脳卒中後の手指の分離運動:皮質と選択性、巧緻性トレーニングの方法、ポイントまで【2024年最新版リハビリ論文サマリー】 – STROKE LAB 東京/大阪 自費リハビリ | 脳卒中/神経系
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脳卒中後の手指の分離運動:皮質と選択性、巧緻性トレーニングの方法、ポイントまで【2024年最新版リハビリ論文サマリー】

論文を読む前に

新人療法士の丸山さんは、リハビリテーション医師である金子先生のもとで研修を受けており、今回は脳卒中患者の手指の運動制御についての講義を受けることになりました。

金子先生: 丸山さん、今日は手指の動きとそれに関連する神経機構について話しましょう。脳卒中患者の多くは手指の運動制御に問題を抱えていますが、その背後には皮質脊髄路の損傷が大きく関与しています。具体的には、どのように皮質脊髄路の損傷が手指の動きに影響を与えるのかについて説明します。

丸山さん:はい、よろしくお願いします。手指の動きはとても細かいので、どのように神経系がこれを制御しているのか興味があります。

金子先生: 金子先まず、手の個々の指の動きは、特定の筋肉群の選択的な活性化によって実現されます。これは運動皮質から始まる皮質脊髄路によって制御されているのです。皮質脊髄路は、運動指令を脊髄の運動ニューロンに伝達する主要な経路です。

皮質脊髄路の役割と選択的活性化

金子先生: 皮質脊髄路は、特に手指の運動において非常に重要です。この経路は、運動皮質からの信号を直接運動ニューロンに伝達し、手や指の細かな運動を可能にします。これにより、私たちは指一本一本を独立して動かすことができます。

丸山さん:それはすごいですね。つまり、皮質脊髄路が正常に機能しているからこそ、指を選択的に動かせるということですか?

金子先生:  その通りです。しかし、脳卒中などで皮質脊髄路が損傷を受けると、この選択的活性化の能力が失われることがあります。具体的には、皮質脊髄路の損傷によって、脊髄における運動ニューロンの活性化が不均一になり、指の細かな制御が困難になります。

損傷後の影響と臨床的観察

金子先生:  脳卒中後の患者では、よく指を動かそうとしても、隣の指が一緒に動いてしまう「ミラリング現象」や、「シナジーパターン」といって、意図しない筋群の同時収縮が起こることがあります。これらは皮質脊髄路の損傷による選択性の喪失に関連しています。

丸山さん:なるほど、皮質脊髄路が損傷すると、選択的に筋肉を活性化する能力が低下し、意図しない筋肉の動きが発生するのですね。

金子先生: そうです。この選択性の喪失は、患者のリハビリテーションにおいて大きな障害となります。選択的な指の運動を取り戻すためには、特定の運動パターンを繰り返し訓練する必要があります。

リハビリテーションのアプローチ

金子先生: では、具体的にどのようなリハビリテーションが有効かについて話しましょう。選択性を改善するための訓練として、ミラーセラピーや、タスク指向のリハビリテーションが有効です。これらの方法は、損傷を受けた皮質脊髄路の再編成を促進し、選択的な運動制御を再獲得するのに役立ちます。

丸山さん:ミラーセラピーというのは、どういったものですか?

金子先生: ミラーセラピーは、患者が鏡を使って健側の動きを視覚的にフィードバックし、患側の動きを意識的に制御するトレーニング方法です。これにより、脳の可塑性を利用して、皮質脊髄路の再編成を促します。

丸山さん:それは興味深いです。タスク指向のリハビリテーションについても教えてください。

金子先生: タスク指向のリハビリテーションは、日常生活の中で使う動作を繰り返し練習する方法です。例えば、ボタンを留める、物を掴むといった動作を反復することで、脳の再編成を促し、選択的な運動を改善します。これも皮質脊髄路の損傷を受けた患者に効果的です。

丸山さん: なるほど、日常的な動作を使ったリハビリテーションで、皮質脊髄路の機能を回復させるのですね。

金子先生: その通りです。脳卒中患者にとって、皮質脊髄路の損傷による選択性の喪失は大きな課題ですが、適切なリハビリテーションを行うことで、ある程度の改善が期待できます。患者一人一人の状態に合わせた訓練を行い、少しずつ機能を取り戻すことが重要です。

丸山さん: 分かりました。非常に参考になりました。ありがとうございます!

金子先生: どういたしまして。これからも患者さんのために、最善のリハビリテーションを提供していきましょう。

論文内容

カテゴリー

上肢

タイトル

脳卒中後の指の動きの選択性

Selective Activation of Human Finger Muscles after Stroke or Amputation?PubMed MH Schieber et al.(2009)

なぜこの論文を読もうと思ったのか?

