【2024年最新版】トランクインペアメントスケール (TIS) と退院後のFIM・歩行能力の関連性:脳卒中後リハビリにおける体幹評価と改善戦略
Trunk Impairment Scale(TIS)とは?
金子先生(リハ医): 「丸山さん、今日はTrunk Impairment Scale(TIS)について話していこうか。この評価法は、特に脳卒中患者のリハビリにおける体幹機能の評価に欠かせないツールなんだ。」
丸山さん(療法士): 「はい!体幹機能がリハビリに重要だという話は聞いたことがありますが、具体的にどのような評価が行われているのかは詳しく理解していませんでした。」
金子先生: 「まずTISの成り立ちから見てみようか。TISは、1999年にVerheydenらによって開発された評価法で、脳卒中後の体幹機能を評価するために設計されているんだ。患者の体幹安定性、特に回旋動作、側屈動作といった、複雑な運動パターンに関わる能力を包括的に評価するのが特徴だね。」
1. TISと体幹の生理学的基盤
金子先生: 「まず、TISで評価する体幹機能が脳科学や生理学的にどう重要か考えてみよう。体幹の制御は、脳幹、小脳、そして大脳皮質の共同作業で成り立っている。脳幹は特に姿勢の安定性をサポートしているし、小脳は運動のスムーズさと連動性を管理している。」
丸山さん: 「体幹の安定性は、動作やバランス維持に不可欠ですね。」
金子先生: 「その通り。体幹の制御がうまくいかないと、下肢や上肢の動作もぎこちなくなる。脳卒中患者は、脳の損傷によってこうした体幹機能が低下しやすい。それで、TISが必要になってくるんだ。」
2. バイオメカニクスの視点:TISの構成と各項目の意義
金子先生: 「TISには3つの大きな評価項目がある。まず1つ目は“静的座位バランス”。これは、体幹が安定した状態でどれだけ姿勢を保てるかを評価する項目だ。例えば、骨盤周辺の安定性がどれだけあるかをみることで、脊椎周りの筋肉がどれだけ活性化しているかがわかる。」
丸山さん: 「安定性の維持が、どれだけ脊柱起立筋や腹筋などに依存しているかも評価できそうですね。」
金子先生: 「その通り。バイオメカニクス的には、座位での安定性は、骨盤から始まる“キネティックチェーン”の一環として体幹全体を支える筋群の協調性を示すんだ。」
「次に、TISの2つ目の項目は“動的座位バランス”だ。この評価は、骨盤の左右移動や回旋動作を行う際にどれだけ安定性を保てるかを見るんだ。ここで重要なのは、腰椎と胸椎の連動や、肩甲帯と骨盤の相互関係が関わってくる点だよ。」
丸山さん: 「回旋動作で安定性を保つためには、特に腰部の筋肉が効率的に働く必要があるということですね。」
金子先生: 「そうだね。そして3つ目が“協調性”の評価だ。この項目では、患者が体幹をコントロールしながら左右に回旋する能力を確認するんだ。協調性は大脳基底核や小脳が深く関わっているんだよ。TISでは、この協調性を測ることで、どれだけの筋肉が自動的に反応しているか、つまり、患者が無意識にバランスを取る能力を見ているんだ。」
3. TISの臨床応用とリハビリのアプローチ
金子先生: 「では、TISの評価結果をどのようにリハビリに応用していくかも見ていこう。TISで得られた情報をもとに、体幹のどの筋肉が弱化しているか、または協調性が欠如しているかを分析して、個別のリハビリ計画を立てることが重要だ。」
- 静的座位バランスの改善: 静的な安定性を高めるために、まずは座位での体幹トレーニングを行う。例えば、患者がバランスボールに座ることで、体幹の安定性を自発的に向上させるトレーニングができる。
- 動的座位バランスのトレーニング: 動的な動作を加え、骨盤の左右移動や前後の揺れを伴う練習を行う。これにより、体幹全体が動作に合わせて柔軟に対応できるようにする。
- 協調性の強化: 最後に、協調性を高めるために、意識せずに体幹を動かすトレーニングを行う。例えば、視覚的なターゲットを使い、患者に自然な体幹回旋を促すと、より効率的に体幹筋が働くようになる。
