【2022年版】浅指屈筋-深指屈筋の起始停止から作用・役割まで徹底解説 脳卒中×触診
まず、深指屈筋は前腕の深層筋の一つです。
深指屈筋の作用は、主に手で把持する際の指先の力です。
この筋は、前腕の中で最も力強く、最も大きな筋肉です。
触診する際には、前腕の後面で尺骨の皮下後縁の内側で、筋の膨隆を触知できます。
深指屈筋は2つの異なる神経に支配されているため、ハイブリッド筋または複合筋とも呼ばれています。
次に浅指屈筋は
前腕の掌側に沿って、深指屈筋と長母指屈筋の表側に位置し、
長掌筋、橈骨屈筋、尺側手根屈筋、円回内筋の深層に位置します。
以前は英語でFlexor Digitorum Superficialisでなく、Flexor Digitorum Sublimisと呼ばれていた様です。
深指屈筋の起始停止
図引用元:VISIBLE BODYより
■起始
尺骨内側の肘頭と鉤状突起
前腕骨間膜に起始
■停止
掌側第2~5指の末節骨底に停止
深指屈筋の神経・血液供給
図引用元:VISIBLE BODYより
■神経支配
内側半分(薬指と小指)は尺骨神経
外側半分(中指と人差し指)は前骨間神経、正中神経の運動枝
■血液供給
深指屈筋の作用
■深指屈筋の作用
示指、中指、薬指、小指の中手骨と近位指節間(PIP)関節の屈曲
手関節の掌屈
深指屈筋は唯一の第2~5指の遠位指節間(DIP)関節の屈筋です。
臨床のトレーニング例:
深指屈筋を訓練する場合は、第2~5指の遠位指節間(DIP)関節の屈筋のため、掌より大きめの硬すぎず柔らかすぎないボールに掌を置き、MP関節やPIP関節を伸展位にします。これにより深指屈筋に適度な張力が得られます。そして、指先だけ力を入れて指先部分だけボールを凹ませることでトレーニングが行えます。2〜5指全て凹ませているか確認しましょう。
深指屈筋と臨床
lumbrical plus finger(虫様筋プラス優位指)
深指屈筋腱の遠位部が損傷すると、指を曲げようとしたときに、指節間関節のパラドックス的な伸展が現れます。これは、手内筋である虫様筋が優位な動きとなってしまいます。
四頭馬車現象:Quadrigia
第5指、第4指、第3指の深指屈筋腱は共通の筋腹を持っているため、人差し指に走る別の腱と相互に接続されていると、腱が独立して動けなくなることがあります。
このような状態を「四頭馬車現象Quadrigia」といいます。これは、FDPの断裂や修復後の癒着や瘢痕化に伴って発生する可能性があります。
ジャージーフィンガー
遠位付着部の深指屈筋腱の断裂により、遠位指節間関節の積極的な屈曲ができなくなった状態をジャージーフィンガーと呼びます。
ジャージーフィンガーはゾーン1の屈筋腱損傷で、75%の症例で環指が侵されています。ラグビーのタックルで相手の服に指が引っかかり生じることが多い様です。
前骨間神経(AIN)損傷
前骨幹神経は前腕の3つの筋肉(長母指屈筋、方形回内筋、深指屈筋の外側半分)を支配しています。長母指屈筋と深指屈筋が麻痺してDIP関節を屈曲させることができないため、母子での “OK “サイン(Perfect Oサイン)やピンチグリップテストが陽性となります。
前腕のコンパートメント症候群
上腕骨、尺骨、橈骨の骨折に伴うコンパートメント症候群は、表層部と深層部の両方を解放しなければならない「筋膜切開術」と呼ばれる方法で解放されます。
コンパートメント症候群とは、閉鎖された筋膜コンパートメント内の圧力が上昇し、微小循環が損なわれて組織が損傷を受ける状態をいいます。
つまり、出血や浮腫によって筋膜コンパートメント内の圧力が上昇し、その空間内の循環やその部分の組織の機能が損なわれ、虚血が生じる状態と言えます。
ベネディクションサイン(The Benediction Sign)
