【2022年版】脳卒中のTUG (Timed Up and Go) テスト | カットオフ値・二重課題まで解説!
TUG( Timed Up and Go )テストのまとめ
TUG(Timed Up & Go Test)とは??
図引用元:depositphotos.comより引用
TUG(Timed Up and Go test)とは・・
TUGテストは、歩行や生活動作における転倒リスクを判定するために、動的バランス・歩行・敏捷性などを複合的に診るテストのことです。
TUGはあくまで転倒リスクの予測をする判断材料の一つです。歩行自立度を決定するものではありません。
TUGは高齢者の転倒リスクを高感度かつ特異的に測定できる簡便なスクリーニング検査です。
近年では、通所リハビリテーションの計画書に評価を記載する欄があり、その信頼性は高く、患者様の生活を見ていく上で重要な検査であることが分かります。
運動器不安定症について、日本整形外科学会、日本運動器リハビリテーション学会、日本臨床整形外科学会は協議を行い、2006年4月に診断基準を公表しています。そこでTUGも機能評価基準に組み込まれており、timed up-and-go(TUG)テストが11秒をカットオフとしています。
この検査は当初は、高齢者を対象に設計されました。しかし、下記の例のように現在ではパーキンソン病などの他の集団にも使用されています。
例:パーキンソン病、多発性硬化症、股関節骨折、アルツハイマー病、CVA、TKRまたはTHR、ハンチントン病など様々な集団に対して検証されています。
TUGテストの準備と検査手順
図引用元:
When Breathing Interferes with Cognition: Experimental Inspiratory Loading Alters Timed Up-and-Go Test in Normal Humans
より引用
TUGテストで準備するもの
1)肘掛け付きの椅子
※高さは椅子に深く腰をかけて足が床につく高さ
2)ストップウォッチ
3)メジャー(3メートルの印)
4)方向転換の目印(コーンなど)
カメラは動作観察を後ほど行う上であると便利です。
TUGテストの手順
1)患者は普段履いている靴を履き、必要に応じて歩行補助具を使用します。
2)患者は座位姿勢からスタートします。
3)患者はセラピストの指示で立ち上がり、3メートル歩き、振り返り(コーンを周り)、椅子まで戻って座ります。
4)患者が着席するタイミングでストップウォッチを止めます。
TUGテストの注意事項
1)タイムトライアルの前に、練習トライアルを行う必要があります。
2)最大の速度を見る際に、走行はしては行けません。最大のスピードでの歩行を促すと、テストとなると走ってしまうような性格や認知の方もいらっしゃいます。転倒リスクにも繋がるため、患者に十分説明して理解しているか確認する必要があります。もし走った場合は、計測をやり直してください。
3)再三になりますが、転倒リスクがつきまとうテストです。着座・方向転換はじめ事前に患者の身体評価を行い、リスクを予測し、くれぐれも油断のないように心がける必要があります。計測者はできればストップウォッチ係と患者に付き添う係と2人いるとなお良いでしょう。
脳卒中患者では、右回りか左回りか(麻痺側軸周りかどうか)でも転倒リスクは変わってきますので、注意が必要です。
TUGテストの評価のポイント
TUGの評価では、患者の動作時の姿勢の安定性、歩容、ふらつきを観察します。
TUGを実施している様子をすべてメモしましょう。
(歩行速度、バランスの状態、歩幅、腕の振り、支持物、歩容、壁につかまっている、歩行補助具を適切に使用して出来ていない、方向転換時の軌跡など)
観察された変化は、さらなる評価が必要な神経学的問題を示唆している可能性があります。
起立直後や方向転換時のふらつきなどが観察される場合は、BBS(バーグバランススケール)を測定するなど流れが作れていると良いと思います。TUGは単独検査では判断しづらい面があると思いますので、他の検査と併せて用いるのが良いと思います。
TUGで問題が然程見つからない場合などはよりグレードを上げたベステスト(BESTest)などを用いても機能の良い方の問題点の抽出ができると思います。