丸山さん: 「これらの評価結果をもとに、適切なリハビリプランを構築できれば、体幹機能が効果的に向上するというわけですね!」
金子先生: 「そうだね。そして、TISでの評価は一度きりではなく、進行状況を評価するために定期的に行うのも重要だ。これによって、患者がどの程度リハビリで改善しているか、また新たなアプローチが必要かを判断できるんだ。」
丸山さん: 「金子先生、今日はありがとうございました! TISの評価を活用して、しっかりと患者さんの体幹機能改善に取り組みたいと思います。」
トランクインペアメントスケール(TIS)評価用紙
論文内容
タイトル
●トランクインペアメントスケールTrunk Impairment Scale(TIS)と退院時のFIM・歩行能力の関係性
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●予後予測を自身でも研究してみたいと思い、世界的にどのような研究が試されているのか興味を持ち、学習の一助として本論文に至る。
内 容
背景
●体幹のパフォーマンスは、座る、立つなどの動作に重要です。評価としてはBBSやTISがよく使用されます。脳卒中後の体幹のパフォーマンスを理解することの重要性は、日常生活動作を実行する能力を予測することが示されている先行研究によって強調されています。
●脳卒中後の33人の患者を対象としたランダム化比較試験では6時間の追加の体幹運動を受けた患者は対照患者と比較し、体幹機能、立位バランス、可動性が有意に優れていました。脳卒中患者32人を対象とした小規模な研究では、TISで測定した体幹のパフォーマンスの回復の時間経過は上肢と下肢の回復過程と類似しており、ほとんどの回復は脳卒中後の最初の3か月以内に発生しました。
●今回は、脳卒中後の体幹パフォーマンスの変化を評価し、体幹パフォーマンスに関連する要因を確立し、退院時の歩行および機能状態に対する体幹パフォーマンスの影響を評価しようとしました。
方法
●シンガポールのタントックセン病院リハビリテーションセンターに2年間入院した脳卒中患者のデータの遡及的レビューでした。分析されたデータには、NIHSS、MOCA、FMA、およびFIM運動項目のスコアが含まれていました。体幹のパフォーマンスは、トランクインペアメントスケール(TIS)で評価されました。
結果
●脳卒中患者577人(平均年齢63.2±11.8歳)が分析されました。体幹障害は患者の96.4%に見られました。
●平均入院時TISスコアは14.3±6.1でしたが、これは退院時に17.2±5.2に改善しました。入院TISスコアは、入院MOCA、FMA-上肢およびFMA-下肢スコアと正の相関があり、NIHSSスコアおよび無視と負の相関がありました。入院TISスコアは、退院FIM運動スコアおよび歩行状態を有意に予測しました。入院時TISスコアが14以上の患者は良好な退院歩行状態を達成する確率がほぼ70%であり、満点の患者は90.4%であるという発見にも反映されていました。
●体幹障害と上肢および下肢の脱力との関連は以前に報告されています。 Verheydenらは、脳卒中発症後1週間から6か月の脳卒中患者32人を対象とした小規模な研究で、TISスコアが脳卒中後1週間、1か月、3か月、6か月の上下肢FMAスコアと密接に関連していることを示しました。体幹と四肢の回復が同様の回復軌道を有することを示唆しています。
●体幹の機能障害は一般的であり、リハビリ後に体幹のパフォーマンスの改善が見られました。体幹のパフォーマンスは、脳卒中の重症度、上肢と下肢の運動能力、認知および無視と有意に相関していた。入院時の体幹のパフォーマンスは退院の機能的および歩行状態を予測したので、脳卒中のすべての患者について体幹のパフォーマンスを評価することをお勧めします。
併せて読みたい【脳卒中・体幹・予後予測】関連論文
Vol.535.不安定面での体幹安定化運動が脳卒中患者のコアに及ぼす影響
Vol.593.脳卒中後の回復過程は部位によって異なるの??
