第1胸髄損傷(Th1) リハビリテーション/ 評価・治療・脊髄損傷・できることは?
第1胸椎(Th1)の概要
脊髄は中枢神経系の主要な部分であり、脳と体の残りの部分の間で信号を伝達する神経で構成されています。脊髄は異なるセクションに分けられており、頸椎、胸椎、腰椎、仙椎および尾椎に分類されます。胸椎は12個の椎骨で構成されており、Th1からTh12までラベルが付けられています。Th1は上から最初の胸椎で、特に腕や手の動きに関与する神経が多く含まれています。
第1胸椎が支配する筋肉と機能障害
以下は、第1胸椎(Th1)が支配する主要な筋肉と、それに関連する機能障害の表です。
筋肉名 | 機能 | 損傷による機能障害 |
---|---|---|
小指外転筋 | 小指の外転 | 小指を外側に動かす動作が難しくなる |
深指屈筋 | 指の屈曲 | 指を曲げる動作が難しくなる |
Th1損傷による主な機能障害
- 小指の外転: 小指外転筋がTh1によって支配されているため、Th1の損傷は小指の外転に影響を与えます。
- 指の屈曲: 深指屈筋が部分的にTh1によって支配されているため、影響を受ける可能性があります。
Th1損傷の影響と原因
即時および長期的な影響
Th1が直接損傷を受けると、患者は強烈な初期のショック、いわゆる脊髄ショックを経験する可能性があります。これは、損傷箇所以下の反射の消失、筋力の低下、および排尿または排便の制御の潜在的な喪失を特徴とします。
長期的な影響は、しばしば脊髄が完全に損傷されたか不完全に損傷されたかによります。完全な損傷では、損傷箇所以下の機能がありません。不完全な損傷では、損傷箇所以下に一部の機能があります。
一般的な原因
Th1の損傷は、様々な原因から引き起こされる可能性がありますが、最も一般的なのは自動車事故、高所からの転落、スポーツによる負傷などの外傷的な事象です。非外傷性の原因には、癌、関節炎、または椎間板変性疾患のような脊髄の健康を損なう疾患が含まれる可能性があります。
第1胸椎損傷の臨床症状
患者がTh1脊髄損傷を呈した場合、理学療法士や作業療法士は、さまざまな臨床症状や徴候を目にすることが予想されます。具体的な症状は損傷の程度によって異なりますが、いくつかの一般的なパターンが臨床家の指針となります。
臨床的症状 | 詳細説明 |
---|---|
小指の外転の困難 | 小指外転筋が影響を受けるため、小指を外側に動かす動作が難しくなります。 |
指の屈曲の困難 | 深指屈筋が影響を受け、指を曲げる動作が難しくなります。 |
感覚の鈍化 | 感覚の変化はTh1損傷で一般的で、患者は指や手の部分で感覚の鈍化、チクチク感、感覚の低下を報告することがあります。 |
排便や排尿の制御の変化 | Th1損傷の自律神経への影響により、排便と排尿の制御の変化が起こることもあります。 |
検査方法
画像検査
- X線: 椎骨の整列を基本的に描くことができ、明らかな骨折や脱臼を特定しますが、脊髄の詳細な画像は提供しません。
- コンピュータ断層撮影(CT)スキャン: X線では明らかでない骨折や脱臼を明らかにし、脊髄を圧迫している可能性のある脊髄管の狭窄や閉塞も特定できます。
- 磁気共鳴画像法(MRI): 脊髄、椎間板、周囲の神経を含む軟部組織構造を評価するための最良の画像技術です。
電気生理学的検査
- 神経伝導研究や筋電図などの電気生理学的検査が必要になることがあります。これらは、神経または筋肉の損傷を検出し、時間の経過とともに損傷の進行をモニターするのに役立ちます。
治療方法
初期安定化
- 安定化: 呼吸と循環をサポートし、さらなる損傷を防ぐための脊椎の固定。
薬物療法
- メチルプレドニゾロンなどのコルチコステロイド: 脊髄周辺の炎症と腫れを減らし、損傷を限定する可能性があります。
手術
