vol.24 :脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー:感覚統合の異常がバランス制御に与える影響
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カテゴリー
脳科学,バランス
タイトル
異常感覚統合が脳卒中後片麻痺患者のバランス制御に与える影響 Abnormal sensory integration affects balance control in hemiparetic patients within the first year after stroke←Pubmedへ Clarissa B. Oliveira et al:Clinics.2011;66(12):2043-8
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・ミラーを使用し、「○○さん右へ傾いているので姿勢を直しましょう。」という訓練を見かけるが、生活レベルになると反映されないことも多い。
・視覚情報を優位にすることで改善の可能性があるのか?疑問に思い読んでみた。
内 容
要 約
●バランス障害は運動や感覚の変化,そして運動制御における統合的結果である
●この研究の目的は,脳卒中発症後1年経過した片麻痺患者と神経学的に異常のない同年齢の健常者にて,Berg Balance Scale(BBS)とSOTにてバランスコントロールを比較すること
●研究中で使用する感覚組織試験(the Sensory Organization Test:SOT)は,コンピュータ制御された動的な姿勢動揺検査の一つであり,様々な条件下での感覚紛争(多感覚統合),視覚・前庭感覚・体性感覚情報の影響を感覚の再重み付けとして評価
●姿勢安定性を達成するために最も適切な感覚情報を選択する能力は,バランス障害を解決することに貢献するかもしれない
図1:SOT条件(≒シュチエーション別における感覚紛争・感覚利用程度)(Clarissa B. Oliveiraら2011)←pdfへ
1.Normal(視覚/前庭感覚/体性感覚) 2.視覚遮断/傾斜なし(前庭感覚/体性感覚) 3.視覚的奥行き追随/傾斜なし(視覚↓/前庭感覚/体性感覚) 4.視覚的奥行き追随なし/傾斜(視覚/前庭感覚/体性感覚↓) 5.視覚遮断/傾斜(前庭感覚/体性感覚↓) 6.視覚的奥行き追随/傾斜(視覚↓/前庭感覚/体性感覚↓)
方 法
●対象:発症後1年経過した脳梗塞片麻痺患者21人と神経学的問題のない健常人21人
●BBSとSOT(身体平衡の程度を数値化)の結果を比較・検討 ●平衡度合いの点数は,SOTにて定義・算出
結 果
●BBSスコアは,健常者と比較して脳梗塞後片麻痺患者にて優位に低下を認めた
●平衡スコアにおいても,適切な体性感覚情報の不提供と感覚紛争(多感覚統合)が要求されるSOT条件下にて,健常者よりも脳梗塞後片麻痺患者の方が優位に低下を認めた
●平衡スコア低値を伴う脳梗塞後片麻痺患者において,転倒を頻繁に認めた
図2:脳卒中片麻痺患者と健常人におけるSOT結果の比較(Clarissa B. Oliveiraら2011)←pdfへ
ポイント
●脳卒中発症後1年の間に,異常な感覚の再重み付けは脳卒中片麻痺患者におけるバランスコントロールに多大な影響を与える
●異常な感覚の再重み付け(Sensory weightnig)の修正・解決,すなわち姿勢安定性を達成するために最も適切な感覚情報を選択する能力は,バランスコントロールの改善に寄与する可能性を示唆
臨床アイデア・私見
●このStudyでは,BBS(姿勢バランスが多少崩れても検査項目を遂行できれば点数化)とSOT(sensory weightingによる感覚の利用比率)の代償的側面と機能的側面でのバランス能力を推測することができる
●片麻痺患者と健常人において,特に条件4・5のような足関節戦略を誘発させない,つまりは体性感覚情報を利用させないような状況下でのバランススコアに著名な有意差を認めている
●ヒトの姿勢コントロールにおける感覚利用の第1選択は体性感覚であり,この結果は視覚や前庭感覚に依存したバランスコントロールを要求した結果,2群間に有意差がでたことが考えられる
●臨床上,ミラーを用いたバランス・姿勢矯正訓練をみたことがあるかもしれないが,視覚優位で学習した姿勢コントロールは,視覚を用いれないシュチエーションではバランス不良.最悪は転倒を起因させる可能性すらありえる
●ヒトの身体的平衡(≒垂直知覚:Perception of Verticality)は,視覚・前庭感覚・体性感覚それぞれの感覚情報を参照しながら統合(多感覚統合)することが必須であり,どれに偏ることもバランスにはいい影響を与えない
●ADL評価での「BI・FIMで何点だったか?」のように,「BBSで何点だった」という客観的数値のみの視点だけでなく,自身の担当する患者はどの感覚情報に依存していて,どの感覚情報を適切化することがバランスコントロールにいい影響を与えるのかを,リアルタイムの現象学の中でセラピストは評価する必要性がある
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)