vol.77:上肢活動に伴う体幹の予測的姿勢制御(APA)について 脳卒中/ 脳梗塞 リハビリに関わる論文サマリー
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カテゴリー
バイオメカニクス,上肢
タイトル
上肢活動に伴う体幹の予測的姿勢制御(APA)について Trunk Muscle Activation at the Initiation and Braking of Bilateral Shoulder Flexion Movements of Different Amplitudes?PubMedへ Eriksson Crommert M et al:PLoS One. 2015 Nov 12;10(11):e0141777
内 容
Introduction
●肩の自発的かつ急速な動きは身体を動揺させます。外乱の影響を最小限にするために反作用力、脊柱の安定化が必要となる。予測的に先行する筋の活性化(予測的姿勢制御)が注目されている。
●健常人では、肩屈曲運動開始時に腹横筋(TrA)が最初に活性化され、この活性はlow back painに問題を抱える人では減弱または存在しないことが報告されている。
●肩屈曲の速度を最大から最小まで低下させると、TrAの活性化が遅延することが示されています。
●様々な予測的な先行性の体幹筋の研究がなされてきたが、動きの終了の位置が規定されている研究はほとんど見当たりません。
●運動の振幅の増加は、腕の加速度の持続時間を増加させ、より速い摂動、より大きな摂動をもたらす。
●本研究の目的は、両側の急速な肩屈曲の間の体幹筋活動パターンが運動の振幅によってどう影響を来すかどうかを調べることであった。
方 法
(Eriksson Crommert M et al:2015)?PubMedへ
●11人の健康な男性が、開始位置0°から45°(small)、90°(medium)または180°(large)の範囲の肩屈曲運動を行い、それを観察しました。(fig.1)
●被験者は裸足で床に立ち、両腕をビープ信号に応答して可能な限り早く挙げるよう指示されました。約5秒後、被験者は指令を受けて、腕を下ろしました。
●加速の定義:肩の角加速度が標準偏差の閾値レベルを上回って上昇し、20msにわたってこのレベルを超えた瞬間として定義されました。
●減速の定義:減速開始は、肩の角加速度が0ラインを横切った瞬間として定義され、中振幅および大振幅の動きの間、しばらくの間0付近で振動しました。
●この振動が起こったとき、減速の開始として定義された。運動の終了は、角加速度が0に戻った瞬間として定義されました。
●7つのカメラと16の反射マーカー(fig1Bとfig1Cを参照)で身体の動きを評価しました。
●EMGは、腹横筋(TrA)、内腹斜筋(OI)、および腹直筋(RA)、脊柱起立筋(ES)および表面の三角筋から両側で測定しました。
●3D運動を記録し、逆動力学を使用して、肩部の線形および角運動量に対する反応性線形力およびトルクを計算しました。 (Eriksson Crommert M et al:2015)?PubMedへ
●(fig 2): Mediumの肩の動きを3回繰り返した時の4つの異なる体幹筋の最大自発収縮時の肩の屈曲の平均角速度と加速度、肩の高さにおける体幹の平均反応トルク、および平均正規化EMGが示される。 •実線の縦線は、1 =加速開始、2 =減速開始、および3 =運動の終了を示す。破線は、三角筋電図の平均値を示す。陰影はEMG振幅測定の2つの間隔を示す。 ※TrAの活性化の2つのピークは、腕の動きの加速と減速の両方に対応していることが注目すべき点です。
結 果
(Eriksson Crommert M et al:2015)?PubMedへ
●すべての運動学的変数と動態変数がTable1.(上表)に示されています。左右差に有意差はありませんでした。
●(Table2:下表)加速/減速では、肩の振幅の大小の程度に伴いTrAが同程度に活性化されたことが示されました。
