、便秘の予防などの実際の利点を話す。
- ステップ2:脱水症状のリスクや、立ち上がりや歩行が困難になる可能性について説明し、水分を取ることでリハビリが楽になることを強調する。
- ステップ3:説明の際に難しい言葉を避け、簡単でわかりやすい表現を使うことが重要です。例えば、「喉が乾く前に少しずつ飲むといいですよ」というようなアプローチが有効です。
7. 水分摂取を楽しい時間にする
- ステップ1:患者が飲む時間を楽しいものにするため、リハビリの合間に一緒に話をしながら水分補給を促す。気分転換として飲むことを勧める。
- ステップ2:周りの人と一緒に水分を取る「水分補給タイム」を設けることで、グループでの連帯感を感じさせ、飲みやすくする。
- ステップ3:リハビリの進捗に合わせて「水を飲むことで体がどんどん良くなっていきます」と褒めることも動機付けにつながります。
8. 水分摂取と食事を関連づける
- ステップ1:水分摂取を食事に関連付けて、例えば食事の前に一口水を飲む習慣を作る。食事の際にスープや水分が多い料理を提供することも有効です。
- ステップ2:果物や野菜(例えばスイカやきゅうりなど)を取り入れて、食事の中から水分を自然に摂取する方法も推奨します。
- ステップ3:食事の際に飲む水やお茶を少量ずつ取り入れることで、無理なく水分補給を行う。
9. テクノロジーを活用する
- ステップ1:デジタルデバイスやアプリを使って、水分補給のリマインダーを設定する。スマートフォンのアラームや通知を活用して、「今は水を飲む時間です」と促すことができます。
- ステップ2:電子時計やウェアラブルデバイスを利用し、水分を飲む時間や量を記録して進捗を確認する。
- ステップ3:テクノロジーを使うことで患者の意識を高め、セルフモニタリングの習慣を作りやすくします。
10. 環境を整える
- ステップ1:手の届く場所に水を常に置いておき、患者が飲みやすい環境を整えます。たとえば、ベッドサイドやリハビリの機材のそばに水を置くことで、いつでも手軽に飲めるようにします。
- ステップ2:高齢者が持ちやすいカップやストローを用意し、飲みやすさを工夫します。握力が弱い患者には軽量で持ちやすいコップや取っ手付きの容器を使うとよいでしょう。
- ステップ3:環境を快適にし、特に暑い季節にはエアコンや扇風機を使って快適な気温を保ち、水分摂取の妨げとなるストレス要因を減らすことも大切です。
これらの方法を用いれば、高齢者に無理なく水分補給を促すことができ、脱水によるバランス障害や運動機能の低下を防ぐことができます。患者に合ったアプローチを見つけることで、より効果的なリハビリテーションを提供できるでしょう。
水分補給における医学的豆知識
水分補給に関して、医学的な豆知識を紹介します。これらは臨床現場で役立つ情報や最新の知見に基づいた内容です。
1. 高齢者の感覚機能の低下と脱水
高齢者は喉の渇きの感覚が鈍化しているため、脱水リスクが高いことが知られています。加齢に伴い、視床下部の渇き感知機能が低下し、体が水分を必要としているサインを感じにくくなります。そのため、定期的に水分補給を促す必要があります。
2. 尿濃縮能力の低下
高齢者は腎機能の低下により尿を濃縮する能力が弱まります。これにより、体内で水分を保持する機能が低下し、尿量が増えて脱水になりやすい傾向があります。腎機能に応じた水分摂取量の調整が必要です。
3. 水分補給と血圧調整
水分補給は血圧の維持に重要です。脱水状態になると血液量が減少し、低血圧やめまいを引き起こすリスクが増加します。特に、姿勢性低血圧の高齢者では、水分補給が転倒予防にもつながります。
4. 口腔乾燥症と水分摂取の関係
高齢者では唾液の分泌が減少し、口腔乾燥症(ドライマウス)が生じやすくなります。これが咀嚼や嚥下機能に影響を与え、食欲低下や栄養状態の悪化につながります。水分補給は唾液の分泌を促し、口腔環境の改善にも寄与します。
5. 水分摂取と体温調節機能
高齢者は体温調節機能が低下しているため、特に暑い環境では脱水による熱中症リスクが高まります。汗をかいても体温調節が十分にできないことがあるため、運動やリハビリ時には適切な水分摂取が不可欠です。
6. 水分と腸内環境の改善
水分摂取は便秘の予防にも役立ちます。高齢者では腸の蠕動運動が低下しやすく、便秘が生じやすいですが、水分を十分に摂取することで便の硬さを緩和し、腸内環境を改善します。リハビリ中に水分摂取を推奨することで、排便リズムの改善を図れます。
7. 低ナトリウム血症のリスク
過剰な水分摂取は、特に高齢者や腎機能が低下している患者において低ナトリウム血症(希釈性低ナトリウム血症)を引き起こすリスクがあります。適度な電解質補給(例えば、経口補水液)を併用することが推奨されます。
8. 水分補給と筋力低下の防止
水分不足は筋力低下や筋肉の痙攣を引き起こす可能性があります。水分補給は、筋肉の代謝をスムーズにし、筋力維持やリハビリテーション効果の向上に寄与します。また、筋肉量の減少は水分不足による代謝異常とも関連があるため、十分な水分摂取が必要です。
9. 水分摂取と睡眠の質
水分バランスは睡眠の質にも影響を与えます。脱水は血液の粘性を高め、夜間の血行不良や筋肉のこわばりを引き起こし、睡眠の質を低下させることがあります。睡眠前の適度な水分摂取は、良質な睡眠をサポートしますが、夜間頻尿を避けるためにはバランスが重要です。
10. 食事からの水分補給も重要
水分は飲料からだけではなく、食事からも摂取できます。スープ、果物、野菜(きゅうり、トマト、スイカなど)には高い水分含有量があり、高齢者が飲み水を避ける場合には、これらの食品を利用することで無理なく水分を摂取させることが可能です。
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)