【2024年版】下側頭回の機能とリハビリテーション:視覚認知と記憶の回復を目指して
はじめに
本日は下側頭回について解説したいと思います。この動画は「リハビリテーションのための臨床脳科学シリーズ」となります。
内容は、STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
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下側頭回とは?
部位
下側頭回は、大脳皮質の側頭葉に位置し、視覚的な物体認識や意味記憶など、多くの認知機能に寄与する重要な構造です。中側頭回の下に位置し、下側頭溝で区切られています。前方では側頭極に続き、後方では後頭葉まで伸びています。
血液供給
下側頭回への血液供給は、主に後大脳動脈 (PCA) の枝、特に側頭枝によって提供されます。これらの枝には、下側頭動脈、海馬傍動脈、後頭側頭動脈が含まれることがあります。PCA自体は脳底動脈から分岐し、椎骨脳底系の一部として中脳を囲み、複数の枝を形成します。
神経経路
下側頭回は、視覚系の腹側経路(ventral stream)、別名「何経路(what pathway)」の重要な部分です。形状や色などの物体の特徴を処理し、物体の認識と分類に寄与します。意味記憶の符号化と検索にも関連しています。
局所回路
下側頭回には、興奮性および抑制性の介在ニューロンが豊富に存在し、視覚情報の処理、特徴抽出、パターン認識に関与する重要なローカルネットワークを形成しています。
フィードフォワードおよびフィードバック接続
下側頭回は、一次および二次視覚野(V1およびV2)からフィードフォワードの視覚情報を受け取り、さらにV4複合体などの高次視覚野とも接続しています。これらのフィードバックループは、注意や記憶などの認知機能に基づいて視覚知覚を調節する役割を担います。
海馬および扁桃体との接続
下側頭回は、海馬および扁桃体と連絡を持ち、視覚情報を記憶および感情処理と統合します。これは、感情的に顕著な刺激の認識や、視覚情報の記憶エンコードに重要です。
前頭葉および側頭頭頂接合部との接続
下側頭回は、前頭前皮質と強い連携を持ち、意思決定、計画、作業記憶などの実行機能に関与します。また、側頭頭頂接合部との接続を通じて感覚情報の統合や社会的認知プロセスにも貢献しています。
白質路の役割
下縦束や下前頭後頭束といった主要な白質路は、下側頭回を他の脳領域と結び付け、迅速な情報伝達を可能にします。これにより、視覚情報の処理がスムーズに行われ、他の認知機能との連携が保たれます。
腹側視覚流における役割
下側頭回は「何の経路」とも呼ばれる腹側視覚流の中核として、物体の認識と視覚的識別を担います。形状、色、テクスチャなどの特徴的な視覚情報を処理することで、物体認識が可能となります。
病態像
視覚失認
下側頭回の損傷は、視覚的な物体認識に関与するため、一般的な物体や形状を認識できなくなる視覚失認を引き起こします。
相貌失認
損傷により、親しい人や家族の顔すら認識できなくなる相貌失認が発生する可能性があります。
色彩認識の障害
異なる色を区別することが困難になる場合があります。これは色覚認識の障害に関連しています。
感情的および社会的認識の問題
下側頭回は感情的に顕著な刺激の処理を担当し、扁桃体との連携があるため、損傷すると他者の感情表現の解釈が難しくなり、社会的相互作用や感情的知性に影響を及ぼす可能性があります。
知覚の変化と幻覚
視覚情報の処理が阻害されることで、視覚の変化や幻覚が生じる場合があります。
地形的見当識障害
環境の空間配置を理解し、記憶する能力が低下することで、地形的見当識障害が発生します。視覚空間情報の統合における下側頭回の役割が損なわれた結果です。
画像読解のポイント
ランドマーク 1: 外側溝 (シルビウス裂)
外側溝は側頭葉を前頭葉および頭頂葉から隔てる深い溝で、脳の外側面で最も顕著に見られます。
ポイント:
- 上行枝と前方枝の識別: 外側溝は上行枝と前方枝に分岐します。これらの枝はブローカ野やウェルニッケ野など、言語機能に関連する領域と位置関係があります。
- 島皮質の位置確認: 外側溝の深部には島皮質が存在し、感覚情報の統合に関与します。島皮質の評価は、てんかんや脳卒中の診断に重要です。
ランドマーク 2: 中側頭回
中側頭回は上側頭溝と下側頭溝の間に位置し、視覚的認知や記憶、言語理解に関与します。
ポイント:
- 上側頭回との関係: 上側頭回には一次聴覚野が存在し、聴覚情報の処理に重要です。中側頭回と上側頭回の位置関係を把握することで、聴覚と言語機能の障害を評価できます。
- 後部の結合: 中側頭回の後部は後頭葉と連続しており、視覚情報の高次処理に関与する領域と接しています。
ランドマーク 3: 下側頭溝
下側頭溝は中側頭回と下側頭回を分ける溝で、視覚情報の詳細な処理に関連する領域を識別するのに役立ちます。
ポイント:
- 紡錘状回の特定: 下側頭溝の内側には紡錘状回があり、顔認識や文字認識に重要な役割を果たします。紡錘状回の損傷は認知障害を引き起こす可能性があります。
