【令和版】網様体脊髄路とは?わかりやすく画像解説!リハビリへの応用へ。脳卒中/脳梗塞回復の理由
網様体脊髄路の解説
網様体路は、主に運動と姿勢の制御に関与しています。網様体脊髄路の下行路は外側路と内側路に大別することができます。
側索を下行していく経路を外側経路、前索を下行する経路が内側経路です。錐体外路に含まれます。
側索を下降していく外側経路は脊髄の前角・中間層では外側部に投射していきます。主に四肢の制御を行います。
内側経路は、前索を下降し、脊髄前角や中間層では腹内側部に投射していきます。主に体幹・姿勢制御に関与していきます。
下図は外側経路になります。一般的な教科書は内側経路が記されていないことが多いです。
網様体脊髄路の機能
●α運動神経とγ運動神経の活動を制御します。
●循環系への圧・脱抑制作用を媒介します 。
●呼吸のコントロールをサポートします。
●前庭脊髄路と同側の網様体路の相互関係により、同時に多くの筋肉を選択的に活性化させることが可能です。これらは介在ニューロンや長大な前庭脊髄ニューロンを介して働くため、協調的かつ選択的な運動を可能にすることができます。
●霊長類の研究では、この経路は、筋収縮に必要な適切なレベルの力を選択するために、動作をコード化する能力を示しています。
●大脳皮質-網様体路は近位の安定と姿勢筋緊張の制御に関与しています。
皮質脊髄路と網様体脊髄路間の内部ニューロンの相互関係によって、運動パターンの制御を担うことができます。
網様体脊髄路は日常的な状況下での姿勢の安定を付与することができるます。一方、皮質脊髄路はより認知的な評価を必要とする課題(例えば、細かな注意を払う場面など)を制御することが可能です。
内側・外側網様体路の役割
内側網様体路(橋網様体脊髄路)は
体幹の運動ニューロンおよび伸筋の運動ニューロン(例:姿勢を維持するための下肢の伸展)の制御を担います。中脳の運動中枢を刺激すると、パターン化された運動(例:足踏み)ができます。
外側網様体路(延髄網様体脊髄路)は
屈筋の運動ニューロンを担います 。内側網様体路を抑制することで伸筋の運動神経を抑制して伸張反射を調節します。
網様体路と歩行の関係性
ヒトの場合、体の両側で運動を起こすと、屈筋と伸筋が相互的に抑制されることになります。霊長類の研究によると、網様体路は同側で屈筋を促進し伸筋を抑制し、対側で伸筋を促進し屈筋を抑制する可能性が示唆されています。
動物実験では、中枢性パターンジェネレータ(CPG)が運動生成に関与することが分かっています。具体的には、頸部と腰部の内部ニューロンが屈筋と伸筋を活性化して運動を生成するため、中間灰白質はリズミカルな運動を開始できるとされています。
ヒトの場合、運動は中脳にある運動中枢で生成されます。運動神経の統括的な制御を担う運動前野は、脳幹、つまり網様体路に投射しています。
その結果、網様体路は皮質脊髄路と協働して運動制御を調節することができます。
網様体脊髄路の病態
大脳皮質-網様体路系の病変は、姿勢制御の低下と姿勢制御の選択性の低下をもたらすことがあります。
網様体内の興奮性線維に病変があると、脊髄への下行性興奮性インパルスが失われるため、筋緊張が低下することがあります。逆に、網様体において抑制性線維が障害されると、これは筋緊張亢進(痙性)を引き起こす可能性があります。
脳卒中後の臨床兆候との関連
網様体脊髄系の興奮性増大の脊髄内ネッ卜ワーク入力による脊髄反射の過敏
・速度依存性の抵抗と安静時の筋緊張の増大
・正常な刺激(様々なスピードによる他動的ストレッチ)や不快刺激(皮層や自律神経系)に対する過剰反応
・大幅な筋緊張の変装(歩行時における姿勢変化など)
網様体脊髄路の興奮性のバランス不全に伴う皮質脊髄路の随意的な活動の減少と定型的な同時収縮、放散の出現
・痙縮様の同時収縮(運動制御不全)たとえば肘を伸ばそうと試みた際に肘が曲がるなど
・定型的シナジーパターン
・連合反応(運動活動の異常な拡散)
脱抑制した網様体系と他の大脳皮質や脳幹内のセンター間の相互作用
・筋緊張の流動的変動(夜間や睡眠時など)
・疼痛の上昇
・怒りや不安など感情の変化に伴う筋緊張の上昇(網様体系とのコネクション)
・呼吸機能に応じた変化(急性期にあくびをすると手が緩んだり.咳をすると曲がるなど)
・交感神経性症状との関連
カテゴリー
脳画像,脳科学
タイトル
ヒトの脳の皮質網様体路:拡散テンソル画像を用いた研究
Corticoreticular pathway in the human brain: Diffusion tensor tractography study←Pubmedへ
Yeo SS et al:Neurosci Lett. 2012 Feb 2;508(1):9-12
内 容
背景・目的
●皮質網様体路は姿勢制御や移動能力に関与する.
