【2024年版】脳の島皮質と感覚統合療法:痛み、疼痛への効果的な評価・リハビリテーションとは?
はじめに
本日は島について解説したいと思います。この動画は「リハビリテーションのための臨床脳科学シリーズ」となります。
内容は、STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
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島とは?
部位
島(insula)は、側頭葉と前頭葉の間、外側溝(シルビウス裂)の奥に位置する独特な部位です。側頭葉の一部とはみなされず、前部島皮質と後部島皮質の二つの主要部分で構成されています。それぞれが異なる組織構造と機能を持つことが知られています。
血液供給
島への血液供給は、主に中大脳動脈 (MCA) の枝によって行われます。
- MCAの皮質枝は、シルビウス裂内を横方向に進むにつれ、複数の枝に分かれ島に血液を供給します。
- 特に、M2セグメント(島セグメント)と呼ばれる枝が、島に特化した血液供給を行います。このセグメントでは、MCAは上部幹と下部幹に分かれ、それぞれがさらに細かく枝分かれして島を供給します。
MRI画像読解ポイント
1. 外側溝(シルビウス裂)
- 位置と形状: 外側溝は大脳半球の外側面を走行する深い溝で、前頭葉、頭頂葉、側頭葉を分ける重要なランドマークです。
- 島の露出: 外側溝を広げると、その深部に島が位置していることが確認できます。
- MRIシグナルの特徴: T1強調画像とT2強調画像での外側溝の信号強度の違いを理解することで、島の位置関係をより明確に把握できます。
2. 島輪状溝
- 構造的特徴: 島の外周を取り囲む溝で、島と周囲の脳皮質を区別する境界として機能します。
- 機能的意義: 島輪状溝は、島の皮質領域を機能的に区分する役割も果たします。
- 画像での識別: MRI上で島輪状溝を明確に識別することで、島の解剖学的構造を詳細に評価できます。
3. 長回と短回
- 長回: 島の後部に位置し、縦方向に走行する脳回です。通常1つの長回があります。
- 短回: 島の前部に位置し、横方向に走行する複数の脳回(通常3つ)から成ります。
- 識別方法: MRI断面でこれらの脳回を識別することで、島の前後の領域を区別できます。
- 臨床的意義: 長回と短回の形態や信号変化は、てんかんや脳腫瘍などの病変の診断に重要です。
4. 島限(Limen Insulae)
- 位置: 島の前下部に位置する三角形の領域で、島と側頭葉を接続する部分です。
- 構造的特徴: リーメン・インスラエは、前頭頭頂弁蓋と側頭弁蓋が交わるポイントとして重要です。
- 画像での重要性: この領域は脳底部に近接しており、MRIでの詳細な観察が必要です。
論文トピック
“The Insular Cortex” by Nadine Gogolla (2017)
島皮質の概要と注目点
近年、島皮質は多くの精神疾患および神経疾患との関連が注目されています。特にげっ歯類モデルを用いた研究が進展し、人間の島皮質と比較することで、新たな知見が得られています。この研究によると、島皮質は感情や動機づけに関わる行動と強く結びついています。人間の島皮質はユニークな行動や認知機能に特有ですが、げっ歯類と多くの解剖学的・機能的側面を共有しており、基礎的な理解を深めるモデルとして有効です。
島皮質の解剖学的位置
人間の島皮質は、側溝の奥深くにあり、前頭葉、頭頂葉、側頭葉で覆われています。「隠れた第五葉」とも呼ばれ、島の中央溝により前部と後部に分けられ、異なる接続特性を持ちます。一方、マウスやラットなどの滑脳種では、島がより露出しており、半球の側面、主に鼻裂の上に位置しています。
島皮質の神経接合と多感覚入力