- 海馬傍回との位置関係: 下側頭溝のさらに内側には海馬傍回が位置し、記憶や空間認識に関与します。
ランドマーク 4: 後頭側頭の境界
下側頭回が後方に伸びるにつれて、後頭葉との境界を形成します。この境界は視覚野の機能的な区分に関連しています。
ポイント:
- 後頭極の認識: 後頭葉の最も後方にある後頭極は、一次視覚野が存在する領域です。MRIで後頭極を特定することで、視覚障害の評価が可能です。
- 鳥距溝の識別: 内側面に位置する鳥距溝は、一次視覚野(V1)の上限と下限を分けます。視覚野の損傷評価に重要です。
論文トピック
①腹側路 (what 経路)
人間を対象とした頭蓋内脳波検査の研究において、腹側経路の反応パターンが示されています。この研究では、視覚刺激の処理が初期段階では低次の物理的特性に基づいて行われ、刺激後100~200ミリ秒の間に高次のカテゴリ情報へとシフトすることが確認されています。この遷移は物体認識のプロセスにおいて重要です。
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A temporal hierarchy of object processing in human visual cortex
②聴覚失認
聴覚失認は、音を認識することが困難となる稀な障害です。特に純粋な聴覚失認は両側の側頭葉損傷に関連しており、言語聴覚失認は言語優位の半球に病変がある場合に見られます。聴覚失認の病変部位は完全には解明されていませんが、聴覚経路および聴覚皮質、連合野、場合によっては脳幹が関与している可能性があります。この障害は併発する認知障害も多く、複雑な病態として研究が進められています。
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The Auditory Agnosias: a Short Review of Neurofunctional Evidence
③視覚失認
視覚失認は、視覚的に提示された物体を認識できないことを特徴とする障害です。知覚性視覚失認と連合性視覚失認の二つのサブタイプがあり、前者は頭頂皮質および後頭葉皮質の損傷に関連しており、後者は両側の下後頭側頭葉の損傷に関連しています。知覚性視覚失認では物体を視覚的に識別する能力が障害され、連合性視覚失認では物体の認識はできるものの、その意味を理解することが困難です。
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Agnosia
④相貌失認
相貌失認は、顔を認識できない障害で、特に発達性相貌失認(DP)が注目されています。近年の研究では、相貌失認の構造的および機能的基盤が明らかにされてきており、右紡錘状顔面領域や右上側頭溝のサイズや構造の減少が観察されています。さらに、右半球における白質の完全性やコアフェイスネットワーク、前側頭葉皮質との接続性の低下も確認されています。
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The Neural Correlates of Developmental Prosopagnosia: Twenty-Five Years on
観察ポイントと臨床のヒント
1. 視覚的な物体認識
視覚的物体認識の役割
下側頭回 (ITG) は、物体認識に関与する視覚の腹側経路の重要な部分です。この経路は、物体の形状、色、詳細な特徴の識別を処理します。
観察のポイント
☑ 色と形の認識
患者が色や形を正確に認識できるか確認するため、日常的な物に関する質問を行います。
例:「青いタオルを持ってきてください」「丸い時計を指してみてください」。これらの指示に従えない場合、物体認識に障害がある可能性があります。
☑ 物との相互作用
患者が日常的なアイテム(スプーン、コップ、薬の瓶など)を適切に認識し、使えるかどうかを観察します。これにより、物との相互作用能力が評価できます。
☑ 視覚刺激への反応
突然の視覚刺激(手を顔の近くに動かすなど)に対して瞬きなどの反応があるか確認します。瞬きの反応がない場合、視覚情報の処理に障害がある可能性があります。
臨床へのヒント
① 日常用品との相互作用
調理器具、衣類、日用品を患者に触らせ、名前や用途を教えた後、実際に使わせます。
② 色や形の分類練習
色や形の異なるブロックを用意し、患者に色や形に基づいて分類させます。さらに、指定した衣服を選ぶ練習を行います。
③ 柔らかいボールを用いた訓練
患者にボールをキャッチさせたり、避ける動作を繰り返させ、反射能力と協調動作を高めます。
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Silvia, 2022. The rehabilitation of object agnosia and prosopagnosia: A systematic review.
