vol.92:脳卒中(脳梗塞)後の立ち上がり時の足の位置が筋活動に及ぼす影響とは?
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カテゴリー
歩行・神経系
タイトル
脳卒中(脳梗塞)後の立ち上がりと足の位置の関係The effect of foot position on erector spinae and gluteus maximus muscle activation during sit-to-stand performed by chronic stroke patients?PMCへ Inkyeong Nam et al.Published: 2015 Mar 27
内 容
はじめに
●脳卒中患者は不安定性を示し、体重の61〜85%が非麻痺側下肢にかかり、健常人に比べ非対称的な運動を引き起こします。
●脳卒中患者は、非麻痺側下肢に荷重をかけようとする傾向があり、立ち上がりを完了するまでの時間が長くなり、圧力中心(COP)の大きな変位を示します。
●脳卒中患者は不十分な立ち上がり(STS)を行い、体重の大部分は非麻痺側に置かれるか、または非麻痺側下肢はSTSを行うときに麻痺側の下肢の後方に置かれる。
研究目的
●本研究の目的は、脳卒中患者の立ち上がり時の両側脊柱起立筋(ES)および大殿筋(GM)活性化に対する足の位置の影響を調べるために、表面筋電図(EMG)を使用することであった。
研究方法
●無作為に選択した15人の脳卒中患者をこの研究に登録した。
全ての参加者は、
(1)対称的な足の位置
(2)非麻痺側下肢の位置を後方に配置した(Asymmetric 1)
(3)麻痺側下肢を後方に配置した(Asymmetric 2)
●ESおよびGM筋活動を測定するためにEMGシステムを使用した。
●5回の測定の平均値が分析に用いられた。ANOVAを用いて、条件間の差の統計的有意性を決定した
●被験者の特徴を表に示す。Brunnstrom stageは3~4の方が多いようである。
結果・まとめ
●対称的な足の配置よりも麻痺側下肢を後方に配置した方が、脳卒中により影響を受けたESの筋活動が有意に大きかった。
●両側のESおよび影響を受けたGMの筋活動は、非麻痺側下肢を後方に配置するよりも麻痺側下肢を後方に配置した方が筋の活性化が見られた。
●STSを実施して影響を受けたESおよびGM筋肉の活性化を増加させる際に、麻痺側下肢を後方に置くことが脳卒中患者にとってより望ましいことが示唆される。
関連論文の報告
●Camargosらは、麻痺側下肢の荷重増加が転倒予防につながり、麻痺側下肢の機能改善を加速させる可能性があると報告している。
●Bruntらは、STS訓練において麻痺側下肢を非麻痺側下肢の後方に配置した場合、対称的に下肢を配置した場合と比較して大腿四頭筋の 筋肉活性の増加が観察された。
●Ashford and De Souzaは、健常成人がSTSを行う場合、下肢筋活動が重要であるにもかかわらず、脊柱起立筋および大殿筋が姿勢を維持する上で重要な役割を果たし、また質量中心の変位を制限する役割を果たすと報告している。
●Stephenらは、STSから立位保持の際、脊柱起立筋と大殿筋を連続的に活性化し、STSの間にCOMが前方に移動し、次いで上方に移動すると最大に脊柱起立筋活動が見られたと報告した。
●Chenらは、麻痺側下肢を後方に配置すると、麻痺側下肢にかかる負荷がより大きくなり、結果として対照的な荷重が促される。
●Chouらは、立ち上がり時の両脚の立ち上がり速度と最大垂直力vertical forceとの間に、STSと歩行パラメータが有意に相関していることを示唆した。
●Kawagoeらも後足の配置の影響を示した。正常な位置の10cm後を指していた。足を後方に配置することにより、STS運動に使用される股関節の最大平均伸展モーメント(148.8Nm対32.7Nm)をより低くすることができた。
●立ち上がり時の前脛骨筋の活性化低下は、通常の足の配置と比較した場合、後方への配置において見られた。前脛骨筋活動は、下腿の前方回転力を提供し、COGを前進させ、足関節を安定させる。
私見・明日への臨床アイデア
●足部だけでなく、立ち上がりが出来ない脳卒中患者群が立ち上がり可能群又は対照群より骨盤前傾角が小さいとの報告がある。また、最大骨盤後傾角と骨盤の可動範囲が、対照群において、両脳卒中患者群よりも有意に大きかったとの報告がある。☜Relationship between the ability to perform the sit-to-stand movement and the maximum pelvic anteversion and retroversion angles in patients with stroke(2015)
そのように足の位置だけでなく、他部位(全身)も立ち上がりには当然影響する。思考の一助として、研究結果を活用する必要がある。
●麻痺側足部位置を後方に置くことが良いという研究は多い。しかし、その後方に置いた状態の中でも前足部に荷重がかかりすぎていないか、踵接地できるankleの柔軟性はあるか等をはじめ、後方に置いた足部の中身まで臨床では観察する必要が立ち上がり後の立位や歩行へ繋げるのに必要と思われる。
臨床後記:更新日2021/2/24
●立ち上がりは、頭頚部・肩・体幹・下肢と全身の影響を受ける。当然、足の位置を変化させるだけで物理的問題を変化させることができるので、まず確認したいポイントではある。その上で細部との関連性も検討したい。また、歩行時に立脚期において足関節の純粋な背屈が角度が得られていない場合、立ち上がりでも十分に足関節底背屈制御が行えていない可能性もあるなど、それぞれの動作とのリンクも考えながら臨床に挑みたい。
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)