TUG評価の実施例
Timed Up and Go テスト評価 | 結果 |
---|---|
1. 初期の立ち上がり(座位から) | 完了 |
2. 3メートル歩行 | 完了 |
3. 反転 | 完了 |
4. 3メートル歩行(戻る) | 完了 |
5. 座る | 完了 |
合計時間(秒) | 12秒 |
この例では、すべてのタスクが「完了」とされ、合計所要時間は12秒でした。所要時間に基づいた結果の一般的な解釈は以下のとおりです:
- 10秒未満:通常の移動能力、転倒の危険性はほとんどありません。
- 10-19秒:良好な移動能力、比較的転倒のリスクが低い。
- 20-29秒:移動能力にばらつきがあり、外出時に助けが必要な場合があり、転倒のリスクは中程度。
- 30秒以上:移動能力が低く、転倒のリスクが高い、外出時には移動の補助が必要。
TUGテストのカットオフ値
現場ではカットオフ値は??という話がよく上がると思います。
TUG(Timed Up and Go test)の完了に12秒以上かかる高齢者は、転倒のリスクがあるとしている機関もあります。(STEADI – Older Adult Fall Prevention | CDCより)
様々な先行研究での転倒リスクのカットオフ値(単位:秒)
地域在住の高齢者 :13.5
高齢の脳卒中患者:14
虚弱高齢者:32.6
下肢切断者:19
パーキンソン病患者:11.5
股関節OA患者:10
前庭障害患者:11.1
転倒リスクの高い被験者を分類するカットオフ値は、研究内容や被験者によって異なります。
注意事項:
あくまである特定の集団を対象にしたカットオフ値ですので、疾患に直接当てはめないようにすることは大切です。研究や病院でのカットオフ値の規定を作りたい場合は、評価したい集団と似たような集団のカットオフ値の文献を探し参考にしてください。
二重課題下でのTUGテスト
最近では二重課題下でのTUGが使用されることが増えています。
注意機能は二重課題(dual task)条件下におけるパフォーマ ンスに影響すると報告されています。私たちの日常では何かしながら歩くという「ながら歩き」を頻繁に行います。
例えば、誰かと話しながら歩く、目的地を探しながら歩く、買い物をした物を持ちながら歩くなど歩行はあくまで移動手段で私たちはその他の目的を持っています。
この二重課題の能力を評価する課題の一つにTimed Up & Go Testに第 2の課題を加えるという方法が近年取られています。
TUGに片手で水の入ったグラスを運ぶという第2の課題を加えた検査が「TUG Manual」です。
感度は29%と低く、特異度は68%と中程度であったと報告されています。
TUGを実施中に3つずつ数字を逆に数えていく課題は「TUG Cognitive」と言います。
感度は76.5%、特異度73.7%と中程度の精度と報告されています。
これらの感度・特異度から見ると転倒の単独検査としては推奨されないことがみて取れます。
Cookら2000年に地域在住の高齢者30名を対象に TUG、TUG manual、TUG cognitiveを測定する研究を実施しています。
TUG、TUG manual、TUG cognitiveの所要時間は転倒歴のある高齢者では長くなることがわかりました。TUG manualとTUG cognitiveの転倒予測としての有用性が示されましたが、TUGでは転倒リスクのある高齢者を十分識別できないと報告しています。
36人のPD患者を対象とした研究では、過去6ヵ月間に転倒を報告した参加者と転倒のない参加者が比較された。
この研究では、パーキンソン病患者の転倒者と非転倒者を識別するための最適なカットオフタイムは、
TUGコグニティブ:12秒
TUGマニュアル:14.7秒
TUG:13.2秒
でした。
TUG CognitiveはTUGやTUG Manualよりも識別性が高いことが示されています。
脳卒中患者では下記記事のように眼球運動の問題や注意機能の問題が見られやすく、二重課題TUGは脳卒中患者の評価として有用と感じます。
二重課題のTUG(Time Up and Go test)の記事は下記でも紹介しています。併せて読んでみてください!