この研究では、物体失認に対する物体の個々の部分の分析が特に効果的である可能性が示されています。物体を形状と特徴に分解して再認識する方法を再学習するアプローチが効果的です。
2. 顔認識
顔認識の重要性
下側頭回は顔認識に重要な役割を果たします。顔を正確に識別する能力の低下は、相貌失認と関連しています。
観察のポイント
☑ 親しい人の顔の認識
主治医や家族の顔を識別できるかどうかを確認します。混同が見られる場合、顔認識に問題がある可能性があります。
☑ 顔に対する感情的反応
見慣れた顔に対する反応を観察します。不適切な反応や無反応は、顔認識能力の障害を示唆します。
☑ 会話中の人への言及
「あの人」「みんな」といった一般的な言葉を使い、具体的な名前を言えない場合、顔を認識する能力に問題があるかもしれません。
☑ 写真やビデオへの反応
知っている人の写真やビデオを見せ、その人物を正確に識別できるか確認します。識別できない場合、顔認識の問題が疑われます。
臨床へのヒント
① 顔写真を用いた感情認識訓練
様々な感情が表現された顔写真を見せ、感情を特定させる練習を行います。知っている人物の写真を使用し、徐々に写真の枚数や多様性を増やします。
② 表情の読み取りトレーニング
会話中に相手の表情に気づかせる練習を行います。例えば、驚いた表情や困った表情を意図的に見せ、患者がその感情を読み取れるか確認します。
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Brusson, 2006. The recognition of emotional expression in prosopagnosia: Decoding whole and part faces.
この研究では、相貌失認患者が顔の全体的な構造ではなく、顔の一部(目や口)を用いて感情を認識することがわかりました。部分的な手がかりは依然として有効である可能性があります。
3. 意味記憶
意味記憶の役割
ITGは、物体や単語、一般知識などの意味記憶に関与します。これには、物体の用途や社会的事実の保存と検索が含まれます。
観察のポイント
☑ 物体の理解
スプーンやペンなど、日常の物体の機能を正しく理解できているか確認します。使用に困難がある場合、意味記憶の問題が考えられます。
☑ 単語の検索
適切な言葉を見つけられない、または一般的なものを間違った名前で呼ぶ場合、意味記憶の障害が疑われます。
☑ 社会的事実の理解
曜日や季節、時事問題について患者に確認します。これらの事実を思い出せない場合、意味記憶に問題がある可能性があります。
☑ 一般知識の評価
「現在の総理は誰か」「国の首都はどこか」といった簡単な質問をして、一般知識のレベルを評価します。
臨床へのヒント
① 日用品の用途確認
キッチンツールや洗面用具などを使って、患者にその用途を説明させ、正しい使用方法を実演してもらいます。
② 日常の話題に参加させる
前日の天気やニュースについて患者と話し、意見や感想を聞きながら言語能力を促進します。
③ 一般知識クイズ
都道府県や歴史的な出来事に関するクイズを行い、患者の記憶や知識を刺激します。
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Piras, 2011. Evidence-based practice recommendations for memory rehabilitation.
記憶リハビリテーションに関する研究では、記憶再訓練プログラムや外部の補助装置が効果的であり、患者の日常生活の改善に寄与することが示されています。
4. 多感覚統合
多感覚統合の役割
ITGは、視覚情報を他の感覚(聴覚、触覚、嗅覚など)と統合し、環境の包括的な知覚を形成します。
観察のポイント
☑ 視覚と聴覚の統合
ドアのノック音やベルの音に対して視覚的な反応がない場合、視聴覚統合に障害がある可能性があります。
☑ 視覚と触覚の統合
熱い飲み物の湯気や冷たいグラスの結露を正しく認識できるか確認します。
☑ 視覚と嗅覚・味覚の統合
食べ物の見た目やにおいから味を予測できない場合、視覚と嗅覚・味覚の統合に問題がある可能性があります。
☑ 多感覚刺激への反応
複合的な感覚刺激(物体が急接近するなど)に対して適切に反応できない場合、多感覚統合に障害がある可能性があります。
臨床へのヒント
① 視覚と聴覚の連携練習
ドアノックやベル音を視覚的なイベントと関連付ける習慣を作り、感覚の統合を促します。
② 視覚と触覚の一致訓練
物体を見せ、触らせた後、同じ物体を選ばせるなどの練習を行い、視覚と触覚の連携を強化します。
③ 視覚、嗅覚、味覚の関連付け
レモンなどの食材を見せて味を予測させるなど、視覚と味覚の関連性を促します。
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Grace, 2023. Audiovisual multisensory integration in individuals with reading and language impairments: A systematic review and meta-analysis.
