【2023年版】エビデンスに基づく神経系評価方法は?グレードはいくつ?脳卒中の理学療法まで解説。
エビデンスに基づく評価法について
神経系のリハビリテーションにおいては、様々な評価ツールが使用されます。これらのツールは、患者の能力や進行度を測定し、リハビリテーションの効果を評価するために用いられます。
以下に、いくつかの一般的な評価ツールとそのエビデンスのグレードを示します。ただし、これらのグレードは評価ツールの信頼性や妥当性に基づいており、それぞれのツールがどの程度有用であるかは、個々の患者や状況によります。
評価ツール | エビデンスのグレード |
---|---|
Barthel Index(バーセル指数) | A |
Fugl-Meyer Assessment(ヒューゲルメイヤー評価法) | A |
Modified Rankin Scale(mRS) | A |
National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS) | A |
Functional Independence Measure(FIM) | A |
Berg Balance Scale(ベルグバランススケール) | B |
Timed Up and Go Test(TUGテスト) | B |
Montreal Cognitive Assessment(MOCA) | B |
Mini-Mental State Examination(MMSE) | B |
Modified Ashworth Scale(MAS) | C |
Visual Analogue Scale(VAS) for pain | C |
American Heart Association/American Stroke Association’s guidelines on stroke rehabilitationなどを参考
エビデンスのグレードは以下の通りです:Aは強いエビデンス、Bは適度なエビデンス、Cは限定的または低品質のエビデンスを示します。これらの評価ツールは全て、特定の目的に合わせて設計されています。そのため、どのツールが最適かは、患者の症状、リハビリテーションの目標、そして評価を行う医療専門家の判断によります。
具体的に評価法を解説
Barthel Index(バーセル指数): 日常生活動作(ADL)の能力を評価するツールで、食事、移動、更衣、排泄など10の項目について評価します。
Fugl-Meyer Assessment(ヒューゲルメイヤー評価法): 脳卒中のリハビリテーションの進行を評価するツールで、運動機能、感覚機能、バランス、関節の範囲、痛みなどを評価します。
Modified Rankin Scale(mRS): 脳血管障害後の身体機能障害の程度を評価します。0(無症状)から6(死亡)までの7段階で評価します。
National Institutes of Health Stroke Scale (NIHSS): 脳卒中の重症度を評価するツールで、意識レベル、視覚、運動機能、感覚、言語、無作為な注意、無作為な観察など11の項目を含みます。
Functional Independence Measure (FIM): リハビリテーションの効果を評価するためのツールで、18の項目を通じて身体機能と認知機能を評価します。
Berg Balance Scale(ベルグバランススケール): バランス能力を評価するツールで、14の物理的なタスク(立ち上がる、座る、立つなど)を実施します。
Timed Up and Go Test (TUGテスト): バランスと動きの能力を評価します。患者には、立ち上がり、一定の距離を歩き、戻り、再び座るという一連の動作を速やかに行うよう求められます。
Montreal Cognitive Assessment (MOCA): 軽度の認知障害を検出するためのツールで、注意力、記憶、言語、視覚空間能力、抽象的思考、計算、指向性などを評価します。
Mini-Mental State Examination (MMSE): 認知機能をスクリーニングするツールで、時間と場所の指向性、即時記憶と遅延再生、注意と計算、言語、視覚空間能力などを評価します。
Modified Ashworth Scale(MAS): 筋緊張(痙縮)を評価するためのツールです。筋肉の抵抗を評価しますが、感覚的な評価であるため、評価者間の信頼性に問題があるとされています。
Visual Analogue Scale (VAS) for pain: 疼痛の程度を評価するためのツールです。患者は、無痛から最も痛い状態を示す直線上の点を選択します。VASは疼痛の主観的な評価を可能にしますが、個々の疼痛の閾値や認識に依存するため、解釈には注意が必要です。
