vol.132:片麻痺患者の両側性障害について 脳卒中/脳梗塞リハビリ論文サマリー
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カテゴリー
神経系
タイトル
片麻痺患者の両側性障害についてActivation timing of soleus and tibialis anterior muscles during sit-to-stand and stand to sit in post-stroke vs healthy subjects?pubmedへ AUGUSTA SILVA.et al.(2012)
本論文を読むに至った思考・経緯
•脳卒中患者のAPAsについてより理解を深める、脳とAPAsの関係を理解するために本論文に至る。
論文内容
はじめに
•sit to stand(STS)、stand to sit(Stand TS)は脳卒中患者において損なわれる重要な機能的課題である。動作にはAPAsの生成を含む適切な姿勢制御を必要とする。
•APAsは姿勢筋の筋電図信号の振幅だけでなく、それらの活性化のタイミングによっても評価することができる。
•補足運動野(SMA)および運動前野(PMC)はAPAsの生成に関与していると言われる。
研究目的
•脳卒中患者と健常対象群におけるSTSおよびStand TSの間の前脛骨筋(TA)およびヒラメ筋(SOL)筋の活性化タイミングを分析し比較することである。
研究方法
•10人の健康な被験者と、①立ち座りが可能 ②Fugl-Meyer評価で34点以上 ③脳梗塞の既往 ④麻痺側下肢のH反射の強い10人の被験者が参加した。
•APAsに関与する筋の放電活動を調査するため筋電図 (EMG)を用いた。
•SOLおよびTAのEMGを用い、健常対象群と脳卒中患者の非麻痺側(IPSI)および麻痺側(CONTRA)のSTSおよびStandTSにおいて分析した。
•フォースプレートを使用した。
研究結果
•脳卒中患者の両側共にSOLの活性のタイミングは、運動開始前に起こり、健常対象群において観察されたパターンとは反対であった。
•STSとStandTSの実施時間を比較し差異は認められなかった。
•健常対照群:STSは運動の開始前のTAの活性化および、運動開始後のSOLの活性化を必要とした。同様に、StandTSでは、運動開始前のTAは活性し、SOLは運動開始後で観察された。
•非麻痺側:STSおよびStandTS両方において、TAは健常群で観察されたものと有意に異ならない活性化タイミングを有するようである。SOLの活性のタイミングは、逆に運動開始前に現れる。脳卒中患者の非麻痺側のSOLの活性タイミングは、健常者のSOL活性のタイミングとは大きく異なる。
•麻痺側:SOLの活性のタイミングは運動開始前に活性し、麻痺側・非麻痺側を比較した場合に有意差は見られなかった。SitTSおよびStandTS中のTAおよびSOL活性化タイミングパターンは、脳卒中患者の麻痺側において健常者と逆転し得る。
•TAは、Sit to StandおよびStand TSの両方において、脳卒中患者の麻痺側において運動開始前に活性されるようであるが、TA活性の前にSOLの活性化タイミングが生じることを示唆する。
興味深かったこと
•統計的有意差は、脳卒中の各下肢と健常群との間のSOL活性化タイミングにおいて見出されたが、麻痺側と非麻痺側間で有意差は見出されなかった。
⇒この結果は、脳卒中患者の両肢に障害を生じるという考えを強め、病変の存在またはAPAsの生成に関与する非麻痺側のネットワークの機能不全を示唆している。SMAおよびPMCからの入力を含む皮質網様体路は、この事実を説明することができる。
補足:
•皮質-網様体脊髄路は『構え』や『予測的な姿勢調節』など目的動作を安定させる姿勢制御に関与します。
•皮質-網様体投射が起始する補足運動野や運動前野は運動の準備や運動の順序そして姿勢制御に関与すると考えられている。予測的姿勢制御を行う事により動作時のCOMの安定を図っている。
私見・明日への臨床アイデア
•脳卒中患者においては、片麻痺と呼ばれても、非麻痺側も発症前と比較し障害がないとは言えない。双方へのアプローチが必要である。
•脳機能を理解し、何が損なわれ、何が生きているのか予測的にもイメージすることで介入方法も変わってくると思われる。
•一例として補足運動野においては、運動の順序立てが困難になる運動障害を引き起こし、動作を分割して個別に行うよりも一連の動作として行う時に補足運動野上から記録される運動準備電位が増強することが示されている。Increase of the Bereitschaftspotential in simultaneous and sequential movements.(1985)また、強制把握反射のように入力された全ての感覚に自動的(反射的)に反応するのでなく、意図による制御が必要であるが、補足運動野が損傷されると意図による制御が障害を受ける。
•一つ一つ脳機能を学習し、臨床に役立てていきたいと思う。
氏名 覚正 秀一
職種 理学療法士
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)