- 脊髄を減圧し、脊椎を安定化するための外科的介入。骨片やヘルニアのあるディスクを除去し、金属製のロッド、ネジ、またはプレートを使用して脊椎にサポートと整列を提供します。
リハビリテーション
- 物理療法と作業療法: 筋力、運動能力、日常生活活動の自立性を向上させるための訓練。
合併症の管理
- 痛み管理: NSAIDs、神経痛薬、抗うつ薬、抗てんかん薬などの薬物療法。
- 膀胱と腸の管理: 排尿、排便の制御のためのスケジュール、カテーテル使用など。
- 呼吸管理: 呼吸訓練、呼吸器具の使用、呼吸器感染の予防。
Th1損傷による筋や機能障害に対する具体的なリハビリテーション戦略は、患者の個別のニーズと障害の程度に応じてカスタマイズされます。以下にいくつかの具体的な戦略を示します。
1. 上肢と手の筋力強化
目標: 筋力を向上させ、日常生活動作(ADL)の自立を促進する。
- 抵抗運動: ウェイトやエクササイズバンドを使用して、上肢の主要な筋群(前腕屈筋群、前腕伸筋群、肩甲骨周囲筋)の筋力を強化。
- 等尺性運動: 筋肉の収縮を伴わない静的運動を行うことで、筋力の維持と増強を図る。
- 動的運動: 手首や指の動きを含む多関節運動を取り入れる。
2. 手の巧緻性訓練
目標: 手指の細かい運動能力を向上させ、手作業の正確性を高める。
- ピンチ力訓練: ピンチボードやクレイを使って、指先の力を鍛える。
- グリップ力訓練: グリップボールやグリップストレングスナーを使用して、握力を強化。
- 細かい手作業訓練: ビーズ作りやパズル、編み物などの手作業を通じて、手指の協調性と器用さを向上させる。
3. 感覚再教育
目標: 感覚機能の回復を促進し、日常生活での感覚入力を改善する。
- 触覚刺激: 異なるテクスチャや温度の物体に触れることで、触覚の敏感さを向上。
- 感覚統合訓練: バランスボードや感覚統合システムを使用して、感覚と運動の統合を促進。
- 視覚-触覚協調訓練: 視覚と触覚を組み合わせた訓練(例:物体の形状を目で見て触って確認する)を行う。
4. 自律神経機能の改善
目標: 自律神経機能の正常化を図り、生活の質を向上させる。
- 深呼吸と呼吸法訓練: 横隔膜呼吸やプラナヤマなどの呼吸法を取り入れ、呼吸機能を改善。
- 漸進的筋弛緩法: ストレス管理とリラクゼーションのために、特定の筋群を意識的に緊張させてから緩める訓練を行う。
- 自律神経バランス訓練: バイオフィードバックや瞑想を活用して、自律神経のバランスを整える。
5. 呼吸機能の向上
目標: 呼吸筋の強化と呼吸パターンの改善を図る。
- 呼吸筋訓練器具の使用: インセンティブスパイロメーターや呼吸筋トレーナーを使用して、呼吸筋の強化を図る。
- ポジショニング: 呼吸を楽にするための体位(座位や半座位)を指導し、呼吸効率を高める。
- 呼吸エクササイズ: 各種の呼吸法(腹式呼吸、リブストレッチ呼吸)を教え、呼吸機能を維持・向上させる。
6. ADL訓練
目標: 日常生活動作の自立を促進し、生活の質を向上させる。
- 身の回り動作訓練: 食事、入浴、トイレ、着替えなどの日常生活動作を具体的に練習。
- 補助具の使用: 必要に応じて、補助具や自助具(例:アダプティブカトラリー、ボタンフック)の使用方法を教える。
- 環境調整: 自宅や職場の環境を調整し、より自立した生活を送れるように支援。
これらの戦略を組み合わせて、患者の個別のニーズに応じたリハビリテーションプランを作成し、段階的に実施していくことが重要です。また、定期的な評価と調整を行い、リハビリテーションの効果を最大限に引き出すことが求められます。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 4万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)