・脳卒中片麻痺患者のリハビリにおいて手指機能の改善が難渋するケースは多く、不使用や浮腫・疼痛を生じている方も多いと思われる。より手指機能の改善をセラピーで図れるよう手指機能に関わる知見を学びたく本論文に至る。

内 容

背景

・手の個々の指の動きは、筋肉の特定のセットの選択的な活性化を必要とします。このような選択的活性化は、主に皮質脊髄路を介した運動皮質によって制御されます。病変が皮質脊髄路に損傷を与えると、この選択性は失われるのでしょうか?

内容

・①健常者②ラクナ梗塞により純粋に皮質脊髄路を損傷した者における指の動きについて研究を実施した。

・これらの脳卒中から実質的に回復した後でさえ、指の個々の動きは屈曲/伸展および内転/外転双方に動きが減少したままであった。

・脳卒中者は指示された指の動きを正常範囲内に動かす能力を取り戻したが、他指の意図しない動きが増加した。この増加は、指同士の受動的な生体力学的結合の変化に起因するものではなく、むしろ意図した指を動かす筋の自発的な収縮は、他の指に作用する筋の不適切な収縮を伴う。これらの観察は、正常な皮質脊髄システムが、特定の筋を選択的に活性化するだけでなく、意図した指を動かす自発的な努力間に、他の筋の活性化を抑制することで、個別の指の動きを生じることを示唆している。

・他の研究では、指の筋の選択的な活性は、手首において虚血させることによる神経ブロックの影響を受けなかった。皮質が随意選択的にそれらを活性化する能力を変化させなかった。

・対照的に、皮質脊髄路に損傷を与え、直接皮質の制御から脊髄を遮断する病変は、EMG活性の選択的パターンを生成する能力の長期的な障害をもたらす。

明日への臨床アイデア

上記論文を基に臨床における手指の巧緻性トレーニング(選択的運動)のアイデアを下記に示します。

1. 個別指の選択的な運動練習

  • アイデア: 患者に各指を個別に動かすタスクを与えます。例えば、指一本だけで特定のボタンを押す、またはピンセットを使って小さな物を掴むといった練習です。
  • 方法:
    • 最初は視覚的なフィードバックを利用して、患者に正しい動作を見せます。次に、患者自身で指を動かす練習を繰り返し行います。
    • 患者が意図しない指の動きをしてしまう場合、その動きを最小限に抑えるために、他の指を軽く固定することもあります。
    • 反復して行うことで、患者は正しい運動パターンを再学習します。

2. 部分的運動制御の強化

  • アイデア: 運動中に意図しない指の動きを抑えるために、特定の筋肉の活性化と他の筋肉の抑制を練習します。
  • 方法:
    • 電気刺激やバイオフィードバックを使用して、意図的に動かす指に対応する筋肉を活性化し、意図しない指の筋肉を抑制します。
    • 例えば、患者が親指を動かす際に、他の指が動かないようにするために、電気刺激を使用して不要な筋肉の活性化を抑えることができます。
    • また、ミラーセラピーを使い、反対側の健常な手の動きを見せることで、脳に正しい動きを意識させます。

3. 機能的タスクの練習

  • アイデア: 患者の日常生活に必要な機能的なタスクを模倣した練習を行い、実用的な運動能力を向上させます。
  • 方法:
    • 具体的には、靴のひもを結ぶ、ボタンを留める、ペンを持って字を書くなどの動作を練習します。これらの動作は、指の個別の動きと選択的な筋肉の活性化が必要です。
    • タスクの難易度を調整しながら、最初は簡単な動作から始め、徐々に複雑な動作に移行します。
    • 患者の進捗に応じてタスクを変更し、成功体験を積み重ねていくことで、モチベーションを高めます。

4. 協調運動の強化

  • アイデア: 複数の指を同時に使う運動を通じて、協調運動を強化します。
  • 方法:
    • ピアノの鍵盤を指で押す、またはパソコンのキーボードをタイピングするなど、複数の指を同時に使う動作を練習します。
    • 患者が指を正確に動かせるようになるまで、指導と反復練習を行います。
    • 徐々に速度や正確さを要求することで、協調運動の精度を向上させます。

5. 感覚フィードバックの活用

  • アイデア: 感覚フィードバックを用いて、患者の運動パフォーマンスを向上させます。
  • 方法:
    • 指先の触覚刺激を提供するために、さまざまなテクスチャーの物体(例えば、砂、豆、小さなボール)を使います。
    • 患者に目を閉じてもらい、触覚のみに頼って物を掴む練習をさせます。これにより、感覚フィードバックが強化され、指の選択的な運動が改善される可能性があります。
    • また、視覚フィードバックを利用して、患者が自分の指の動きを確認できるようにします。