島皮質は、感覚、感情、動機、認知機能に関与する多くの脳領域と接続しており、解剖学的統合ハブとして重要な役割を果たします。外部情報(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、体性感覚など)と内部情報(内受容感覚)を受け取り、それぞれが島内で地形的に組織化され、特定の区域に割り当てられています。
島皮質のクロスモダル接続とマルチモーダル統合
島皮質はクロスモダル接続を持つため、様々な感覚システム間の相互作用を可能にし、感覚情報の統合を実現します。この統合により、注意、記憶、意思決定といった高度な認知機能が促進されます。たとえば、食事の際に味覚や嗅覚、体性感覚、聴覚が組み合わさり、統合された感覚経験が生まれます。
神経調節の役割と多様な接続
島皮質は、感覚・感情処理だけでなく、神経調節入力(基底核のコリン作動性求心性、腹側被蓋野のドーパミン作動性、縫線核のセロトニン作動性、青斑核のアドレナリン作動性)を受け、他の脳領域と広範に接続しています。主な接続領域は、前帯状皮質 (ACC)、扁桃体 (Amy)、分界条床核 (BNST)、手綱核 (Hb)、視床下部 (Hyp)、内側前頭前皮質 (mPFC)、側坐核 (NAc)、眼窩前頭皮質 (OFC)、中水道周囲灰白質 (PAG)、橋結合腕傍核 (PBN)、海馬傍回 (PH) などです。
島皮質の主な役割
- 多感覚情報の受容: 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、体性感覚などの外部および内部の感覚情報を処理します。
- 刺激の顕著性のプロセス: 馴染みのある刺激とそうでない刺激を区別します。
- 刺激の価数評価: 感覚刺激がポジティブかネガティブかを評価します。
- 情報の統合: 感情データと認知データを結合して意思決定を支援します。
- 身体感覚の知覚: 内部の身体状態(心拍数など)を感知します。
- 身体的反応の寄与: 感覚や感情に基づく身体的反応を引き起こします。
- 脳ネットワークとの相互作用: 他の脳領域と協力して感情や認知処理を支援します。
- リスク評価: 社会的状況における潜在的なリスクを評価します。
- 結果予測: 社会的相互作用や意思決定の結果を予測します。
- 感情反応の引き起こし: 感情的反応を通じて認知状態と身体状態に影響を与えます。
- 行動決定: 環境の状況に応じて最適な行動を決定します。
- 意思決定の結果予測: 予測された結果に基づいて、行動の結果を予測します。
- 行動影響: 予測された結果に応じて、接触を求めるか回避するかの行動に影響を与えます。
新人が陥りやすいポイント
① 認知制御
多重課題の管理不足:新人セラピストは、複数のタスクを同時に進める必要がある際、タスクの数や複雑さを適切に管理するのが難しい場合があります。
- タスク進行の際には、患者の反応や負担の程度を観察しながら、柔軟に対応する力が求められます。状況に応じてタスクの進行速度や内容を調整できるよう、経験を積んでいくことが大切です。
② 痛みに関して
感覚活動の過度な刺激:新人セラピストは、患者のフィードバックや反応を見逃し、一方的に感覚刺激を与え続けることがあります。
- 患者の声や表情からフィードバックを得て、それに基づいてアプローチを調整することが必要です。痛みや不快感に対して敏感に反応し、患者にとって無理のない治療環境を整えるよう努めることが重要です。
- 島の位置: 人間の脳における島の解剖学的位置は?
- 血液供給: 島への血液供給を担う主要な動脈は何ですか?またその主な枝は何ですか?
- MRI ランドマーク: シルビウス裂や島溝など、島の位置を特定するための MRI 画像における重要なランドマークを特定してください。
- 比較解剖学: 人間の島膜は解剖学的にげっ歯類の島膜とどのように比較されますか?また、この比較がなぜ重要なのでしょうか?
- 島皮質の機能: 脳の島皮質の主な機能を少なくとも 3 つ挙げてください。
- 神経接続: 島皮質はどのような種類の感覚情報を処理しますか?また、その主要なクロスモーダル接続にはどのようなものがありますか?
