【簡単!失語症評価】病棟やリハビリ場面、生活場面で観察できるポイントを解説!脳科学まで
実際のリハビリ場面で評価
観察ストーリー:
登場人物:
- 患者: 佐藤さん(65歳、脳卒中後のリハビリ中)
- 作業療法士: 田中さん
シーン1:リハビリセッションの開始
午前中、田中作業療法士が佐藤さんのリハビリセッションを始めます。
田中: 「おはようございます、佐藤さん。今日のリハビリは、言語処理の評価を中心に行います。いくつかの簡単な課題を一緒にやってみましょう。」
佐藤: 「おはようございます。よろしくお願いします。」
シーン2:基本的な指示の理解と従う能力
まず、基本的な指示に従う能力を評価します。
田中: 「では、最初に椅子に座ってください。」
佐藤: 「はい。」
佐藤さんは、すぐに椅子に座ります。
田中: 「この用紙にサインしてください。」
佐藤: 「はい。」
佐藤さんは指示に従い、用紙にサインします。田中作業療法士は、基本的な指示を理解し従う能力を確認します。
シーン3:読んだ内容の説明
次に、田中作業療法士は佐藤さんに新聞記事を渡し、読んでもらいます。
田中: 「この新聞記事を読んで、その内容を説明してください。」
佐藤: 「わかりました。」
佐藤さんは記事を読み、内容を説明し始めます。
佐藤: 「この記事は、新しい図書館が建設されるという内容ですね。場所は市の中心部で、来年の春に完成予定です。」
田中作業療法士は、佐藤さんが読んだ内容を理解し、正確に説明できることを確認します。
シーン4:一般的な物体や人の名前の列挙
次に、田中作業療法士は佐藤さんに質問します。
田中: 「一般的な物や知っている人の名前を10個挙げてください。」
佐藤: 「えーっと、りんご、椅子、テレビ、車、本、時計、花、コーヒー、電話、テーブル。知っている人だと、高橋さん、田中さん、鈴木さん、山田さん、井上さん、木村さん、中村さん、佐々木さん、加藤さん、渡辺さん。」
田中作業療法士は、佐藤さんが一般的な物体や人の名前を列挙できることを確認します。
シーン5:思考を文章に変換する能力
最後に、田中作業療法士が佐藤さんに簡単な文章を書くよう依頼します。
田中: 「自分の名前と『今日は良い天気です』と書いてください。」
佐藤: 「はい、わかりました。」
佐藤さんは、紙に自分の名前と「今日は良い天気です」と書きます。文字は整然としており、読みやすいです。
評価結果
1回のリハビリセッションで、田中作業療法士は以下の能力を評価しました:
- 基本的な指示を理解して従う能力: 座る指示やサインの指示に適切に従える。
- 読んだ内容を正確に説明する能力: 新聞記事の内容を理解し、正確に説明できる。
- 一般的な物体や人の名前を列挙する能力: 物体や知っている人の名前を正確に列挙できる。
- 思考を文章に変換する能力: 自分の名前と簡単な文章を正確に書くことができる。
これらの評価結果を基に、佐藤さんのリハビリ計画をさらに具体的に立案し、彼の回復をサポートしていきます。
もう少し詳しく
座る指示やサインの指示に適切に従える能力
この能力は、主に前頭葉と側頭葉の連携によって実現されます。具体的には、前頭前野(prefrontal cortex)が関与します。前頭前野は、指示を理解し、適切な行動を計画・実行する役割を果たします。側頭葉のウェルニッケ野(Wernicke’s area)は、言語理解を担当し、指示の内容を理解するために重要です。これらの脳領域が協調して働くことで、患者は基本的な指示に適切に従うことができます。
新聞記事の内容を理解し、正確に説明できる能力
この能力は、左の角回(angular gyrus)と側頭葉の連携により実現されます。角回は、意味処理や読解において重要な役割を果たします。側頭葉のウェルニッケ野は、言語理解を担当し、読んだ文章の内容を理解するために重要です。また、前頭前野のブローカ野(Broca’s area)は、言語生成に関与し、理解した内容を正確に説明する際に重要です。これらの脳領域が協調して働くことで、患者は読んだ内容を正確に理解し、説明することができます。
物体や知っている人の名前を正確に列挙できる能力
この能力は、主に側頭葉と前頭葉の連携によって実現されます。側頭葉の上側頭回(superior temporal gyrus)は、音韻情報の処理や記憶の検索に関与します。側頭葉の内側側頭回(medial temporal gyrus)や海馬(hippocampus)は、記憶の形成と検索に重要です。前頭前野は、検索した情報を列挙するための計画と実行を担当します。これらの脳領域が協調して働くことで、患者は物体や知っている人の名前を正確に列挙することができます。
