【2022年最新版】 電気刺激療法(FES / NMES)を用いた片麻痺患者に対するリハビリの基礎~臨床応用 脳卒中/脳梗塞論文サマリー
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論文に入る前に
近年、電気刺激を用いたリハビリテーションが盛んになってきてますよね。
まだまだ電気刺激を用いたリハビリの効果の理解や臨床応用が出来ていない人の方が多いんじゃないでしょうか。
まずは、電気刺激に関する基礎知識をおさらいしてみましょう!
神経筋電気刺激の基礎知識
神経筋電気刺激(Neuromuscular Electrical Stimulation:NMES)はおおまかに下の3種類に分けられます。
経皮的電気刺激(TENS:Transcutaneous electrical nerve stimulation)
・・疼痛の軽減を目的とする非侵襲的な治療法です。痛み等の侵害刺激は直径の細い線維を介して脊髄後角へ入ります。TENSを用いると直径の太い神経線維が刺激されます。後角の所で細い神経線維を介する痛みの感覚の伝達を遮断します。それによって鎮痛・除痛効果が得られます。
治療的電気刺激(TES:Therapeutic electrical stimulation)
・・TESは筋力強化、筋活動の再教育、循環の改善、組織の癒着防止、関節可動域の維持と改善、骨萎縮の予防と改善、疼痛軽減などを目的として行われます。FESよりも運動機能により焦点を当てたものです。
機能的電気刺激(FES:Functional electrical stimulation)
・・脳卒中や脊髄損傷など中枢神経系の障害によって失われた運動機能を電気により代償し、動作の再建を図る目的として行われるものです。
電気刺激(NMES)は、筋力増加、廃用症候群による筋萎縮の予防や改善に応用できると報告されています。
また電気刺激の最大の特徴は、
一般的に筋収縮は小さい運動単位(typeⅠ線維)から動員されるのに対して
電気刺激では大きい運動単位(typeⅡ線維)から動員されることです。
これは速筋が選択的に障害を受けやすい脳卒中患者の治療にとても有効なんです。
詳細は下の記事を参考にしてみて下さい。
電気刺激の臨床応用
電気刺激は、
などが現在リハビリで使用されています。
脳卒中患者では大雑把に言えば、
【通常の電気刺激】は
●随意運動が見られないもしくは著明に出力が弱い患者の運動単位の動員をアシストし関節運動を引き起こすために使用
●筋感覚フィードバックとして使用
●感覚閾値を超えた付近で用いることで感覚促通練習として使用
アイデア次第ではありますが、上記のような使用は良くされると思います。
【筋電駆動型電気刺激】は
●随意運動が見られ、筋電で筋活動を拾うことが出来る患者を対象として使用
●主に課題志向訓練の場で用いられ、十分に自身でコントロールできない筋活動に対してサポート的な意味合いで使用
筋電駆動型では同時収縮が強い患者は、双方向で信号を拾ってしまう可能性があるので患者の反応や目的に応じて電気機器の種類や刺激強度を使い分けていく必要があります。
電気刺激貼付部位
電極の貼付部位は、脳卒中患者においては手指では総指伸筋、下肢では前脛骨筋に貼付されることが多い印象です。
共に、随意コントロールが難しい筋を対象にしています。
近年では、複合的に電極を貼付することがより効果的との報告もなされています。
歩行においては機能的運動単位(モジュール)という概念を用いて電気刺激の組み合わせを実施すると良いと思います。
例えば、遊脚期であれば足関節背屈(前脛骨筋)への電気刺激に同じ相で活動する股関節屈筋の大腿直筋近位に貼付するなどは有効です。
海外では「FAST FES」というワードが聞かれるようになっています。詳細は下の記事を参照してください。
脳卒中患者では前脛骨筋だけでなく、下腿三頭筋の弱化がほぼ全ての患者で見られると報告されています。
比較的早い歩行の中で、下腿三頭筋に対する電気刺激が筋活動のタイミングに合わせて付与されるという練習になります。
今回は、最近の電気刺激治療の概念図を分かりやすく示している論文があったので、そちらを学んでいきたいと思います。
カテゴリー
タイトル
【2022年最新版】 機能的電気刺激(FES)を用いたリハビリの概念
内 容
機能的電気刺激治療(FEST)の概念
●機能的電気刺激治療(FEST)介入では、患者は麻痺側上下肢に電極が貼付され、能動的に機能的な動きを試みるように求められます。自発的な動きを実行する能力が回復し、電気刺激が必要なくなるまでFESの使用は徐々に減じていきます。
●FESTには3つの基本的な構成要素があります。下図はその概念図です。
●まず、治療を受ける患者は能動的に運動を試みなければなりません。
●第2に、電気刺激は、患者が運動を行おうとしたタイミングと正確に一致して付与され、一致した感覚フィードバックの下で練習を実行します。この文脈での刺激は、患者が自発的に作り出すことができない動きにのみ使用されます。
●第3に、セラピストは手足の動きを補助して、動きの正確さと質を確保します。セラピストはまたFEST介入中の患者の回復状況に基づいて、電極の配置と刺激のパラメーターを適切に変更します。
●患者の運動意図とFESの補助から生じる感覚フィードバックが同時に繰り返されると、神経可塑性の変化が生じ、最終的には自発的な運動機能の回復につながると考えられています。
機能的電気刺激FESTの先行研究からの報告
●Merlettiらは「従来の理学療法治療」に対して、腓骨神経の刺激を通じて足関節背屈を引き起こすFESの効果を比較し、足関節の自発的な背屈によって生成されたトルクは、対照群と比較した場合、治療群で3倍高かったと報告した。
●テイラーらは、下垂足に対する背屈誘発の電気刺激装置を18週間使用した後の歩行速度の増加を報告しました。
●Thrasherらは頸部および胸部の脊髄損傷を負った5名の患者が、12〜18週間の電気刺激介入を完了しました。この介入では、歩行の補助としてFESTを少なくとも片脚に適用しました。リハビリテーション終了後に、4人の参加者が歩幅とケイデンスを増やし、その結果歩行速度が向上しました。
●Popovicらは、6か月電気刺激治療後、C5〜C7レベルのSCIに起因する四肢麻痺のある患者の上肢機能(パワーグリップおよび/または運動範囲の増加)を改善するバイオニックグローブの有効性を実証しました。
電気刺激量について
●「感覚閾値」は、動きが生じない場合でも、刺激を受けた人が刺激を知覚できる最低の強度です。
●「運動閾値」は、収縮が動きをもたらさない場合でも、目に見える筋肉収縮をもたらす最小強度です。
●「最大許容強度」は、人が不快感を感じることなく許容できる最大レベルです。
まとめ:機能的電気刺激(FES)の概念の論文から学んだこと
●電気刺激は用いるけれど、あくまで患者の能動的な活動をサポートする事が大事だということを学びました。
●末梢で電気刺激を用いながら、中枢部ではハンドリングで適切な運動を補助するなどもっと幅広い電気刺激治療の方法があるなと思いました。
●電気刺激治療には「感覚の付与」「運動単位の動員を補助して関節運動・不足しているパワーをサポートする」という役割があることを学びました。その際に、運動企図から運動を実行しフィードバックを受ける一連の流れのループの中で自然と電気は付与される必要があると思いました。
●電気刺激の効果が即時的に現れているのか、電気刺激のなしまたは弱めた状態での動きも確認していくことは重要だなと思いました。
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
脳卒中の動作分析 一覧はこちら
塾講師陣が個別に合わせたリハビリでサポートします
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)