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vol.47:身体と脳の可塑性~盲目者からその謎を探る~ 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー

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カテゴリー

脳科学
 
 
 

タイトル

身体と脳の可塑性:盲目者からその謎を探る Body and brain plasticity: Unraveling its principles through blindness?原著PDFへ Raquel Martínez-Méndez et al:Recent Res. Devel. Neurosci., 4 (2013): 89-107 ISBN: 978-81-308-0525-2
 
 
 

内 容

概 要

●生物個体の可塑性は生物特有の現象で、特に神経系システムにおいては今まで多くの研究がなされてきた
 
●神経系の再組織化が、応用的な行動反応、個人間の行動特異性、そして多くの神経病に対して影響することは当然である
 
●例えば神経システムの再構成は、それらが使われるか否か(use it or lose it)によるということは周知の事実となっている
 
●一方、神経システムの弱化は、神経接合部数の減少か、ある個所を支配している領域内の神経ネットワークのレパートリーの減少とされている
 
●今回は盲目者の例を用いて、視覚欠損後の“探す”感覚の補償として神経回路の再編成が、多く使われることにより生じた例を提示する
 
●特に最近の研究で盲目は単なる神経状態ではなく、個体の可変性を示す最良のモデルとされ、神経システムを復活させるプロトコルの一助となりうるものである
 
 
 

目 的

●盲目者に関する多くの研究から科学的根拠を提示し、神経可塑性についての考えを改めること
 
【盲目の生物学調査のための実験モデル】
●過去の研究で、盲目現象の再現およびメカニズム理解のために設定した動物モデルのリストをTable.1に作成した
 
●Table.1には、各モデルの眼の状態、動物種、眼機能の欠損度、眼・眼神経レベルの修正、脳実質の修正、類似する病態についてのまとめが掲載されている
 
●これらの研究を基に可塑性の基本原理をまとめていった
 
●黄班退化症や緑内障、網膜炎などを想定した病理モデルを採用することで、網膜が部分的に働かないのか、全て働かないのか、という多様な症例を想定することができた
 
●他にも片目や両目を除去したモデルや、神経核を除去したモデルを作成し、視覚経験が無い個体における可塑性の可能性を探求し、比較した
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Table.1:各モデルの病態一覧 Raquel Martínez-Méndez et al:2013より修正引用

 
 
 
【盲目と脳の可塑性:基本原則、原理について】
●盲目者について知られているのは、聴覚情報と感覚情報への依存が高まっていることから、感覚野と聴覚野が拡張しており、さらに視覚野の前方領域が感覚と聴覚の機能を担うようになることである
 
●これは通常の脳の機能解剖と比較して、明らかに脳の可塑性が生じている現象である(Figure.1 blue:視覚野、green:感覚野、purple:聴覚野)
 
●これは誘発された神経活動の増加に起因していると長く主張されている
 
●しかし私たちの調査は、神経核を除去された新生児マウスから得られたスライスにおいて、S1領域が積極的に活動中となるまでに、S1領域の自発的な活動は減少していた
 
●これはグルタミン酸とGABAの減少と同時に起きている
 
●さらに、これらのマウスでS1が最も拡張したのは、ラットの子供が周囲環境に興味を持ち積極的に探索をする小児時代ではなく、生まれた数日後であった
 
●このように、1つ目の原則は、盲目者の脳内における単なる自発的な脳の活動性と可塑性の増加は、一貫した可塑性の主要な要因ではなく、視覚情報の“欠損”があることが感覚と聴覚のinputを増やし、S1とA1領域を拡大し、視覚野の前方を再活性化することが主要な要因と考えられる
 
●しかも単なる欠損ではなく、外界をとらえる眼球の有無によっても変化する
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Fig.1:盲目者の脳における可塑性 Raquel Martínez-Méndez et al:2013より引用

 
 
 
●2つ目の原則は、視覚喪失の状態のみであることは、早期発達段階の構造的な可塑反応を生じるのに十分でなく、感覚器官および経路の解剖学的結合性についても考慮することが必須である
 
