【2022年度版】広背筋の起始・停止、作用とストレッチ・筋トレまで、痛みの原因は?リハビリテーション
概要
広背筋(Latissimus Dorsi Muscle)は、胸郭下部後方の大部分を占める広くて平らな筋肉です。この筋肉の主な機能は上肢のものですが、呼吸補助筋とも考えられています。
肩甲挙筋、僧帽筋および菱形筋とともに、広背筋は背部筋の表層に属します。
機能的には、広背筋は肩甲骨の動きを司る筋肉に属します。
この筋肉は肩甲骨の下角を様々な方向に引っ張ることができ、肩関節の動き(腕の内旋、内転、伸展)を生み出します。
起始・停止と神経支配
起始
●第6~第12胸椎棘突起の前方、僧帽筋の棘突起付着部
胸腰筋膜を通して腰椎棘突起と仙骨棘突起(T6~S5レベル)と棘上靱帯に付着しています。
その他の付着部には、後腸骨稜、外腹斜筋と交叉する肋骨下部3〜4本、肩甲骨下角があります。
●筋線維は様々な方向にあり、胸郭上では上部の筋線維はほぼ水平に、下部の筋線維はより垂直に走行しています。
停止
●筋線維が腋窩に向かって伸びると、筋線維は大円筋の前面を巻いて、上腕骨の結節間溝の底(小結節稜)に扁平な腱として停止します。
●結節間溝への広背筋の停止部は、大円筋の停止部よりも上方へ伸びています。
神経
●腕神経叢の後索から胸背神経(C6~C8)が伸び、筋の深層面に入ります。
●広背筋を覆う皮膚は、T4~T12の腹側・背側枝と、L1~L3の背側枝に支配されています。
広背筋(右)
図引用元:VISIBLE BODY
機能
広背筋の働きや主に作用する動作
広背筋は、上肢の動作を大円筋や大胸筋と協力して行います。これらの筋肉が協調することで、肩甲上腕関節で腕を内転、内旋、伸展させる働きをします。広背筋は、大円筋と大胸筋の胸骨頭とともに、上腕骨の伸展にも作用します。
伸展と内転は、軽度屈曲または外転の位置から動作を開始したとき、あるいはこの2つの組み合わせの位置から動作を開始したときに最も強くなります。
斜面をよじ登るような登山やチンニング(懸垂)のように上肢を頭上に固定した状態で体幹を前方上方に移動させる際にも、この筋肉は活動的です。
広背筋は、深い吸気時や、咳やくしゃみなどの力強い呼吸機能でも活動することが研究により証明されています。
広背筋が重要となる活動
広背筋は登山時に使用する筋です。
腕が頭の上に固定された状態で、大胸筋の助けを借りて体幹を上に挙げることができます。
ボート漕ぎ、水泳(特にダウンストローク)、チョッピングの際に重要な筋肉です。
また、肋骨に付着しているため、激しい呼気の際にもこの筋肉は活動します。
咳やくしゃみをするとき、この筋肉は胸部と腹部を圧迫するように作用し、内側に強制的に押されるのを感じることができます。
この筋肉は、上肢の運動中に肩甲骨を胸郭に対して保持するのを助けます。肩甲骨の下角に筋肉が付着しているため、これが可能となります。
松葉杖歩行など、立つときに上腕骨が固定点となる動作では、広背筋は腕に対して体幹を前方に引っ張る力があります。この作用により、骨盤も持ち上がります。
下半身に麻痺がある人は、広背筋が骨盤に付着していることと、骨盤に神経が残っていることで、骨盤や体幹の動きを出すことができます。
この結果、装具を装着し松葉杖を使用している人は、左右の広背筋の交互収縮によって腕を固定し、腰をひねることで修正自立歩行を実現できることがあります。
この筋肉は棘突起に広く付着しているため、現在進行中の研究では、この筋肉が体幹の動きに果たす役割は何かを突き詰めているところです。
この筋肉が脊柱の伸展、側屈、または回転にどの程度影響を及ぼすかについては、さまざまなエビデンスがあります。
体幹の安定性に関する関連記事もあわせてご参照ください。
評価~リハビリ方法
広背筋は、肩の内転、内旋、伸展の働きをもつため、
外転、屈曲、および外旋の運動制限を持つ患者の動作に関与している可能性があります。
この筋の評価は、上肢の病変を持つ患者にとって非常に重要です。
上肢のスムーズで滑らかな動きには、大円筋および大胸筋との適切な機能と連携が不可欠です。
広背筋は、背中の重要な部分です。広背筋を効果的にトレーニングすることで、さまざまな優れた効果が得られます。
これらは、背筋を鍛えることのメリットを知っているボディビルダーだけのメリットではなく、日常の動作や日常生活にもメリットがあるのです。
筋力トレーニングの例として、チンニング(懸垂)や初心者向けの椅子補助チンニング(懸垂)があります。
※椅子補助チンニングとは、椅子を踏み台にして懸垂を補助することで難易度調整する方法です。
腰痛の評価の際、広背筋は背骨と骨盤に付着しているため、その長さと柔軟性を評価することが重要です。
この筋肉の長さの減少または硬さの増加は、動作パターンおよび姿勢の変化につながり、腰痛を悪化させる可能性があります。
触診
広背筋の外側は、腋窩の後縁を形成しています。