体幹の可動性と下肢のバランス影響 治療効果とは!?vol.13 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー:
vol.402:脳卒中者の上肢機能の早期からの予後予測の観察ポイント 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
Trunk impairment scaleの臨床応用:症例検討
以下は、Trunk Impairment Scale(TIS)を用いて脳卒中患者の体幹機能を評価し、実際のリハビリテーションアプローチの変化を検討した症例報告の一例です。
症例概要
- 対象: 65歳の男性、脳梗塞後右片麻痺
- 発症時期: 約3か月前
- 主訴: 立位および歩行時のバランス低下、移乗の不安定さ
- その他の既往歴: 高血圧、糖尿病
この患者は、発症後に急性期リハビリを開始し、転院後に体幹機能の改善を目的としてTISを導入した。特に、体幹の回旋運動や座位バランスの低下が課題として見られたため、TISによる評価をもとにリハビリのアプローチを設計した。
TIS評価
初回の評価結果は以下の通りです。
静的座位バランス:
- 患者は座位での安定性をある程度保持できたが、姿勢保持には筋緊張が強く関与していることが観察された。
- 静的座位バランススコア: 3/7点
動的座位バランス:
- 体幹の左右移動が不安定であり、特に右方向への移動が困難であった。骨盤の可動性も低下し、代償動作が頻繁に見られた。
- 動的座位バランススコア: 5/10点
協調性:
- 回旋動作において遅延が見られ、右への体幹回旋でバランスの崩れが頻繁に発生。腰椎・胸椎の連動性も欠如し、肩が過度に働いていた。
- 協調性スコア: 3/6点
合計TISスコア: 11/23点(全体的に体幹機能が低下している)
TIS評価結果に基づくリハビリ計画
この評価結果をもとに、体幹の安定性と協調性を改善するためのリハビリアプローチを計画しました。
1. 静的座位バランス向上のためのアプローチ
- 目標: 座位での安定性の向上と、姿勢保持時の過度な筋緊張の低減
- 訓練内容:
- バランスボールや空気クッションを用いた座位での安定性訓練。患者が過度に筋緊張を高めずに姿勢を保つよう、呼吸法を取り入れながら体幹を意識。
- 背もたれを使わずに座位での前後・左右揺れ運動を指示。患者に自身の重心移動を意識させ、脊柱起立筋のバランスを図る。
- 回数と頻度: 1日2回、各5~10分
2. 動的座位バランス改善のためのアプローチ
- 目標: 座位での体幹移動の安定性向上と骨盤可動域の拡大
- 訓練内容:
- 患者に骨盤の「8の字」運動を行わせ、左右および前後の動きにおける骨盤の可動性を高める。
- ターゲットを用いて座位での重心移動の方向を設定し、患者に自然な動作の流れで左右に骨盤を動かすよう指導。右方向の動きが難しいため、リハビリ時に介助をしながら進めた。
- 回数と頻度: 1日1回、10分
3. 協調性の向上を目指した体幹トレーニング
- 目標: 体幹回旋のスムーズさと、肩部の代償を減らしながらの腰部と胸部の連動性向上
- 訓練内容:
- 回旋動作のトレーニングには、座位で視覚的なターゲットを利用し、意識的な回旋を促進。患者が無意識にターゲット方向を向くよう、介助者が軽く支えながら動作を誘導。
- 誘導反復運動として、右方向への回旋を補助し、回旋時の体幹筋の協調的な収縮を促す。脊椎回旋に関与する筋肉群のスムーズな連動を意識。
- 回数と頻度: 週3回、15分
4. フィードバックとモニタリング
- 観察項目: 各訓練後にTISの再評価を行い、特に協調性や回旋動作における変化を測定。
- フィードバック方法: リハビリ中に達成感を感じやすいよう、動作改善をポジティブにフィードバック。患者に改善点を明確に伝え、モチベーションの維持を図る。
結果と考察
リハビリ実施後のTIS再評価結果:
- リハビリ開始から4週間後、TISスコアは17/23点に改善。特に動的座位バランス(8/10点)と協調性(5/6点)の向上が見られた。
考察:
- 骨盤の可動域拡大や、体幹の協調性向上がTISスコアの改善に大きく寄与したと考えられる。
