【ハンドリングリハビリ極意】動作分析の著者が語る理学療法士の徒手技術!脳卒中(脳梗塞・脳出血)片麻痺
初めに
皆さんこんにちは。
今回は、下の医学書院より発売されている
ハンドリングの極意を皆さんにお伝えしていきたいと思います。
最近では、多くの病院で講師としてお招き頂き、ハンドリングを直接お伝えすることも増えました。
感染対策を行いながら、皆さんの臨床のお手伝いをできたら幸いですので、
どうぞご気軽にご相談ください。
YOUTUBEでハンドリングを上達させる極意をお伝えしています。他では聞けないハンドリングを突き詰めたものが伝える内容となっています。記事と併せてご覧ください。
ハンドリングのその先の機能、Taskを意識できているか?
セラピストが行っているハンドリングが患者の生活の何に活かされるのか?という視点を持つ必要があります。
治療に入る前に患者を観察する。アライメントはどうなっているか?
感覚情報の受け取り方はどうなっているか?
支持基底面はどうなっているか?
など細かい要素を評価することが大切です。
熟練者になればなる程、そういった細かい要素の評価で終わらず、それらの機能が基本動作や日常生活動作、退院後の生活場面にどのように関わるかを創造しています。
この創造により、セラピストの治療が機能障害に対するアプローチだとしても、それが患者の生活場面の何に活かされるか想像ができるようになり、生活に繋がる治療を実施することが可能となります。
図示するように,活動・参加レベルと機能・構造レベルの要素をトップダウンにもボトムアップにもリンクさせ,評価・治療を進めていくリーズニングスキルが必要不可欠です.
患者に触る前にセラピストが抗重力姿勢をとれているか?
セラピスト自身が抗重力姿勢をとれているか否かは治療する上で重要でとても重要です.
このことを考えているセラピストほど抗重力姿勢がとれていることが多いような気がします.
考えているというのは,患者の反応を受け取ろうとしながら考え,医学的な知識と組み合わせようとするプロセスにあります.
治療に入る前に自己の身体は抗重力的になっているか?
ハンズオンに注意が向き過ぎて過剰な屈曲姿勢になっていないか??
自己のコアが不安定なあまりハンドリングの手が強くなってはいないか???
セラピスト自身が自己の身体状況をまず把握する必要があります.
理屈で考えると屈曲姿勢になりやすい傾向にあり,セラピーと学習の中でセラピスト自身が自己の身体を作っていくことになるのです.
セラピストにとって楽な姿勢(従重力に依存しすぎる姿勢)が,ハンドリングにおいては非効率になります。
一場面では代償しながら楽な姿勢であっても,ダイナミックな誘導を要する場面となるとセラピスト自身が不安定となり,患者にもその不安定性が伝わってしまいます.
一般的に背臥位姿勢のセラピーを若手は好みやすいです。支持基底面が広く安定しているように見えるのですが低緊張になりやすいです。
そして、それに介入する療法士も支持基底面に依存しやすく「無意識に休む姿勢」になっています。
休んでいる姿勢を安定していると勘違いしている療法士も少なくありません。
患者さんの姿勢制御学習はセラピストも姿勢制御コントロールを求められるため、治療中は体幹のコアも高まりますし、足関節戦略もセラピストに多く出現します。
どんな運動方向にも誘導できるセラピスト自身の身体がまず必要不可欠ですね。
脚を組んだり肘をついたりしてリハビリをする療法士は論外です(意図があるのなら問題なし)。
Hand onの前に患者の身体を3Dでイメージできているか?
臨床経験1年目のセラピストと10年目のセラピストが同じ患者を同時に評価した際,アライメントは両者とも同様に評価できるかもしれませんが,その先の想像は大きく異なっています.
熟練セラピストは,姿勢・動作観察の際に骨格や筋のアライメント,BOSとの関係性などを3Dで想像しています.
水平面からはどうなっているのか?
また前額面からはどうなっているのか??
はたまた矢状面からは???
ヒトの身体は3Dで成り立っていますから,このイメージができるか否かでファーストタッチも変わってきます!
型通りのハンズオンなど存在しません.個体差のあるヒトの身体を如何に自分の目でスキャンできるかが重要です!!