腕の抵抗内転時に収縮するのが感じられます。
その停止部は前方の小結節の頂上にあります。
患者に腕を90°屈曲まで上げてもらい、上向きの抵抗に抗してもらうと、広背筋が胸郭から浮き出て見えるようになります。
指と親指で腋窩後部を挟み、患者に咳をさせることで筋収縮を触知することができます。
clinicalgate.comより引用
リフトオフテストでも触診できます→動画はこちら
筋力検査
広背筋の筋力検査は、腹臥位で腕を内転させ、肘を完全に伸ばした状態で行います。
検査者は腕を外転させ、わずかに屈曲させた状態で抵抗を加えます。
広背筋が短いか硬い場合、高い棚の上の物に手を伸ばすように上肢を頭上に屈曲させると、脊柱が伸展・回旋します。
脊柱の伸展と回旋の調節により、上肢の頭上位を達成することが可能になります。
病棟評価
1. 神経学的患者
腕の動きの観察: 患者が物に手を伸ばそうとしたり、髪をとかしたり、ベッドの横に手を伸ばしたりするような簡単な作業をしているときに、看護師は腕の伸展や内転が困難であったり、非対称であったりすることに気づくことができます。
姿勢と肩甲骨の位置: 患者の着替えや入浴の介助中に、看護師は肩甲骨の翼状動作や肩甲骨の位置の非対称性に気づくことができます。
患者の訴え: 特定の動作が困難であるとか、後方に手を伸ばそうとすると痛むなどの訴えに耳を傾けます。
2. 整形外科患者:
理学療法中の観察: 患者が病棟で理学療法を受けている場合、看護師はレジスタンスバンドのプルダウンなど広背筋をターゲットにした特定のエクササイズを行うことが困難であることに気づくことができます。
アームスリングまたはギプス: 患者の腕がスリングやギブスで固定されている場合、腕を自由に使ったり動かしたりすることに抵抗があるか、困難があるかを観察します。
手術後の変化: 広背筋を含む手術(乳房再建など)を受けた患者さんの場合、日常生活での不快感や可動域の制限を観察します。
3. 内部疾患患者:
呼吸パターン: 広背筋とは直接関係ありませんが、呼吸困難(特に胸郭や胸膜に影響を及ぼす疾患)は上半身の動きを制限し、広背筋の機能に間接的に影響を及ぼすことがあります。
全身の可動性: ベッド上での動きやすさ、座りやすさ、腕を使った支えやすさを観察します。全身的な筋力低下を引き起こしている病態は広背筋の筋力に影響を及ぼす可能性があります。
日常生活で簡単にチェックできる4つのポイント:
頭上に手を伸ばすこと: 患者の頭より高い位置にある物に手を伸ばしてもらいます。困難や躊躇があれば広背筋の病変が疑われます。
着替え: シャツや上着を着るときの困難さやぎこちなさを観察します。袖に腕を通す動作は広背筋を動かします。
物の持ち上げ: 物を持ち上げる能力、特に低い位置から高い位置へ持ち上げる能力(棚にバッグを置くなど)は、広背筋の機能を知る手がかりとなります。
胴体の回転や捻り: 患者さんが横を向いている人に話しかけたり、物を取ろうとして体を横切ったりするときに、不快感や可動域制限の徴候がないか観察します。
このような日常生活の観察は、潜在的な筋機能障害について看護師に洞察を与え、さらなる評価や介入の指針となります。
ストレッチ、エクササイズ
広背筋のストレッチ:
背筋を伸ばし、両手を頭の上に置いて、背筋を伸ばして広背筋のストレッチを開始します。
背中の上部と肩の横に軽度から中程度の伸張を感じるまで、ゆっくりと片側に傾けます。
5秒キープしたら、元の姿勢に戻ります。痛みのない範囲で10回ほど繰り返します。
次に、反対側も同じように行います。
learnmuscles.comより引用
広背筋のエクササイズ:
エクササイズ方法は多岐にわたりますが、肩関節の内転、内旋、伸展を含むようにセッティングすればあとは難易度調整をするのみです。
上肢が体幹の前方を通過する姿勢をとることの多い方は、ぜひ広背筋のエクササイズを行うことでバランスの良い姿勢を目指してみてください。
片麻痺の方でも行える広背筋のエクササイズ↓↓↓
また、脊髄損傷の方に関しては、特に広背筋が移乗の際に重要となる筋肉の一つとなります。
リハビリで広背筋を鍛える際には、座位でのプッシュアップ練習を行うこともあります。
難易度調整を行えば、懸垂や腹臥位が難しい方でも広背筋のエクササイズを行うことは可能です。
広背筋を鍛えることで体幹と上肢の安定性を高めていきましょう。
広背筋は上腕骨~骨盤にわたる広い領域に付着しているため、伸張性の低下が問題となることも多いです。
ストレッチと筋力トレーニングを上手に組み合わせ、適切な機能を引き出すことが重要です。
広背筋トレーニングの一例↓↓↓
広背筋以外の筋の起始停止・機能・解剖関連の記事も併せてご覧ください。
・虫様筋
・浅指屈筋-深指屈筋
・上腕二頭筋
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)