vol.156:脳卒中者の上肢とEMGバイオフィードバック 脳卒中/脳梗塞リハビリ論文サマリー
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カテゴリー
上肢、神経系
タイトル
脳卒中者の上肢に対するEMGバイオフィードバックの効果
The effects of training using EMG biofeedback on stroke patients upper extremity functions.?pubmed Kim JH J Phys Ther Sci. 2017 Jun;29(6):1085-1088. doi: 10.1589/jpts.29.1085.
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・フィードバック、フィードフォワード機構に興味を持ち、文献を探していたところ、本論文をみつけ、読んでみようと思った。
内 容
背景・目的
・脳卒中者の85%は片麻痺を伴い、上肢障害は69%に生じる。上肢により重い障害を呈することが多く、把持や物品の操作などに影響を及ぼす。
・上肢機能の回復のため、EMGバイオフィードバックが注目されている。これは視覚と聴覚情報のフィードバックによって筋肉の収縮を認識させ、上肢運動の再学習を図るものである。現状ではEMGバイオフィードバックに関する研究は少ないため、本研究ではEMGバイオフィードバックの効果を検証する。
方法
・発症から6カ月以上経過した30名の脳卒中者
・Brunnstrom’s motor recovery stages IV以上
・コントロール群は一般的なリハビリテーション(1回30分、週5回、4週間)
・EMG群は一般的なリハビリテーションに加え、EMGバイオフィードバックを行った(1回40分、週3回、4週間)。
・記録電極は総指伸筋に、接地電極(アース)は非麻痺側の尺骨遠位端に装着した。
・総指伸筋が選ばれた理由は、手指伸筋の機能回復が最も遅く、把持する前のpreshapingに必要だからである。
・プログラムは19個あり、それぞれが10分で構成されている。介入では4回分(計40分)行った。筋収縮の最大値と最小値を記録したが、プログラムの詳細については記載がなかった。
・アウトカムはFugl-Mayer assessment (FMA)、manual function test (MFT)、functional independence measure (FIM)を介入前後で計測した。
結果
・コントロール群はFMAとMFTで介入前後に有意な改善がみられた。
・EMG群は全項目で介入前後に有意な改善がみられた。
・FIMにおいて、EMG群がコントロール群よりも優位に改善を示した。
私見・明日への臨床アイデア
・群内では両群ともに上肢の機能向上が見られたが、群間では有意差は見られなかった。van Dijk (2005)がまとめたシステマテッィクレビューによると、EMGバイオフィードバックは有意差が出なかったとあり、今回の結果と一致するものだった。本研究の結果がでなかった理由を考察してみた。
・一つ目の理由として、本研究が総指伸筋のみに電極を装着し、バイオフィードバックを行っている点がある。手関節、手指の運動は総指伸筋が緩む、収縮するだけで成されるはずもなく、その他の手外在筋、内在筋、さらには肩肘関節との協調的な運動が必要である。アウトカムのひとつであるFugl-Meyer Assessmentにおいて、手関節、手指の項目では肩・肘関節の特定の肢位での手関節底背屈や、虫様筋握りやつまみ動作が可能かを評価しており、本研究の介入に対する効果をこのアウトカムで検出することは無理があるように感じる。
・二つ目として、フィードバック機構からフィードフォワード機構への移行が今回の介入では難しいと感じる。フィードバックは求心性情報により運動軌道を逐一修正する、比較的ゆっくりとした運動であるのに対し、フィードフォワードではあらかじめ小脳で用意された運動のプログラム(内部モデル)によって運動を遂行する比較的速い運動のことである。脳卒中者では脳損傷によりこの内部モデルが著しく変更されるため、フィードバックによる誤差情報を蓄積することで、新たな内部モデルを再構築していく必要がある(Domen and Osu、?)。しかし、本研究では常にバイオフィードバックがあるため、この情報に依存してしまい、フィードバックからフィードフォワードへの移行が成されないのではないかと感じた。また、フィードバックではゆっくりと、正確に運動を遂行しようとするあまり、主動作筋と拮抗筋の同時収縮が生じやすく、関節のスティフネスにつながるやすいともある(Domen and Osu、?)。これらの実験方法の問題から、機能的な向上が成されなかったのではないだろうか。
参考文献
K, Domen. and R, Osu. (?) Feedforward programs for upper limb of stroke patients. Available at:http://www.bekkoame.ne.jp/~domen/feedforward.html (Accessed: 6th July, 2017) (
Japanese)
van, Dijk.H. (2005) ‘Effect of augmented feedback on motor function of the affected upper extremity in rehabilitation patients: a systematic review of randomized controlled trials.’,Journal of Rehabilitation Medicine, 37(4), pp.202-211.
職種 理学療法士
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)