熟練者は,肩甲骨に触れる際に肩甲骨の内外転や前後傾,上下方回旋の向きに加え,大胸筋や僧帽筋といった肩甲骨周囲筋の筋トーヌスなども想像しています.
身体を3Dスキャンできる目を養うには,普段の臨床からの観察の鍛錬が必要です!
意図の前にただひたすら感覚に集中する~経験の浅いセラピストの場合~
ハンドリングの際に,治療の目標をイメージするかと思いますが,治療では「今」の患者の状態を感じ取ることに集中しなければなりません.
例えば,体幹を抗重力方向に伸展させたいとイメージする場合、相手の反応・感覚を無視して体幹伸展を誘導すると運動学的伸展のみとなり、治療が失敗することが多いです.
このようなケースは,経験年数の浅い若手セラピストに多いような印象を受けます.
反応のいいキーポイント,またはどこからのHands onを比較的受け入れてくれるのか?
BOSやCOPとの関係を上手く抗重力方向へと利用できているのか??
一度の誘導で反応できるのか,反復する中で徐々にでてくるのか???
講習会ではこう習った!ある患者ではこれで上手くいった!! などの自己の経験や成功体験を目の前にいる患者に無理に当てはめていては,そのヒト特有のパターンを汲み取ることなどできません.
患者の特徴を把握しない状態でのバイオメカニクス上のセオリーなハンドリングは,むしろ不安定性を強めているだけかもしれません.
既存の知識だけでなく,相手がどう動こうとしているのかに耳を(感覚を?)傾けてみることも大切です.
意図の前にただひたすら感覚に集中する~熟練セラピストの場合~
熟練者は患者にタッチしたときに筋のトーヌスの変化を感じ取り,それらの僅かながらも確実な変化を積み重ね,「結果的に体幹が伸展している」という状況を作り出します. 相手の反応・感覚を拾いながら常にハンドリングを更新していくことが大切です.
Hands onしている部位と足底(BOS)との関係は上手くとれているのか?とれないならどうする?
足底(Heel)の反力を上体に垂直ラインで繋げることができているのか??できないならどうハンドリングして繋げるのか??
上下の関係構築に伴うcoreの高まりはあるのか???それはどの程度Keepできて,どの程度の自由度(安定性限界)をもっていて,次の目的とする動作に移行できるレベルなのか???
熟練セラピストは,「体幹の抗重力活動」というハンドリング一つをとっても,その中身は現象的な伸展ばかりを先行させずに,その結果に辿り着くまでの「プロセス」を重要視します.
そのプロセスは患者によって異なるので,反応・感覚を拾いながらその都度リーズニングを再考・処理し直し,それに伴ってハンドリングの「手」もup dateされていきます.
その瞬間・瞬間の変化に対応するわけですから,それだけでも大変ですが,熟練セラピストは現在進行形でファシリテーションしている機能と目的とする動作とのLinkも常に考えています.
相手の反応・感覚を拾うことができても,次の手を考えることができなければ最良のハンドリングは困難です.
自分の成功体験や他者から聴いた自分の中で収まりのいいリーズニングばかりでは,個体における多様性に応じてup dateしていくハンドリングスキルは磨かれません.
普段の臨床からその意識をもってトレーニングすることが重要です!!
接触ポイントから全身を感じ取れるか?~上肢治療の場合~
患者にタッチしているとき,熟練者は患者のあらゆる状態を感じ取っています. 例えば立位で肩を触ったときには,足底の感覚・COMやCOPの位置・呼吸・タッチに対する反応など,常にセンサ-を張り巡らせています.
座位での上肢治療一つをとっても,手・肘・肩など,ある特定のセグメントだけに固執していては,最終的にその治療が何の動作・活動に結びつくのかをセラピスト自身が見失ってしまうことが多いように思えます.
まさに「木を見て森を見ず」状態となってしまっているかもしれません!
手内筋の促通に伴う外在筋の過活動を抑え,肘をどの程度緩めることができるのか?
その緩んだ肘を外在筋でなく,上腕三頭筋の収縮を使って伸展できるか??はたまた近位部ではCuff筋群とともに肩甲上腕関節の安定に寄与できているのか??
三頭筋とCuff筋群により安定した肩甲骨は坐骨・足底からの床反力を拾い,抗重力方向への筋活動として繋がりをもって活動できているか???
