【筋緊張 評価】Modified Tardieu Scale:MTSとは?痙縮の評価からリハビリテーションまで
Modified Tardieu Scale:MTSとは?
目的
タルディウスケール(Tardieu Scale)および改訂タルディウスケール(Modified Tardieu Scale:MTS)は、神経系の障害を持つ患者の筋肉痙縮(スパスティシティ)を測定するための臨床的手法です。これらのスケールを使用すると、特定の速度で適用されるストレッチに対する筋肉の反応を評価して痙縮を定量化できます。
詳細なレビュー
測定の目的
タルディウスケールおよび改訂タルディウスケール(MTS)は、神経系の障害を持つ患者の痙縮を評価するための臨床的手法です。これらのスケールでは、特定の速度で適用されるストレッチに対する筋肉の反応を評価し、痙縮を定量化します。特定の速度での筋肉反応の質と反応が発生する角度が、MTSを使用して痙縮の測定に組み込まれています(Morris, 2002)。
使用されるバージョン
タルディウスケールの痙縮測定技術は、1954年にTardieuらによって最初に提案されました。HeldおよびPierrot-Deseilligny(1969)は、定量化可能なタルディウスケールを開発し、その後Graciesら(2000)によって英語に翻訳されました。BoydおよびGraham(1999)は、このスケールを改訂し、改訂タルディウスケール(MTS)を発表しました。
測定の特徴
MTSには具体的な項目はありませんが、次の2つのパラメータを使用して、指定された速度でのストレッチに対する筋肉群の反応を評価します:X(筋肉反応の質)およびY(筋肉反応の角度)。
ストレッチの速度:
- V1: 可能な限りゆっくり(ストレッチ反射を最小限に抑える)
- V2: 重力下での肢節の自然落下の速度
- V3: 可能な限り速く(肢節の自然落下の速度よりも速く)
結果として得られる関節角度:
- R1: 高速ストレッチ後のキャッチ角度(V2またはV3のいずれか)
- R2: ゆっくりした速度ストレッチ後の受動的可動域(V1)
V1は受動的可動域(PROM)を測定するために使用され、V2およびV3は痙縮を評価するために使用されます。評価は常に同じ時間帯に行い、検査を受ける肢は同じ位置に置く必要があります(Boyd & Graham, 1999; Morris 2002)。特に首の位置も、テストの間および後続のテスト中は一定に保つ必要があります。
反応角度(Y):
他の関節は筋肉の最小ストレッチ位置に対して測定されますが、股関節では解剖学的な安静位置に対して測定されます(Gracies et al., 2000)。
測定前に考慮すべき事項:
- 上肢: 座位でテストを実施。
- 下肢: 仰臥位でテストを実施。
詳細なテストポジションについては、Morris(2002)を参照してください。
スコアリングとスコアの解釈:
BoydおよびGraham(1999)は、筋肉反応を評価する際にR1およびR2を記述しています。R1は、過剰なストレッチ反射によってキャッチが発生する角度を示し、R2は筋肉の安静時の長さの角度を示します。R1とR2の関係が個々の測定値よりも重要であるとされています。
- R1とR2の差が大きい場合、動的な要素が大きく、変化または改善の余地が大きいことを示します。
- R1とR2の差が小さい場合、筋肉に主に固定性の拘縮があり、変化の余地が少ないことを示します。
したがって、R1とR2の関係は、筋肉が受動的なストレッチに反応する際の神経メカニズム(痙縮)および軟部組織の機械的制約の役割を推定するために使用できます。
所要時間:
報告されていませんが、テストする筋肉の数に応じて異なります。
トレーニング要件:
特に報告されていませんが、評価者の経験が結果に大きく影響します(Ansari et al., 2008; Singh et al., 2011)。
サブスケール:
なし
必要な機器:
- 鉛筆またはペン
- ゴニオメーター
- マット、プランスまたはベッド
修正タルディウスケールの代替形式
タルディウスケール:
1954年に最初に開発されたタルディウスケールは、アッシュワーススケールの代替として信頼性があるとされ、痙縮の速度依存性の特性を考慮して、ゆっくりと速い速度での受動的ストレッチに対する筋肉の抵抗を比較します。
改訂タルディウスケール:
1999年に発表されたMTSは、元のタルディウスケールで示された同じ評価基準を使用していますが、テスト手順を標準化することを目的としています。特定の肢の配置、位置合わせ、および手順が記述されています。受動的可動域の測定値はR2として記述され、筋肉反応の角度(キャッチ)はR1として記述され、これら2つの測定値の差(R2-R1)を使用して痙縮と軟部組織の制約を区別します(Boyd and Graham, 1999)。
スコア定義
タルディウスケールとMTSのスコア定義は以下の通りです。両者のスコア定義は一貫しています。
筋の反応の質(X)Quality of Muscle Reaction(QMR)
- 0: 他動運動中の抵抗を感じない
- 1: 他動運動中のわずかな抵抗を感じるが、明らかな引っかかりはない
- 2: 他動運動に対する明らかな引っかかりがある
- 3: 持続しない(伸張し続けた場合に10秒に満たない)クローヌスがある
- 4: 持続する(伸張し続けた場合に10秒以上の)クローンヌスがある
適用対象者
- 脳卒中患者
- 脳性麻痺(Boyd & Graham, 1999)や外傷性脳損傷(Mehrholz et al., 2005)などの神経障害を持つ患者
適用除外者
現時点では、タルディウスケールまたはMTSの使用に関する制限情報はありません。
具体的な実践方法は?