この研究は、読解力や言語障害を持つ人々の感覚統合の違いを示しており、彼らの認知能力に影響を与える可能性があることを示唆しています。
新人が陥りやすいミス
1. 感覚統合への勘違い
感覚統合の過程において、細かい機能障害を見逃すことがよくあります。これには、以下のような例が含まれます。
- 音楽のリズムに体の動きが合わない
- 色や形を正確に識別できない
こうした感覚統合の問題を見逃すと、リハビリの効果が低下し、患者さんの回復に遅れが生じる可能性があります。新人はこれらの微細な障害を見落としがちです。
2. 記憶障害に関しての対応ミス
新人セラピストは時代遅れの情報や無関係な情報を使ってしまうことがあります。患者さんの現在の状況や生活に関連した最新の情報を提供することが非常に重要です。
- 最新の情報や技術を使用することが、患者の関心を引きつけ、回復を助ける重要な要素となります。
- リハビリの内容を患者の生活に密接に結びつけることで、学習効果を最大化することができます。
これらの要素を無視すると、患者さんのリハビリの成果に影響が出る可能性があります。
位置と機能: 下側頭回はどこにあり、認知処理における主な機能は何ですか?
血液供給: 主に下側頭回に血液を供給する動脈はどれですか?また、関与する主要な枝は何ですか?
視覚系の腹側流れ: 下側頭回は視覚系の腹側流れにどのように寄与し、どのような種類の視覚情報を処理しますか?
局所回路と接続: 下側頭回内の局所回路と、海馬や扁桃体などの他の脳領域との接続について説明できますか?。
病理学的意味: 下側頭回の損傷が認知機能および感覚機能に及ぼす潜在的な影響は何ですか?
MRI ランドマーク: 下側頭回の位置を特定するために MRI で使用される 4つの主要なランドマークは?。
物体認識のための臨床観察: 患者の視覚物体認識能力を評価するための臨床観察ポイントと実践にはどのようなものがありますか?
相貌失認と治療戦略: 相貌失認とは何ですか?その治療に使用される臨床戦略は何ですか?
意味記憶: 下側頭回は意味記憶にどのように寄与するのでしょうか?また、それを評価しリハビリテーションするための方法にはどのようなものがありますか?
多感覚統合: 多感覚統合における下側頭回の役割を説明し、この機能を評価し改善するための臨床実践をいくつか挙げましょう。
位置と機能: 下側頭回は大脳皮質の側頭葉に位置し、視覚物体認識や意味記憶などの認知機能に関与しています。
血液供給: 後大脳動脈、特に下側頭動脈などの側頭枝は、下側頭回に血液を供給します。
視覚系の腹側ストリーム: 下側頭回は視覚系の腹側ストリーム (「何の経路」) の一部であり、形状や色などの詳細なオブジェクトの特徴を処理し、オブジェクトの認識と分類に役割を果たします。
局所回路と接続: 興奮性介在ニューロンと抑制性介在ニューロンのネットワークが含まれており、海馬や扁桃体などのさまざまな脳領域と接続して、視覚情報を記憶や感情の処理と統合します。
病理学的影響: 下側頭回の損傷は、視覚失認、相貌失認、色の認識困難、感情的および社会的認知問題、知覚の変化、幻覚、および地形見当識障害を引き起こす可能性があります。
MRI ランドマーク: 主要な MRI ランドマークには、側溝 (シルビウス裂)、中側頭回、下側頭溝、および後頭側頭縁が含まれます。
物体認識の臨床観察: 臨床的には、色や形を認識し、物体と対話し、視覚刺激に反応する患者の能力を観察することは、視覚物体認識能力を評価するのに役立ちます。
相貌失認と治療戦略: 相貌失認は顔を認識できないことです。 治療は、日常生活の状況における全体的な処理戦略と表情トレーニングに焦点を当てています。
意味記憶: 下側頭回は、事実情報の保存と検索に重要です。 その評価とリハビリテーションには、共通のオブジェクトの理解と使用、一般知識についての議論、記憶に基づく活動への参加が含まれます。
多感覚の統合:視覚情報を他の感覚と統合する役割を果たします。 この機能を評価および改善するための臨床実践には、視覚的手がかりと聴覚的手がかりの間の関連付けを作成すること、および視覚的および触覚的に物体を探索することが含まれます。
下側頭回(ITG)を意識したリハビリテーション展開例
登場人物
- 療法士:金子先生
- 患者:丸山さん
ストーリー