患者さんに拳を握ってもらうと、薬指と小指は曲がりますが、人差し指と中指は中手骨-指節関節や指節間関節で曲がらないという症状が見られます。これは、前骨間神経の関与により、第4指と第3指の(MCP関節とIP関節)の屈曲ができない状態です。
ベネディクション・サインの源流については、正中神経と尺骨神経のどちらが関与しているのかという点が長く議論されています。
尺骨神経障害があると、第4、5指の骨間筋と内転筋の機能が低下するため、第4、5指は手の正中線から外転することができず(骨間筋の機能)、それらの指はMCP関節で屈曲したり、IP関節で伸展することができません(内転筋の機能)。
Futtermanらは、Benediction Signが正中神経損傷と表現されることが多いのは、第2と第3指のMCP関節とIP関節の屈曲ができなくなるからだと指摘しています。
フロマン徴候(Froment’s sign)
フロマン徴候とは、手の検査の一種で、尺骨神経の麻痺を調べる方法の一つです。この検査では、母指の内転筋の強さを測定し、ピンチグリップの機能低下や筋力低下を確認します。尺骨神経が支配する内転筋は、麻痺すると弱くなるため、その強さを測ることで麻痺の程度を判断します。
尺骨神経は、母指の内転と指節間関節の伸展を行う母指内転筋と指節間筋を支配しており、フロマン徴候は尺骨神経の損傷にて現れます。長母指屈筋(正中神経が支配する)は、内転筋(尺骨神経が支配する)の代わりとなり、母指を過屈曲させます。
脳卒中患者における屈筋の痙縮
深指屈筋・浅指屈筋をはじめとして脳卒中患者では屈筋の痙縮を生じやすいです。
痙縮を放置すると拘縮につながり、機能低下のみでなく、手指衛生面での問題も引き起こしやすいため、治療介入は必須です。
痙縮筋は緩めることにも時間がかかる場合があるが、緩めるだけでは根本的な解決は図れません。
【治療改善ポイントの動画】
浅指屈筋の起始停止
図引用元:VISIBLE BODYより
■起始
橈骨頭:橈骨の上方前方
■停止
浅指屈筋の神経・血液供給
■神経支配
正中神経(C7、C8、T1)
■血液供給
浅指屈筋の作用
■浅指屈筋の作用
第2指から第5指までの中手指節関節(MCP)の屈曲
手関節の掌屈
浅指屈筋と臨床
スワンネック変形(Swan Neck変形)
PIP関節の過伸展とDIP関節の屈曲姿勢を伴う変形で、関節リウマチ、脳性麻痺、エーラス-ダンロス症候群などの結合組織障害、外傷などの二次的に起こることが多いようです。
手根管症候群
手根管には長母指屈筋、4つの表層の指屈筋、4つの深層の指屈筋および正中神経の9つの腱と1つの神経があります。
長母指屈筋は独自の滑膜鞘を持ち、表層の指屈筋と深層の指屈筋は共通の滑膜鞘を持ちます。
表層の指屈筋腱の代わりに筋腹が手根管内を走行するバリエーションがあり、このバリエーションは手根管症候群を引き起こす可能性があります。
前骨間神経症候群(AIN)
前骨間神経は、深指屈筋と長母指屈筋の間の奥深くを通る運動神経です。また、表在性の指屈筋のタイトな線維性アーチが前骨間神経の枝のレベルで正中神経を圧迫し、前骨間神経症候群を引き起こすことが判明しました。
まとめ:深指屈筋・浅指屈筋について学んだこと
●深指屈筋腱に虫様筋は付着しており、特に重度麻痺患者では深指屈筋の収縮時に虫様筋の活動にも変化を与えると学びました。
●深指屈筋や浅指屈筋をはじめとする手指の屈筋は痙縮により硬くなると、手関節の特に屈筋側でのスペースを狭小化させるため、手関節部の離開や手根骨と橈骨尺骨間の副運動は介入として大切と感じました。
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参考論文・書籍
・金子唯史:脳卒中の動作分析 医学書院 2018
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)