6. 逐次動作の分解と練習

  • アイデア: 目標動作を逐次動作に分解し、それぞれを個別に練習します。
  • 方法:
    • 例えば、ペンを持つ動作を、指でペンを掴む→ペンを持ち上げる→紙にペンを置く、という3つの動作に分解し、それぞれを練習します。
    • それぞれの動作が正確に行えるようになったら、全体の動作としてつなげて練習します。
    • 分解した動作ごとにフィードバックを与え、正確な動きを学習させます。

7. 注意力の訓練

  • アイデア: 患者が指の動きに注意を集中させるように訓練します。
  • 方法:
    • 音声ガイドを使用して、患者に特定の指の動きを指示し、意図した動きを強調します。
    • ゲームや課題を使用して、患者が集中力を維持しながら、指の動きを正確に行う練習を行います。
    • 注意が散漫にならないように、短い休憩を取り入れながら、訓練を進めます。

これらのアイデアや方法を活用して、脳卒中患者の手指の選択的な運動を効果的に改善できるように取り組んでください。患者の状態や進捗に応じて、適切な調整を行いながらリハビリテーションを進めることが重要です。

セラピー場面の提示

手内在筋への刺激から手指の伸展を強化

① 有頭骨から中手骨にかけて骨を引き出し縦アーチを構築。その後、母指球筋と小指球筋を広げ、斜めアーチ、横アーチを意識しました。
② 虫様筋、骨間筋へ刺激を入れながら活性化を図り、同時に指腹から感覚入力を実施。
③ 繰り返し実施することで、手掌への感覚入力と手指の伸展を強化しました。

新人療法士が手指の巧緻性トレーニングを行う際のコツ

脳卒中患者の手指の選択的な運動をリハビリで改善させる際の注意点やポイントを新人療法士向けに10項目にまとめました。これらのポイントを押さえて、効果的かつ安全なリハビリテーションを行いましょう。

1. 個別評価の重要性

  • 患者ごとに脳卒中の影響は異なります。手指の筋力、可動域、感覚、協調性などを詳細に評価し、個別のリハビリプランを作成することが重要です。

2. 選択的運動の指導

  • 患者が手指の選択的運動を適切に理解し、正しく行えるように、具体的な指導を行います。特に、どの筋肉を使ってどの動きをするのかを明確に示しましょう。

3. 適切な負荷設定

  • トレーニングの負荷が高すぎると、患者が不正確な動作を学んでしまう可能性があります。患者の能力に応じた適切な負荷を設定し、徐々に負荷を増やしていくことが重要です。

4. 感覚フィードバックの活用

  • 手指の感覚を高めるために、視覚的、聴覚的、触覚的なフィードバックを提供しましょう。ミラーセラピーや音声指導、触覚刺激などを用いることで、患者が動きを確認しやすくなります。

5. 機能的タスクを利用した練習

  • 日常生活で必要な動作を中心にリハビリを行うことで、患者のモチベーションを維持しやすく、実用的な運動能力の向上につながります。具体的には、ボタンを留める、ペンを握る、カップを持ち上げるなどの動作を練習しましょう。

6. 非麻痺側の手指も含めたトレーニング

  • 非麻痺側の手指も一緒に訓練することで、脳の可塑性を活かし、麻痺側の回復を促進します。両手で同時に行う動作や、左右交互に行う動作を取り入れると効果的です。

7. 不正確な動作の修正

  • 患者が不正確な動作をしている場合、そのまま続けさせるのではなく、すぐに修正を加えましょう。不正確な動作が定着しないよう、正しい動きを繰り返し練習することが重要です。

8. 段階的な課題設定

  • リハビリの課題は、患者の進捗に合わせて難易度を段階的に上げていくことが重要です。初めは簡単な動作から始め、徐々に複雑な動作や連続動作に移行します。

9. 頻繁な休憩とモチベーション維持

  • 長時間の連続したトレーニングは疲労を引き起こし、パフォーマンスの低下につながることがあります。適度に休憩を取り、患者のモチベーションを維持するよう努めましょう。

10. 安全性の確保

  • 手指の運動中に痛みや不快感が生じた場合はすぐに中止し、原因を確認します。無理な負荷をかけることなく、安全な範囲でリハビリを進めることが重要です。

これらのポイントをしっかりと理解し、患者の状態に応じた柔軟なリハビリテーションを提供してください。患者の進捗を見ながら、必要に応じてプランを調整することも大切です。

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