- 臨床的意味: Namkung、Kim、Sawa (2017) の論文で強調されているように、臨床神経科学、精神医学、神経学の文脈における島皮質の重要性を説明してください。
- 感覚統合療法 (SIT): 感覚統合療法とは何ですか? 島皮質に問題がある患者の臨床現場でどのように応用できますか?
- 痛みの知覚: 痛みの知覚における島皮質の役割と、臨床現場での痛みの管理に取り組む戦略について説明してください。
- 認知制御と意思決定: 認知制御と意思決定における島皮質の役割を説明し、この機能が患者の行動や治療の選択肢にどのように現れるかの例を示してください。
1.島の位置: 島は人間の脳の側溝の深部に位置し、側頭葉と前頭葉の間にあります。前部と後部に分かれており、それぞれ異なる機能を持っています。
2.血液供給: 島の血液供給は主に中大脳動脈 (MCA) の枝から得られ、シルビウス裂でいくつかの皮質枝に分かれて島に血液を供給します。
3.MRI ランドマーク: MRI 画像では、島はシルビウス裂や島溝といったランドマークにより特定できます。島の長回と短回も断面画像で確認できます。
4.比較解剖学: 人間の島は側溝の奥深くに位置し、げっ歯類の島とは異なり露出していません。この比較は、異なる種間での神経機能の類似点を理解するために重要です。
5.島皮質の機能: 島皮質は、多様な感覚入力(聴覚、体性感覚、嗅覚、味覚、視覚、および内受容情報)を処理し、感覚経験を統合し、感情および認知機能に関与しています。
6.神経接続: 島皮質は、様々な感覚情報を受け取り、クロスモーダル接続を介して複雑な認知機能の処理を可能にします。
7.臨床的意味: 島皮質は感情処理と神経機能に重要であり、神経科学、精神医学、神経学の分野での理解が、神経精神疾患の新たな治療戦略に寄与する可能性があります。
8.感覚統合療法 (SIT): SIT は、患者の特定の感覚課題を評価し、適切な感覚活動を通じて感覚処理を改善するアプローチです。島皮質に問題がある患者に適用すると、意識と感覚への反応が向上する可能性があります。
9.痛みの知覚: 島皮質は痛みの知覚に関与し、痛みの感情的および身体的側面を処理します。管理戦略には、痛みの用語理解、痛みスケールの使用、痛みの感情的側面への対処が含まれます。
10.認知制御と意思決定: 島皮質は注意、リスク管理、意思決定に影響を与え、報酬とリスクの評価を通じて、治療選択肢の意思決定に重要な役割を果たします。
島を意識したリハビリテーション展開例
登場人物
- 療法士:金子先生
- 患者:丸山さん
ストーリー
初回セッション:課題の確認と評価
丸山さんは、痛みを他者にうまく伝えるのが難しいという課題に取り組むため、金子先生と初回のリハビリセッションを開始しました。金子先生は、丸山さんが痛みを数値、表情、言語で表現できるよう、感覚統合療法(SIT)も取り入れてサポートを行います。
金子先生: 「丸山さん、今日は痛みについて、どうやって伝えるかを一緒に考えながら練習していきますね。」
丸山さん: 「はい、他の人に伝えるのがうまくいかなくて…。少しずつでもできるようになりたいです。」
場面: リハビリテーションルーム。金子先生と丸山さんが椅子に座り、痛みのスケールや感覚統合療法に関する訓練を行っています。金子先生は丸山さんの進捗を注意深く観察し、丁寧に指導を続けています。
シーン1: 痛みの数値化
金子先生(メモを取りながら、穏やかな声で)
「では、丸山さん、まず今の痛みを0から10のスケールで表していただけますか? 0は全く痛みがない状態で、10が最も強い痛みです。」
丸山さん(少し考えながら、眉をひそめる)
「今は…そうですね、3くらいでしょうか。少し痛みはありますが、それほど強くはないです。」
金子先生(うなずきながら)
「分かりました。では、その3という痛みが、どのように感じるのかも表現してみましょう。」
シーン2: 表情スケールの使用