これらの評価ツールは全て、特定の目的に合わせて設計されています。そのため、どのツールが最適かは、患者の症状、リハビリテーションの目標、そして評価を行う医療専門家の判断によります。
評価法のエビデンス分類について解説
以下に、上記の各評価ツールが特定のエビデンスグレードに分類された理由を詳しく説明します。これらのグレードは、ツールの妥当性、信頼性、感度、特異性、そしてその使用を支持する研究の量と質の組み合わせに基づいています。
バーセルインデックス、ヒューゲルメイヤー評価法、Modified Rankin Scale(mRS)、NIHストロークスケール、機能的独立性尺度 (FIM) – グレードA:これらのツールは広く研究され、臨床現場で使用されています。そして、脳卒中後の機能的独立性や神経学的障害の評価におけるその妥当性と信頼性を支持する強いエビデンスがあります。これらは時間経過による変化や患者群間の違いを検出するのに感度が高く、特異性があります。
ベルグバランススケール、タイムドアップ&ゴーテスト(TUG)、モントリオール認知評価(MOCA)、ミニメンタルステート検査(MMSE)- グレードB:これらのツールはその使用を支持する良好なエビデンスがありますが、エビデンスはグレードAのツールほど強力または広範ではないかもしれません。たとえば、研究結果に一貫性がない場合や、グレードAのツールと比較して利用可能な研究が少ない場合があります。それでも、これらのツールは一般的にその目的に合った妥当性と信頼性があると考えられています。
MAS、VAS- グレードC:これらのツールはその使用を支持する一部のエビデンスがありますが、エビデンスは限定的であったり品質が低いことがあります。たとえば、信頼性(つまり、異なるユーザーや時間経過での結果の一貫性)、妥当性(つまり、それらが本来測定すべきものを測定しているかどうか)、感度や特異性について疑問がある場合があります。また、その使用を支持する高品質の研究が不足している場合もあります。
特定のツールの有用性は、特定の患者、状況、および評価の目的に依存することがあります。したがって、医療専門家は各状況に最適なツールを選択するために、自身の判断を用いることがあります。
脳卒中の症状に応じたグレードはあるの?
以下は、脳卒中に対するエビデンスに基づいたリハビリテーションの介入方法を、脳卒中の重症度に応じて分類してリストアップします。留意すべき点として、グレードのシステムは医療機関によって異なる場合があるため、個別の推奨事項については医療専門家と相談することが重要です。以下は一般的な段階分けとなります。
Grade 1(軽度の脳卒中):
早期の運動療法:脳卒中発症後、患者ができるだけ早く移動や活動を始めることを奨励します。
関節可動域運動:関節の可動性を維持し、硬直を防ぐための軽い運動です。
筋力トレーニング:筋力を向上させ、筋肉の衰弱を防ぐための段階的な抵抗トレーニングです。
機能訓練:身の回りの日常生活動作(自己介護、服薬、食事など)を練習し、独立性を取り戻します。
バランスと協調運動のトレーニング:転倒を防ぎ、移動能力を向上させるために、バランスと協調運動のスキルを向上させるトレーニングです。
Grade 2(中等度の脳卒中):
Grade 1の介入方法に加えて、以下の方法を検討することがあります。
課題特異的トレーニング:反復され、意味のあるタスクに取り組むことで、機能的な回復を促進します。
運動イメージトレーニング:運動機能を向上させるために、運動を視覚化し、心理的にイメージを行います。
バーチャルリアリティ(VR)に基づいた療法:バーチャルリアリティ技術を利用して、没入感のあるインタラクティブな環境でリハビリテーションのトレーニングを行います。
CI療法:健常な肢体の使用を制限し、障害のある肢体の使用と運動の回復を促します。
Grade 3(重度の脳卒中):
Grade 1およびGrade 2の介入方法に加えて、以下の方法を検討することがあります。
神経発達療法(NDT):正常な運動パターンと姿勢制御を促進する手技を用いたアプローチです。
ロボット支援療法:ロボットデバイスを使用して、セッション中に運動を支援またはガイドします。
電気刺激療法:低レベルの電流を筋肉に応用し、筋肉収縮を促進し運動機能を改善します。
部分的な免荷式トレッドミルトトレーニング:ハーネスとトレッドミルを使用して、歩行やステップ運動を促進する際に体重を支持します。
脳卒中のリハビリテーションは個々のニーズに合わせて調整されるべきであり、理学療法士、作業療法士、言語療法士などの多職種の医療専門家のチームで行われることが重要です。リハビリテーションプログラムは定期的に評価され、患者の進歩と目標に基づいて修正されるべきです。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)