初回セッション: 評価と課題設定
初回のリハビリセッションで、セラピストの金子先生は、丸山さんが食事で使う道具、特にスプーンと箸を使う様子を確認することにしました。
金子先生: 「今日は、スプーンと箸を使ってみましょう。最近、食事ではどちらをよく使っていますか?」
丸山さん: 「スプーンですね。箸は、どう使ったらいいかよくわからなくて…うまく持てなくて。」
金子先生が丸山さんに箸を持たせると、丸山さんは戸惑い、どう操作すればいいのか迷っている様子が見られました。スプーンはある程度使えていたものの、箸では明らかに認識や使い方に難しさがあることがわかりました。
金子先生: 「箸の使い方が少しわからなくなる感じですね。大丈夫です。少しずつ練習していきましょう。」
総合評価とリハビリ目標の設定
このセッションを通じて、丸山さんの課題は、箸の認識や使い方に対する戸惑いがあることと、手先の動作のスムーズさに欠ける点にあると判断されました。リハビリの目標は、箸を再び適切に使えるようにすることです。
金子先生: 「まず、箸をもっと使いやすくしていきましょう。少しずつ練習して、最終的にはスムーズに使えるようになることを目指します。」
丸山さん: 「そうですね、箸を使えるようになったら食事が楽になると思います。よろしくお願いします。」
リハビリの計画と実施
金子先生は、次のステップでリハビリを進める計画を立てました。丸山さんに必要なリハビリ項目は、まず箸の名前と用途を再認識し、視覚的認識を強化し、最終的に多感覚統合を促進するという流れで行います。
2. 道具の名前と用途の確認
毎回、箸の名前と用途を声に出して確認し、箸が何であるか、どう使うかを意識させます。
1. 視覚的認識の強化
丸山さんが箸を視覚的に認識しやすくするために、形や持ち方を再確認する練習を行います。
3. 多感覚統合のトレーニング
視覚、触覚を組み合わせて箸を正確に使えるようにするトレーニングを行います。
リハビリの詳細と会話
2. 道具の名前と用途の確認
まず、丸山さんに箸を見せ、その名前と使い方を声に出して確認します。
金子先生: 「この箸、どう使うか声に出してみましょう。『箸で何をつまむか』も一緒に言ってみてください。」
丸山さん: 「箸で…唐揚げをつまむ。でもうまくつかめるかな?」
金子先生: 「少しずつで大丈夫です。名前を言うことで、使い方を思い出すのに役立ちますよ。」
丸山さんは、箸の名前と用途を声に出しながら使うことで、箸の認識を強化し、動作への不安を軽減していきました。
1. 視覚的認識の強化
次に、箸を正しく認識し、持つ位置や使い方を確認します。
金子先生: 「箸の形と長さを確認しながら、もう一度持ってみましょう。どこを持てばいいか見てください。」
丸山さん: 「少し長い感じがして…どこを持てばいいかが、すぐにはわからなくなってしまいます。」
金子先生: 「箸の先端に注目して、そこをつまむように持ってみましょう。」
丸山さんは箸を手に取り、先端部分に注意を向けながら少しずつスムーズに使う感覚をつかんできました。
3. 多感覚統合のトレーニング
最後に、金子先生は目を閉じて箸を触り、その感覚を覚える練習を提案しました。
金子先生: 「今度は目をつぶって、箸がどこにあるか、どう感じるかを触覚で確認しましょう。」
丸山さん: 「目をつぶると、箸の感覚がよりわかりやすいですね。ここが先端かな…?」
金子先生: 「そうです。目を閉じて触覚を使うことで、手の動きがさらに正確になりますよ。」
この練習を通じて、丸山さんは箸を使う感覚をつかむことができ、少しずつ自信を取り戻していきました。
結果と進展
リハビリを続ける中で、丸山さんは徐々に箸の扱いに慣れてきました。最初は戸惑っていた箸も、視覚と触覚を使った練習で少しずつ動かせるようになり、自信がついてきました。
丸山さん: 「まだ完全に使いこなせるわけじゃないけど、箸を持つのが少し楽になってきました。」
金子先生: 「その調子です。焦らず、少しずつ進んでいきましょう。今日はとても良くできましたよ。」
この調子でリハビリを続けていくことで、丸山さんは日常生活での自信を少しずつ取り戻していくことが期待されます。
今回のYouTube動画はこちら
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)