●これは脳の磁気画像から、視覚喪失と同時に関連する外側膝状体(LGN)や、一次視覚野(V1)などの体積が減少したことから明らかとなった
 
●つまり脳の可塑性は「埋め合わせるための感覚を探している」と表現することができる(しかし盲目者は味覚識別課題に弱かったりするなど、完全に感覚を埋め合わせできている訳ではない)
 
●3つ目の原則は、可塑性は失った部分の本質的な埋め合わせではなく、あくまで付随的なものである,ということである
 
●これには、感覚皮質は遺伝的に構成が完全に決められたものでないという事実や、脳が建設されても元々あった連絡繊維などが少なからず残っている部分があること、神経系の再生においては余分な結合は削除されてしまうことなどが挙げられる
 
●4つ目の原則は、ある新皮質は一つの、あるいは複合の感覚部を持つ領域に分かれるのではなく、単一の領域が複数隠れ、機能的な階層性を構築するようになるということである
 
●これは近年の解剖、生理学的研究成果からも明らかとなっている
 
●5つ目の原則は、盲目者のS1領域が可塑反応を起こしている段階では、いわゆる「use it or lose it」 という格言は「all or nothing」という原則には従わないということである
 
●6つ目の原則は、成人のような成熟脳は大規模な可塑反応を示す可能性を秘めている、ということである
 
●可塑反応は若く、未熟な脳で盛んと考えられていたが、Merzenich(1983)らの研究により、その思い込みは間違いと証明された
 
●また、「老いたサルが新しいトリックをたやすく学んだ」という研究も報告されている
 
●7つ目の原則は、出生後の経時的なイベントによる経験が、脳自体の可塑性を起こしうる、ということである
 
●これは神経核を生後に取り除かれたラットよりも、新生児の段階で取り除かれたラットの方がS1領域の急速な拡大が見られたことから報告された
 
●8つめの原則は、盲目状態は可塑性を引き出すための独占的な状態とはいえないが、身体の末梢も中枢神経システムの一部として作用しているということである
 
●これは盲目となると身体が適応するために活動しなければならず、それが脳への重要な影響をもたらすことから言われている。環境が脳の組織化と十分に関連している
 
●9つめの原則は、盲目状態は長期にわたって、脳―身体の相互依存性に変化を起こさせる、ということである
 
●これは表皮成分の変化や、メルケル盤の数が変化した研究から明らかとなった
 
●10つ目の原則は、盲目状態は単なる神経学的状態ではなく、身体全体の状態として捉えることができる、ということである
 
●これは皮膚のアレルギー反応が変化したり、表皮のT細胞数が減少したことなどから提唱されている(Fig.4)
 
●まとめると、多くの研究から、視覚欠損後は脳および身体双方がその機能代償に寄与していることが分かる
 
●順序として、脳の再組織化はすぐに起こるが、免疫システムは運動機能が再編するには数週間、および数ヶ月を要する
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Fig.4:表皮T細胞の変化 Raquel Martínez-Méndez et al:2013より引用

 
 
 

考 察

●脳の可塑性に多くの神経科学者が魅了され、概念や科学的技術が急速に発展している
 
●この観点から、盲目者は可塑性の原則に迫るためにユニークな情報を提供している
 
●私たちは可塑性の役割と定義を再考することができ、また身体自体が感覚欠損に対して適応するということも明らかにした
 
●このように、盲目者は単に盲目というだけではなく、完全に新しい個体として機能すると考えた方が良いだろう
 
 
 

私見・明日への臨床アイデア

●中枢神経疾患の治療は多くあるが、末梢の運動器官だけを対象にするのではなく,それらの神経系を含めたシステムとして再構築していく、という視点は必要だと強く感じた
 
●神経系の再組織化のためのプロトコルは,専門職として共有すべき情報であると感じた
 
●特に科学的に示されている神経再組織化に必要な事項として条件設定や、特異性、反復回数、強度、集中度、時間経過などをどう臨床に応用させていくかが治療家として力量の見せどころである
 
●Constraint Movement therapy(CI療法)や川平による促通反復療法は,これらのヒントになるかもしれない
 
 

執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表

・国家資格(作業療法士)取得

・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務

・海外で3年に渡り徒手研修修了

・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆

 
 
 
 
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