TUGテストのエビデンス
TUGテストの信頼性
TUGの「信頼性」は、検者内および検者間の信頼性(ICC)は、高齢者集団において0.92~0.99と高いことが報告されています。
テスト・再テストと検者間信頼性はともに高く、TUGはパーキンソン病患者と非パーキンソン病患者の違いを評価するために使用することができます。
TUGテストの妥当性
「妥当性」は TUGスコアと歩行速度(Pearsonの相関係数は0.75)、姿勢動揺(Pearsonの相関係数は-0.48)、歩幅(Pearsonの相関係数は-0.74)、Barthel Index(Pearsonの相関係数は-0.79)、歩数(Pearsonの相関係数は-0.59)との相関関係により、構成概念の妥当性が示されています。
TUGテストの感度・特異度
「感度と特異度」は、87%と報告されています。 PDの転倒を予測する感度は中程度であり、単独ではこの集団の転倒を予測するのに十分ではないかもしれません。
TUGテスト最小可検変化量(MDC)
最小可検変化量(MDC) とは「ランダムな測定誤差を超えて真の変化を表す個々のスコアの差の最小量」のことです。
アルツハイマー病患者のMDCは4.09秒でした。パーキンソン病患者では、MDCは3.5秒でした。
脳卒中患者のTUG(Timed up and Go)に関する論文サマリー
脳卒中患者のTUGテストに関する論文のタイトル
脳卒中患者のTUG(Timed Up and Go)テストにおける軌跡Locomotor Trajectories of Stroke Patients during Oriented Gait and Turning?PLOSoneへ
Céline Bonnyaud et al.Published: February 19, 2016
論文の内容
●この研究は、脳卒中患者の障害物回避および方向転換を伴うTimed Up and Go test中の歩の行軌道を解析する最初の研究です。
●研究目的は、
1)ハウスドルフ距離(Hausdorff distance)および時系列データ同士の距離・類似度を測る際に用いる動的時間伸縮法(Dynamic time warping、DTW)を用いて障害物回避および方向転換を伴う課題 TUG中の脳卒中患者の歩行軌道を分析し、健康な被験者と比較すること
2)軌道パラメータが従来の測定値(時間)に追加情報を提供するかどうかを判断すること
3)左右半球脳卒中患者の歩行者および転倒者と非転倒者の軌道パラメータを比較すること
4)軌道パラメータとBerg Balance Scale scoreとの間の相関を評価すること
であった。
•被験者の特徴
表引用元:Locomotor Trajectories of Stroke Patients during Oriented Gait and Turning
より引用
表引用元:Locomotor Trajectories of Stroke Patients during Oriented Gait and Turning
より引用
論文の結果・まとめ
図引用元:Locomotor Trajectories of Stroke Patients during Oriented Gait and Turning
より引用
●健常者と比較して脳卒中患者は、有意にコーンへ向けての歩行(Go)および旋回(Turn)のサブタスクの間に、有意に長い総軌道および基準軌道からの大きな逸脱を有することが示された。
●現在の研究の結果は、脳卒中患者がサブタスクに応じて異なる歩行軌道を示すことを示唆している。
●歩行軌道の差は、視覚目標に対する知覚が、旋回するための計画に明示的に関連付けられ脳卒中患者の歩行軌跡に影響を与えたと考えられる。Lamontagneら(2010)は、視線を必要とする条件下での歩行中に健常者と比較して脳卒中患者において異なる歩行運動軌道を見いだしている。
●より逸脱した軌道が長くなると、ターン動作時のバランスが悪い結果が出ている。
●転倒群は、非転倒群と比べコーンへ向かう軌道(Go)が有意にずれていた。
●コーンへ向かう歩行時(Go)、ターン動作時共に患者と健常者のパラメータは有意に異なった。しかし、リターンでは、患者と健常者、または転倒者と非転倒者のパラメータの間に有意差がなかった。GoとTurnは、TUGテストの最も難しいサブタスクであると思われる。
●歩行軌道の解析は、脳卒中患者の歩行分析に対する興味深いアプローチであり、従来の時間パフォーマンス評価の追加情報を提供し、分析を補完する。
●障害物迂回課題および先行する位相の軌道の大きい偏位は、歩行の不安定性を補う可能性がある。この仮説は、今回の結果によって確認することはできず、これを確認するためにさらなる研究が必要であろう。
●右半球の脳卒中は身体の垂直性の知覚を変える可能性があるため、右と左脳の脳卒中患者の軌道の違いを見つけることが期待された。
結果は、中等度〜良好な回復を有する患者のサンプルにおいて、TUG試験中に主観的垂直(正中位)における2つのグループの参加者間に有意差がなかったか、または主観的正中位(これは測定はされていない。)における変化が歩行運動軌道に影響しないことを示唆した。
しかし、右と左半球脳卒中患者の間に差異がないことは、空間知覚(例えば、半側空間無視)に関する主観的正中位および認知機能の特定の評価を行わなかったので、慎重に解釈されるべきである。
まとめ:Timed up and go test(TUG)に関して学んだこと
●TUGは広く知られている評価ですが、その中身を十分に考えたことがなかったので、改めて学ぶことは評価に意味づけが出来る様になるので大事と感じました。
●TUGは方向転換地点をどう回るか計画をたて、実行し、旋回した後は軌道を修正しながらゴールまで直線的に戻る必要があります。評価には時間(値)だけでなく、サブタスクが含まれています。そういうサブタスクが含まれている事を考慮し、評価中の患者の動きに集中してセラピストは本人の戦略を観察し治療に生かさねばならないと思いました。
●動画を丁寧に撮ることで、今後としては動画・画像処理を用いて、軌道や種々の動作パターンの変化も追っていけると思いました。将来的に画像処理能力など身につけて行けたらと感じました。
TUG評価に役立つYOUTUBE動画
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
脳卒中の動作分析 一覧はこちら
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)