【2024年版】前庭覚情報が歩行に影響を及ぼすタイミングとは? 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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論文内容
カテゴリー
脳科学,歩行
タイトル
歩行開始時の何処に前庭情報が寄与しているのか? Is the use of vestibular information weighted differently across the initiation of walking??PubMedへ Bent LR et al:Exp Brain Res. 2004 Aug;157(4):407-16
内 容
目 的
●この実験の目的は,ヒトの歩行開始時に前庭系が寄与する具体的タイミングを決定すること
方 法
●被検者は開眼もしくは閉眼にて,音を聞いてから前方へ歩行を開始する
●被検者は6名で,2名の男性と4名の女性,平均身長169.7±8.7cm,平均体重62.8±8.1kg
●突発的な前庭刺激(GVS)は左右の陽陰電極のどちらから伝えられ,床反力と運動学的データは集められる
結 果
Fig.1:閉眼・開眼での身体動揺と足部位置の比較(Bent LR et al:2004) APA(ライトグレー),TO(ダークグレイ),HC(ブラック)の3つの内,1つGVSが伝えられたとき,もしくはGVSなし(刺激なし,影で表示)の開眼(A)閉眼(B)の時における,前方移動時の足部の位置変化(cm)の図
(1)先行随伴性姿勢制御の開始(APA)
(2)初めの遊脚下肢の足尖離地(TO)
(3)初めの遊脚下肢の踵接地(HC)
●足跡はそれぞれのステップを示している
●左側への電極への刺激は左手側の列に示し,右側への刺激は右手側の列に示している
●足底位置の偏位は踵接地が一番大きかった
考 察
●歩行中の変化は足部の位置の変化を示し,身体上部が動揺する反応ではない
●この特筆すべき変化(下肢をコントロールする為の歩行開始課題までの前庭入力の時間と役割)は,歩行開始課題において,視覚・前庭調整が身体全体の保持に重要である事を示している
●体幹上部の動揺する変化は重力の参照枠における身体部位の位置に寄与していると信じられており,環境内の身体の適切な評価を促すべきである(Pozzoら1991)
●そして,それ故に下肢の適切な位置の変化を促進する
●回転反応の動揺の違いは,歩行の開始や立位での移動などのダイナミックな課題中における「前庭の重み付け」からの結果を前提条件とし,ロコモーション課題自体との関連は具体的ではない
●データは,前庭情報が歩行開始の作用をもっている重要な役割がある事を示している
●これらは,前庭系が上下部の身体のコントロールにおいて明確な役割を構築している様に見える
明日への臨床アイデア
●歩行開始の踵接地時に前庭システムが大きく寄与していることを示すStudy
●患者の治療時において,歩行の問題点を歩行分析の中から仮説・検証立てることが一般的に多いと思われるが,歩行開始前の立位姿勢の時点で歩行の問題的影響を与えている可能性を示唆してくれている知見であると思われる。つまりは,「歩行に問題があるからひたすらに歩行訓練」,そんな短絡的な仮説立て・セラピーに一度Stopをかけるべきである
●歩行はFirst Stepでの神経学的背景での処理は,皮質での処理が多く入ってくるが,その後はCPG等により自動化されるといった内容が周知の事項になっている
●ただ歩けばCPGが駆動されるというそんな単純なシステムではなく,そのCPG等が作動するためにはどのような神経学的なComponentsが要求されるのかをセラピストは探求することが必要である
●その一つとして,前庭系はどこの歩行のシチュエーションで適切に発揮されるべきなのかを学ぶことができ,勉強になった
前庭システムのおさらい
前庭システムの概要
前庭システムは、内耳に位置する半規管や前庭器官からなる感覚システムであり、頭部の動きや位置に関する情報を感知し、脳に伝達します。これにより、姿勢の維持やバランスの調整が可能になります。前庭システムは特に、動きの開始や停止、方向転換など、身体が不安定になる状況で重要な役割を果たします。
歩行開始時は、床面の感覚情報から外側前庭核への入力を介し,前庭脊髄路と調和しながら右下肢伸展を強化されます。
歩行開始時の踵接地と前庭システムの関係
踵接地時の安定性:
- 歩行の初期段階、特に踵接地時には、身体が不安定な状態になります。この瞬間、前庭システムは頭部の位置や動きに関する情報を即座に脳へ送信し、姿勢の調整を促します。前庭システムが正常に機能していると、脳はこの情報をもとに筋肉を適切に制御し、安定した接地とその後のスムーズな体重移動が可能になります。
動的バランスの調整:
- 前庭システムは、歩行中の動的なバランス調整においても重要です。歩行開始時には、体の重心が前方へ移動し、これに伴って頭部の位置が変わります。このとき、前庭システムが頭の動きを感知し、体幹や下肢の筋肉に適切な反応を引き起こすことで、バランスが維持されます。
前庭反射と姿勢制御:
- 前庭システムには、頭部の動きに応じて姿勢を自動的に調整する「前庭-脊髄反射」や「前庭-眼反射」といった反射機構があります。これらの反射は、歩行中に頭が揺れた際にも視線を安定させ、身体全体のバランスを保つ役割を果たします。特に踵接地時には、急激な頭部の位置変化に対応し、安定した視覚とバランスを保つことが求められます。
脳卒中患者における前庭機能の障害
脳卒中後、前庭システムに障害が生じると、歩行開始時のバランス調整が困難になることがあります。例えば、前庭機能が低下している患者は、踵接地時に適切に体重を支えることができず、ふらつきや転倒のリスクが高まります。また、前庭-脊髄反射の低下により、姿勢制御が不十分となり、歩行時に不安定さが増す可能性があります。
臨床的な意義
医師が脳卒中患者のリハビリテーションを計画する際、前庭システムの機能を評価し、これが歩行時のバランスにどのように影響するかを考慮することが重要です。特に、前庭機能が低下している患者には、前庭リハビリテーションやバランス訓練を取り入れることで、歩行安定性を改善し、転倒リスクを低減することが可能です。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)