登場人物
- 療法士:金子先生
- 患者:丸山さん
シナリオ
丸山さんは昨年脳卒中を経験し、その後のリハビリテーションの一環として、筋肉痙縮の評価を行うために改訂タルディウスケール(MTS)を使用することになりました。丸山さんは左腕の痙縮が特に強く、日常生活動作に支障をきたしている状況です。療法士の金子先生は、この評価を通じて丸山さんの状態を把握し、適切なリハビリテーションプランを立てることを目指しています。
評価の準備
金子先生: 「こんにちは、丸山さん。今日は左腕の筋肉の反応を確認するために、改訂タルディウスケールを使って評価を行います。これは、筋肉がどのくらいの速さでストレッチされるかによって反応がどう変わるかを見て、筋肉の状態を詳しく知るための方法です。」
丸山さん: 「はい、よろしくお願いします。」
評価の実施
金子先生はまず、丸山さんの左腕を評価するための準備を整えました。丸山さんは座位に置かれ、金子先生はゴニオメーターを使って評価を開始しました。
1. 受動的な可動域(V1)の評価
金子先生は、左肘関節を可能な限りゆっくりと伸展させました。この動きは筋肉の受動的な可動域を確認するためのもので、ストレッチ反射を最小限に抑える速度です。
金子先生: 「今、腕をゆっくりと伸ばしています。痛みがあれば教えてください。」
丸山さん: 「大丈夫です、特に痛みはありません。」
R2の角度が記録されます。この角度は、ゆっくりとした速度での最大の受動的可動域を示します。
R2の測定結果: 110度
2. 重力速度での評価(V2)
次に、金子先生は丸山さんの左肘を重力の下で自然に落ちる速度で伸展させました。
金子先生: 「次は、腕を重力の力で自然に落とします。少し速く感じるかもしれませんが、リラックスしていてください。」
R1の角度が記録されます。この角度は、筋肉のキャッチが発生する角度を示します。
R1の測定結果: 95度
3. 可能な限り速い速度での評価(V3)
最後に、金子先生は丸山さんの左肘を可能な限り速い速度で伸展させました。
金子先生: 「今度は腕を速く動かします。リラックスしていてください。」
R1の角度が再び記録されます。この角度も筋肉のキャッチが発生する角度を示します。
R1の測定結果: 90度
結果の評価とスコアリング
金子先生はR1とR2の測定結果を基に、丸山さんの左腕の筋肉痙縮の程度を評価しました。各速度での筋肉反応の質をスコアリングしました。
質の評価(X):
- V1: 受動運動の過程で抵抗なし(グレード0)
- V2: 明確な角度でキャッチが発生し、その後リリース(グレード2)
- V3: 明確な角度で疲労性クローヌス(10秒未満)(グレード3)
スコアの解釈
- R1(高速ストレッチ): 90度
- R2(ゆっくりしたストレッチ): 110度
- R2 – R1: 20度の差
解釈: R1とR2の差が20度であることから、丸山さんの左腕には動的な痙縮があり、適切なリハビリテーションを行うことで改善の余地があることが示唆されます。
まとめ
金子先生: 「丸山さん、今回の評価から、左腕にはまだ動的な痙縮が残っていることがわかりました。しかし、リハビリテーションを続けることで改善の余地が十分にあります。次回からこの結果をもとに、さらに効果的なリハビリプランを一緒に考えていきましょう。」
丸山さん: 「わかりました。引き続きよろしくお願いします。」
タルディウスケールおよび改訂タルディウスケール(MTS)スコア
ストレッチの速度 | R1(キャッチの角度) | R2(受動的可動域) | 筋肉反応の質(X) |
---|---|---|---|
V1(ゆっくり) | N/A | 110° | 0 – 抵抗なし |
V2(重力速度) | 95° | N/A | 2 – 明確なキャッチ、その後リリース |
V3(速い) | 90° | N/A | 3 – クローヌス(10秒未満) |
この表は、各速度での筋肉の反応とそれに対する評価結果を示しています。
評価結果と解釈
丸山さんの左腕の評価結果に基づき、R1とR2の差が20度であり、動的な痙縮が存在することが示されています。この結果をもとに、金子先生は以下のリハビリテーションプランを提案します。
リハビリテーションの展開
1. ストレッチと受動的運動 丸山さんの筋肉痙縮を軽減するため、ゆっくりとしたストレッチと受動的運動を組み合わせます。これは筋肉の柔軟性を向上させ、痙縮を緩和するのに役立ちます。
2. ボツリヌス毒素注射 重度の痙縮の場合、ボツリヌス毒素の注射が有効です。これは筋肉の過活動を抑制し、リハビリテーション効果を高めます。
3. 電気刺激療法 電気刺激療法を用いて、筋肉の活動を制御し、痙縮を軽減することができます。これにより、丸山さんの動きが改善され、日常生活動作が楽になります。
4. 動的な運動と活動 丸山さんには、日常生活動作を含む動的な運動を行わせることで、筋力と機能を向上させます。これには、家庭内での簡単なタスクや、リハビリテーションセンターでの活動が含まれます。
予後
改訂タルディウスケールの評価に基づくと、丸山さんの痙縮は動的な要素が強く、適切なリハビリテーションにより改善の余地があります。研究によれば、改訂タルディウスケールは痙縮の評価において高い信頼性と妥当性を持っており、特に脳卒中後の上肢痙縮に対する評価において有効であるとされています (Shirley Ryan AbilityLab) (Physiopedia) (Strokengine) (BMJ Open)。
また、最近の研究では、非侵襲的な治療法(例:ペアード電流刺激)が痙縮の管理に効果的であり、これを組み合わせることでリハビリテーションの効果を最大化できることが示されています (BioMed Central)。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)