熟練セラピストは,手の治療をしながらも,相手の坐骨や足部の重心・運動連鎖を感じ取っています.
もちろん,「木を見る能力」がなければ,「森だけを見る治療」はただの夢物語に成りかねません・・・
「しっかり木を見ながらも全体としての森もみる!!」
安価に手に入れた知識・技術は,すぐに応用が利かなくなります.
簡単なことではありませんが・・・ 重要なことは,自分の身体・感覚をもって体得するためには,このようなプロセスと実践を繋げる鍛錬が必要です.
接触ポイントから全身を感じ取れるか?~下肢治療の場合~
患者にハンズオンしているとき,熟練者は患者のあらゆる状態を感じ取っています. 姿勢・運動制御を誘導した際に,「どういった戦略でそれが行われているか?」という情報も得ています.そして,そういった情報から日常生活動作における動作戦略なども想像し,治療へ活かすことを常に考えています.
立位での下肢治療で一例を上げると,熟練セラピストは足部の治療をしながらも,重心の位置・肩甲胸郭関節の滑りなどを読み取っていきます.
ハンズオンしている足部への荷重を誘導した際,身体重心(COG)を下げずににWeight shiftできるのか?COGが下がってしまう場合,身体のどこがどのような代償戦略をとるのか?(過剰なSwayや固定など)
抗重力的な活動を高められずCOGが下がってしまう場合,足部からの感覚・COPを体幹・上体のどのセグメントとの繋がりを強めればCOGを高めることができるのか??
体幹・上体とのLink,COGを保持しながら反対側の足部へWeight shiftし,one-leg-stand→step→歩行,という動作・活動までの移行が可能か???
・・・などなど
立位は,抗重力的な身体活動を高まる上では効果的ですが,その反面過剰・雑なハンドリングでは不安定性を強めてしまう治療場面でもあります.
セラピスト自身が安定していなければ,その不安定性は患者様自身にも伝わり,COGを下げてSwayや固定を誘発し,身体のLinkを高めるチャンスを失います.
COGが下がっていても動くことは可能ですが,COPを利用せず抗重力的な身体活動を伴わない動作の長期化が強固な痙性や短縮などの二次的な障害を強めてしまいます.
「治療ポイントとする身体箇所と全身の繋がりをHands onしている箇所から感じる」
とても感覚的なことかもしれません・・・ しかし,臨床で出くわす様々な患者様の多様性に対応するには,この「感覚的」な部分がとても重要になってきます!
手を誘導するための手のフォーム(虫様筋を中心とした)を理解できているか?
手外在筋が遠心的に働いたなかでの手内在筋優位による把持になれば,物品をより繊細に把持できます.
極端な収縮と弛緩の関係ではバランスが崩れます。
単純に形だけ真似るような虫様筋握りは何の意味もありません。
患者さんの筋肉は部位によって、筋の抵抗、形、収縮が入りやすい方向が異なります。
療法士は目的に合わせて手内在筋と自身の姿勢連鎖を組み合わせて、目的に合わせた介入を求められます。
熟練者の手は比較的分厚く、かつ可変性のある手です。強く把持しても手首や肘、肩もリラックスできます。
初心者は強い把持が求められるとIP関節の屈曲が強くなる、手首や肘、肩の固定がすぐに動員されます。
これらのハンドリング筋活動は臨床の中でしか鍛えられない筋肉、神経です。
健常者同士の練習だけでなく、本質は臨床に集中しながら仮説検証し、汗をかきながら毎日を一生懸命に臨床に向き合うことで身に付きます。
時間はかかりますが10年後の自分を見据え、地道に臨床に研鑽しましょう。
金子唯史:脳卒中の動作分析より引用 医学書院
虫様筋を詳しく学びたい方は以下の記事を参考にしてください。
上肢のハンドリングに役立つ動画
実際、臨床ではどのようにハンドリングをしているのでしょうか。下の動画で実際の患者様を通したハンドリングをご紹介していますので、併せてご覧ください。
STROKE LABの療法士教育/自費リハビリを受けたい方はクリック
臨床の結果に悩んでいませんか?脳科学~ハンドリング技術までスタッフ陣が徹底サポート
厳しい採用基準や教育を潜り抜けた神経系特化セラピストがあなたの身体の悩みを解決します
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)