●OIおよびRAは(特にOI)、減速段階の開始時に高い活性化レベルを示した。ESは逆に加速時に比較的高い活性を示しました。
●肩の動きの開始時のセット上の体幹筋の活動の順序は、最初にES、TrA、RAおよびOIが続き、各運動幅において同じでした。
●大きくした運動幅は、腹直筋・内腹斜筋の初期応答を短縮し、TrAおよびESの活性化レベルを高めました。
●TrAについて、小さい運動振幅と比較して中間域での活性化がより高いことが示されました。
●OIまたはRAについて、運動振幅間の筋活性化レベルに大きな差はありませんでした。
●腹部筋の初期応答はすべてフィードフォワード制御の領域にあり、腕の動きの振幅が小さいものから大きくなると反応は増加し、潜時が大幅に短縮されました。
●研究された腹筋のうち、TrAのみが、初期応答時間の潜時の短縮と同時に出力の大きさの調節を示した。
まとめ
●今回調べられた全ての腹筋はより大きい腕の運動振幅で早期に活性化されたが、TrAは摂動の方向に関わらず体幹の摂動が大きいほど活性の大きさを示した唯一の筋でした。
●急速な両側肩屈曲の運動振幅の増加は、腹部筋の反応の潜時を短縮し、TrAおよびESの活性化レベルを増加させ、さらに初期応答に影響を及ぼします。
●運動振幅の増加に対するTrA活性の増加と、小さい運動と大きい運動との間のES活性化の付随的な増大は、より大きな上肢運動によって誘発されるより大きな反応性体幹屈曲モーメントに適合すると考えられます。
●感受性筋反応は、摂動の大きさに依存し、大きな摂動を予期して予備プログラミングの変化を示すことを示唆しています。
●TrAは、腹腔内圧の増加、または体幹制御に非特異的な寄与をもたらすことにより、体幹に伸展トルクを発生させるESを補助することができる可能性があります。
●肩屈曲運動は、加速中と減速中でトルクの逆転を示すが、このような体幹の摂動方向の変化にもかかわらず、TrAの活性化は同じレベルのままである。他の筋は特有の応答を示す。これは、TrAが、矢状面における摂動の方向に必ずしも関係なく、脊椎の制御に関与するという概念を裏付けています。
●急速な両側肩屈曲の運動振幅の増加は、腹部筋の反応の潜時を短縮し、TrAおよびESの活性化レベルを増加させ、さらに初期応答に影響を及ぼす。
●運動振幅の増加に対するTrA活性の増加と、小さい運動と大きい運動との間のES活性化の付随的な増大は、より大きな上肢運動によって誘発されるより大きな反応性体幹屈曲モーメントに適合すると考えられる。
●感受性筋反応は、摂動の大きさに依存し、大きな摂動を予期して予備プログラミングの変化を示すことを示唆している。
●TrAは、腹腔内圧の増加、または体幹制御に非特異的な寄与をもたらすことにより、体幹に伸展トルクを発生させるESを補助することができる可能性がある。
●肩屈曲運動は、加速中と減速中でトルクの逆転を示すが、このような体幹の摂動方向の変化にもかかわらず、TrAの活性化は同じレベルのままである。他の筋は特有の応答を示す。これは、TrAが、矢状面における摂動の方向に必ずしも関係なく、脊椎の制御に関与するという概念を裏付けています。
私見・明日への臨床アイデア
●APAの話題などで、豊富に話が出るように、腹横筋の四肢活動時の先行的かつ持続的な制御の重要性を伝える内容であった。
●腹横筋を生かすには、より先に働いている脊柱起立筋の活動も重要だと思われる。
●また、脊柱起立筋が働いていないときに内腹斜筋や腹直筋が働いている部分も見受けられ、それぞれが補完的に活動するのが大事と感じました。
臨床後記
記事更新:2021/2/15
●予測的姿勢制御を賦活するといって上肢を素早く動かしても、身体を丸めたり、どこかに強い固定を作っているような状態では狙った腹横筋等の活性は促しづらい。予測的姿勢制御を促通するための準備の姿勢作りは重要と感じる。上肢を挙上するにも大きな動きすぎると外乱として強くなりすぎる場合もあるため、可動範囲の調整など運動課題難易度の設定にもこだわりたい。
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)