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vol.35:ネイマールの脳から学ぶ効率的な運動制御とは? 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー

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カテゴリー

脳科学,運動制御,アスリート
 
 
 

タイトル

ネイマールに学ぶ脳の効率的運動制御
Efficient foot motor control by Neymar`s brain?PubMedへ
Naito E et al:Front Hum Neurosci. 2014
 
 
 

内 容

概 要

●今日,脳の可塑性は成人脳でも認められることが明らかとなっており,例えば手の運動スキルの練習を頻回に行えば,数日から数週で対応する脳のM1領域が拡張する
 
●これはfMRIにより酸素と結合したオキシヘモグロビンと,酸素を放出したでオキシヘモグロビンの比率を表すBOLD信号によって明らかとなった
 
●プロサッカー選手であるネイマールの足関節に注目すると,足関節運動中の対応する脳の運動領域の神経活動の低下が認められる
 
●これはピアニストの先行研究においても示され,豊富な知覚運動経験と多様性がある四肢は,運動中の運動野の発火が少ないことが明らかとなっている
 
●我々はネイマールのような熟練者の解析をすることで,この単一運動において神経発火が少ないことが,より明らかとなると考え,本研究を行った
 
 
 

目 的

●足関節の運動中における,ネイマールを初めとしたプロサッカー選手の内側壁運動野の活動を明らかにすること
 
 
 

方 法

●対象者:18~32歳の健常男性7名(内訳:ネイマール,サッカープロリーグ所属3名,水泳選手2名,アマサッカー選手1名)
 
●MRI測定:·実験手続き;被験者を閉眼,脱力,膝をベルトで固定,ヘッドフォンをした状態でMRIスキャナー上に臥床させた.右足首以外の身体を動かさないよう指示を与えた.開始の指示の後,1Hzのメトロノーム音に合わせ,右足首を左右方向に交互に回旋させた.1試行で計8回の回旋を行わせ,15秒の間を経て,計2試行を行った.ネイマールのみ,特別に3試行目を行い,回旋の動きを大きくするよう指示を与えた.足の動きをデジタルビデオカメラ(SONY社製:日本)で記録した.
 
●データ解析:fMRIデータを解析ソフトであるSPM5を用いて解析した.画像上のvoxelを足関節運動に関連すると考えられる,補足運動野・帯状皮質運動野・一次運動野・一次感覚野の領域に分類し,各領域で運動中に発火しているvoxelの数を計算した.
 
●脳の活動量は内側壁運動野の活動量をT-valueとして算出した.また,二次元上の拇趾の軌跡を計測し足部の運動量の平均値を算出することで,脳の活動と足部運動量の関係性を検討した
 
●統計解析:voxel数,T-value,足部運動量の各項目においてMann-Whitneyの検定を用いて,プロ選手とアマ選手間で差があるか検討した(nはプロ群:8試行、アマ群:6試行)また,個人と他の選手間を比較した(nは個人:2試行、他選手:12試行)
 
 
 

結 果

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Fig1:2-session分析の結果
●全被験者において,足関節運動が内側壁運動野を活性化させた.voxel数においては,プロ選手群がアマ選手群よりも少なかった.また,ネイマールのvoxel数および内側壁運動野のT-value値が全被験者の中で最小値であった
 
●さらに,サッカーの経験年数とvoxel数を用いてSpearmanの相関係数を求めるとr=-0.7,p=0.078であり,負の相関が認められた

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Fig2:single-session分析の結果
●voxel数およびT-value値は足関節運動量と関連はなかった.また,プロ選手群とアマ選手群間に足関節運動量の差はなかった
 
●また,ネイマールのvoxel数およびT-value値はは他の被験者より明らかに少なく,特別に行った3試行目(赤枠)では足関節を大きく動かすよう指示を与えたが,脳活動は前の2試行と同様,小さい値であった

 
 
 

考 察

●サッカーにおいて熟練者の内側壁運動野の活動が少ないことは,ピアニストやドラマーの熟練者の脳活動を調査した先行研究の知見と一致する
 
●すなわち,長期間の集中的な四肢の使用は,中枢神経系の可塑的な変化をもたらすと考えられるが,現時点の研究で明らかとなっているのは,楽器演奏者の手指や、,スポーツにおける足関節の場合のみである
 
●今回,ネイマールという特異的な例において,より神経発火が少ない現象が見られた.行ってきた練習量などを厳密には規定できないが,例えばネイマールが行ってきた種類の異なる50種類のボールでサッカーを長期間練習してきたことなどは,足関節の多様な制御を繰り返し行うことにつながったと考えられる
 
●多様な環境下での繰り返しの運動により,シナプスの伝達効率を改善し,より少ないオキシヘモグロビンによる酸素運搬でも,十分な伝達を行うことが可能になると考えられる
 
●ネイマールはこれにより血流をより高度な認知機能を司る部位に配分でき,運動中により高度な判断を伴った動作が可能となり,高いパフォーマンスを発揮できているのではないだろうか
 
 
 

明日への臨床アイデア

●治療においては多様な姿勢戦略や動作パターンを獲得できることが,運動野の必要な血流量を減少させ,注意や判断機能など高次な機能を司る部位に血流を配分することができる可能性が示唆された
 
●これは基本動作などの練習においても,多様な姿勢戦略を用いながら十分な量をこなすことで中枢神経系の変化をもたらし,注意や判断などより高次な機能の改善にもつながる可能性が示唆された
 
●本研究は介入研究ではないが,中枢神経系の可塑的な変化を起こすには,ある程度の量が担保される必要があると考えられる
 
●量が担保できれば,中枢神経系にも可塑的な変化を起こすことが十分可能であることが明らかとなり,リハ介入時のみでなく,生活動作レベルでの修正ができるための介入や環境設定が重要であると考えられる
 
●リハの研究となるとどうしても症例ベースとなってしまうが,今回のようにプロアスリートや熟練者を対象として健常者と比較することで,ヒトが固有で持っている可塑性を探ることができ,ヒト共通の事項として,臨床に応用できる可能性が示唆された
 

執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表

・国家資格(作業療法士)取得

・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務

・海外で3年に渡り徒手研修修了

・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆

 
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