●ヒトの脳における皮質網様体路の解明を行った研究は過去にない.
●本研究は,拡散テンソル画像を用いてヒトの脳の皮質網様体路を同定することを目的とした.
方 法
●対象は24名の健常者であった.
●拡散テンソル画像は1.5テスラのMRI装置を用い,撮像断面はACPC線に平行としスライス厚は2.3㎜とした.
●皮質網様体路を同定するために,ROI(関心領域)は延髄の網様体に設定した.第一ROIは中脳被蓋,第二ROIは運動前野(ブロードマンarea6)に設定した.異方性度(FA)や平均拡散能(MD)、皮質網様体路の線維量を測定した.
結 果
●下の図に示すように,運動前野から始まる皮質網様体路は皮質脊髄路の前方を通り,放線冠や内包後脚を通って下降する
●中脳や橋では被蓋を通り,橋延髄網様体へ向かう.
●半球間でFA値やMD値,線維量は違いがみられなかった(p>0.05).
出典:Yeo SSら2012
\
図:32歳男性の皮質網様体路(青色)と皮質脊髄路(赤色)の経路
考 察
●いくつかの研究で運動前野が皮質網様体路の起始であることを報告しているが,ヒトの脳で皮質網様体路を同定した報告はない.
●Freundらは運動前野の損傷と近位筋弱化に関する報告をし,Miyaiらは中大脳動脈領域の脳梗塞患者において運動前野の損傷が回復に関与するか比較検討している.その報告では運動前野の損傷を含まない脳梗塞患者は含む患者よりも移動能力や股関節の運動機能の回復が良好だったとしている.
●皮質網様体路の起始として主要な領域はブロードマンarea6のためここを関心領域に設定し,本研究では皮質網様体路のすべてではないが大部分の皮質網様体路を同定することができた.
明日への臨床アイデア・感想
●数年前に宮井先生が発表された論文で運動前野を損傷した症例の運動予後が不良であるという論文を読み,その論文がこの論文の引用文献に記されている.
●中大脳動脈領域の脳梗塞症例では、運動前野を直接障害されていない場合でも皮質網様体路の途中経路(放線冠レベル、内包レベル)の障害により姿勢制御障害や移動能力低下を呈する.
●姿勢制御障害の有無はこのように画像でも判断でき,臨床での症状とすり合わせて確認する必要があると考える.
●姿勢制御に必要な下行路は脳幹レベル以下にもあるため,それらの下行路を利用した治療プログラムの立案が必要となってくるだろう.
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
併せて読みたい【網様体】関連記事はこちら
●Vol.544.脳卒中後の痙縮と網様体脊髄路の関係性
●vol.403:皮質脊髄路における体幹筋の神経学的結合の存在 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
●vol.21: 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー:被殻出血による片麻痺患者の皮質脊髄路と皮質網様体路損傷の特徴
論文サマリー 一覧はこちら
脳卒中自主トレ100本以上 一覧はこちら
塾講師陣が個別に合わせたリハビリでサポートします
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)