思考を文章に変換する能力
この能力は、主に前頭葉、側頭葉、および頭頂葉の連携によって実現されます。前頭前野のブローカ野は、言語生成に関与し、思考を文章に変換する役割を果たします。側頭葉のウェルニッケ野は、言語理解を担当し、正確な文章生成に必要な意味処理を行います。頭頂葉の上頭頂小葉(superior parietal lobule)は、視覚情報と手の動作を統合し、書字能力を支えます。これらの脳領域が協調して働くことで、患者は思考を文章に変換し、正確に書くことができます。
脳機能のまとめ
- 前頭前野(prefrontal cortex): 行動の計画・実行、思考を文章に変換する。
- ウェルニッケ野(Wernicke’s area): 言語理解、読んだ内容の理解。
- ブローカ野(Broca’s area): 言語生成、思考を文章に変換する。
- 角回(angular gyrus): 意味処理、読解。
- 上側頭回(superior temporal gyrus): 音韻情報の処理、記憶の検索。
- 内側側頭回(medial temporal gyrus)および海馬(hippocampus): 記憶の形成と検索。
- 上頭頂小葉(superior parietal lobule): 視覚情報と手の動作の統合。
これらの脳領域の連携によって、言語処理や基本的な指示への従順性、読解、記憶の検索、そして書字能力が支えられています。
おすすめのバッテリー評価は?
言語処理と理解
- Western Aphasia Battery-Revised (WAB-R)
- 概要: WAB-Rは、失語症の患者の言語機能を評価するための標準化されたテストです。このテストは、自発的な会話、聴覚理解、復唱、命名、読解、書字などを評価し、患者の失語症の種類と重症度を特定します (Pearson Assessments US) (Strokengine)。
- 使用方法: 患者に対して言語理解や表現の各種課題を出し、その応答をスコアリングします。例えば、単語やフレーズの復唱、物体の名前の列挙、文章の読解とその内容の説明などが含まれます。
記憶と認知
- Wechsler Memory Scale (WMS)
- 概要: WMSは、記憶機能を包括的に評価するためのツールです。短期記憶、長期記憶、視覚記憶、聴覚記憶、作業記憶などを含む複数のサブテストから構成されます。
- 使用方法: 患者に対してリストを覚えさせたり、視覚的な刺激を見せ、その後に記憶した内容を再現させるなどのテストを行います。
実行機能と注意
- Delis-Kaplan Executive Function System (D-KEFS)
- 概要: D-KEFSは、実行機能を評価するための一連のテストです。語流暢性、トレイルメイキング、タワー、色・単語干渉、カードソーティングなどのテストが含まれます (Strokengine)。
- 使用方法: 患者に対して、問題解決や計画、注意力のテストを行い、そのパフォーマンスをスコアリングします。
書字能力と視覚-運動統合
- Beery-Buktenica Developmental Test of Visual-Motor Integration (Beery VMI)
- 概要: Beery VMIは、視覚-運動統合能力を評価するためのテストです。形を模写する課題を通じて、視覚情報と運動技能の統合能力を評価します。
- 使用方法: 患者に対して、いくつかの図形を模写させ、その精度を評価します。
専門的な評価方法
これらの評価を使用することで、患者の言語処理、記憶、実行機能、書字能力を総合的に評価することが可能です。それぞれのテストは特定の脳機能領域に関連しており、以下のように配分すると効果的です:
- 言語処理と理解: WAB-R
- 記憶と認知: WMS
- 実行機能と注意: D-KEFS
- 書字能力と視覚-運動統合: Beery VMI
さらなる詳細
- Western Aphasia Battery (WAB)に関する詳細: WABの40年レビュー (Aphasia Research at Lingraphica)
これらのリソースを活用して、患者のリハビリテーション計画を効果的に策定し、彼らの回復を支援することができます。
上記内容は、STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
退院後のリハビリは STROKE LABへ
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)