(表情のイラストシートを丸山さんに見せる金子先生)
金子先生
「この中から、今の痛みに一番近い表情を選んでみてください。どれがしっくりきますか?」
丸山さん(シートを見て選びながら)
「これですかね、ちょっと困ったような表情が今の痛みに近い感じがします。」
金子先生(笑顔で)
「いいですね、表情での痛みの表現も大事な方法です。言葉では表現しづらい痛みも、こうやって他の方法で伝えることができます。」
シーン3: 言語での痛み表現
金子先生(丸山さんに優しく問いかける)
「今の痛み、どんな感じか具体的に言葉で説明してみてください。ズキズキした痛みですか、それとも鈍い痛みですか?」
丸山さん(額に手を当て、考え込む)
「ズキズキというより、鈍くてずっと続く感じです。動かすと少し広がる感じもします。」
金子先生(メモを取りながら)
「なるほど、鈍い痛みですね。それが続いている感覚、そして時折広がる感覚もしっかり捉えられていますね。」
シーン4: 感覚統合療法の実施
(机に用意された冷たいタオルと温かいタオルを示しながら)
金子先生
「次は、感覚統合療法を行います。冷たいタオルと温かいタオル、両方に触れてみて、それぞれの感覚の違いを感じ取ってください。」
丸山さん(冷たいタオルに触れ、少し顔をしかめる)
「冷たいと、体がキュッと縮まる感じがします。」
金子先生(うなずきながら)
「では、次は温かいタオルに触れてみましょう。」
丸山さん(リラックスした表情で)
「温かいと少し安心感がありますね。緊張が和らぐ感じです。」
金子先生
「その違いをしっかりと感じ取ることが大切です。痛みがどのように感覚に影響しているのかを理解することで、より具体的に痛みを表現できるようになります。」
シーン5: 痛みと感覚のマッピング
(痛みのある部位を記録するための図を机に広げる)
金子先生
「今度は、この図に痛みを感じている場所と、そこで感じた感覚を書き込んでみましょう。どんな感覚を感じたのか、詳しく記録してみてください。」
丸山さん(ペンを取り、図に書き込みながら)
「痛みを記録すると、どこがどんな風に痛いのか、もっとよくわかる気がします。」
金子先生(うなずきながら)
「そうですね、こうやって可視化すると、他の人にも説明しやすくなりますし、自分自身も痛みのパターンがより理解できるようになります。」
結果と進展
ナレーション
数週間のリハビリを通じて、丸山さんは痛みを数値や表情、言葉で的確に表現できるようになりました。感覚統合療法を通じて、異なる感覚を意識し、痛みと他の感覚の違いを認識することで、自信を持って他者に痛みを伝える力を身につけています。
金子先生(満足そうに微笑みながら)
「丸山さん、最近は痛みの感じ方や表現がとても上手になりましたね。ご家族にも伝えやすくなったのではないですか?」
丸山さん(うなずいて)
「はい、家族も理解してくれて、以前よりも安心して過ごせるようになりました。感覚が少しずつわかってきて、本当に助かっています。」
結果と進展
数週間のリハビリを通して、丸山さんは痛みを数値、表情、言葉で表現できるようになりました。感覚統合療法を通じて、異なる感覚を意識し、痛みと他の感覚の違いを認識することで、自信を持って他者に痛みを伝えることができるようになりました。
金子先生: 「丸山さん、痛みの感じ方や表現がしっかりとできるようになりましたね。家族にも痛みを伝えやすくなったのではないですか?」
丸山さん: 「はい、家族も理解してくれて、以前よりも安心して過ごせるようになりました。自分の感覚が少しずつわかってきて、本当に良かったです。」
金子先生と丸山さんは、引き続き痛みの管理と表現力の向上を目指し、リハビリを続けていくことを確認しました。丸山さんの生活の質が向上し、他者とのコミュニケーションも円滑になってきています。
今回のYouTube動画はこちら
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)