- バランスボールやターゲットを用いた回旋トレーニングにより、患者は回旋動作に対しての意識過剰が減少し、自然な動作が促進された。
結論
この症例は、TISを用いることで脳卒中患者の体幹機能を精密に評価し、それに基づいたリハビリテーションアプローチを具体化した例である。
新人療法士がTrunk Impairment Scale(TIS)を行う際のポイント
Trunk Impairment Scale(TIS)を新人療法士が実施する際、患者の状態を正確に評価し、体幹機能改善のためのリハビリテーション計画に生かすための専門的なポイントを以下にまとめました。これらのポイントは、TISのスコアリングの信頼性を高めるとともに、効果的なリハビリ計画を立てるために重要です。
1. 評価環境の設定
- 患者がリラックスした状態で評価を受けられる環境を整え、椅子やベッドの高さを調整して足が床にしっかりと着くようにします。姿勢の安定性が低いとスコアが影響を受けるため、適切なサポートを準備しましょう。
2. 患者への説明とデモンストレーション
- 患者に評価項目の目的を簡単に説明し、実際に動作を見せて理解を促します。患者が動作に不安や緊張を感じるとパフォーマンスに影響が出るため、リラックスして取り組めるように配慮します。
3. 体幹の静的・動的バランスの観察
- TISの静的座位バランス評価では、患者が座位でどの程度安定しているかを観察します。骨盤の傾きや左右方向の重心移動があるかを確認し、体幹筋のバランスと筋緊張度合いを評価します。
4. 骨盤と体幹の独立した動きの確認
- 骨盤と胸郭が独立して動くか、または固定的な動作パターンがあるかを確認します。脳卒中後に骨盤と体幹の協調が崩れていることが多いため、動的座位バランスの評価で骨盤の動きに注目し、改善が必要な要素を見極めます。
5. 代償動作の観察
- 動的座位バランスや協調性評価では、代償動作が見られるかを確認します。体幹の不安定性がある患者は肩や腕を使用したり、下肢を不適切に動かしたりすることがあるため、こうした代償動作の有無を記録します。
6. 姿勢変化に伴う重心移動の評価
- TISの動的座位バランス評価では、前後および左右に移動する際の重心の動きを観察します。骨盤と体幹のバランスが崩れた場合、左右非対称の移動が見られることが多いため、どの方向でバランスを失いやすいかを確認します。
7. 脊柱の回旋動作のスムーズさと左右差
- 協調性評価では、脊柱回旋の左右差や動きのスムーズさを観察します。脳卒中患者は回旋時に左右差が生じやすいため、どちらに動きづらさや遅延があるかを評価し、回旋筋群の活動を促進するリハビリ計画に役立てます。
8. 視覚・感覚の影響の考慮
- 患者のバランス機能が視覚や触覚に頼りすぎていないか確認します。TISは座位での評価ですが、視覚依存や触覚刺激への依存が強い場合は、正確な体幹の筋活動が反映されない可能性があるため、感覚に頼らない評価方法も考慮します。
9. 結果の再現性の確認
- 評価結果に再現性があるかを確認するため、疑わしい動作には再テストを行います。特に代償動作が見られる場合や不安定な姿勢が多い場合には、再評価を行い、一貫したスコアリングが得られるようにします。
10. 改善計画への反映と効果的なフィードバック
- TISの結果を基に、患者の体幹機能に合わせたリハビリ計画を立案し、評価結果を患者にフィードバックします。改善点と現状をわかりやすく説明し、動作改善に対する動機づけを高めるよう配慮します。
新人療法士がTISを適切に活用し、評価結果を臨床応用できるようにするため、これらのポイントを踏まえて評価とフィードバックを行うことが重要です。
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STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
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STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)